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うずめちゃんの神様days!  作者: 青星明良
第3巻 三大女神 地球最大の対決!?
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8 悲しみのカツ丼 (猿田くん視点)

 くっ……何ということだ。

 うずめをつけ狙う不届きな神を高天原たかまがはら警察署に転送しようとして、逆にオレが飛ばされてしまうなんて……。


 しかも、オレは今、警察の神とやらに取り調べを受けている最中だった。


「サルタヒコさん。いい加減、容疑を認めてください。あなたはアメノウズメさんをストーカーしていたのでしょう?」


「だーかーらー! オレは犯罪行為なんてやっていないと言っているだろう! 妻に悪い虫がつかないか心配で尾行したり、妻の愛らしい寝顔を見たくて寝室に侵入したりしただけだ! ストーカーなんかじゃない!」


「人は、それをストーカーと呼ぶのです」


「ぐ、ぐぬぬ……」


「それから、今は取り調べ中なのですから、そのふざけた天狗のお面は外してください」


「お、お面にさわるな、無礼者! お前はいったい何者なんだ!? 警察の神なんて、オレが黄泉の国に堕ちたころにはいなかったぞ?」


「僕ですか? ああ、僕が神になったのは明治時代のことですから、黄泉の国にずっといたサルタヒコさんとは初対面でしたね。これは失礼しました。

 僕は巡査じゅんさ大明神だいみょうじん。アマテラス様に、高天原の警察の全権を任されています。人間だったころの名前は増田敬太郎といいます。世界で唯一、殉職後に神としてまつられた警察です」


 明治期の警察の制服を着こみ、ちょびヒゲを生やした体格のいいその男神は、礼儀正しく自己紹介をした。


「僕は明治38年に佐賀県の巡査となって、唐津市の高串という地に配属されたのですが……。その土地ではコレラが流行っていましてね。住民たちの命を守るために奔走し、遺体の埋葬も一人でやってがんばったのですが、僕自身がコレラにかかっちゃいまして。あはは……」


「む……。それで亡くなり、神として祀られるようになったというわけか」


「まあ、悔いはないですよ。僕ががんばったことでたくさんの命を救えたみたいですし」


「なんと殊勝な心構えだ……。お前は立派な警察の神だ! 偉い! 素晴らしい! エクセレント! ワンダフル!」


「で、取り調べの続きなんですが……」


 ……くっそぉ~。おだてて取り調べをうやむやにしようと思ったのに……。住民を流行病から守るために殉職した元人間なだけあって、かなり真面目な性格のようだな……。


「あなたは人々を正しい道に導く『導きの神』なのですから、ご自身が犯した罪もちゃんと償っていただかないと……。そろそろ罪を認めたらどうです?」


「さっきから何度も言っているだろう!? オレはストーカーじゃない! ……だ、第一、お前はなぜオレがうずめを尾行したり、うずめの家に不法侵入したりしたことを知っているんだ!?」


「いま不法侵入って言いましたね?」


「あっ、しまった! ……なんて恐ろしい誘導尋問なのだ!」


「誘導尋問なんかしていませんって……。お昼頃に電話で通報があったんですよ。名前は名乗りませんでしたが、『サルタヒコ様がアメノウズメ様をストーカーしているコケぇ~』とね」


 通報したの、半蔵か!!!

 あの野郎、オレが「唐揚げにしてやる」とおどしたのを根に持って、こんなことを!! ちくしょう、帰ったら本当に唐揚げにしてやる!!


「それで、調査を開始しようとしていた矢先、サルタヒコさん自ら警察署に出頭してきたというわけです」


「こんなところ、来たくて来たわけじゃない!! ……頼むからオレを見逃してくれ。今すぐ戻らないと、妻がストーカーに……」


「いや、ストーカーはあなたでしょう?」


「ストーカーが別にいたんだよ! そいつがかなり強い力を持った神で……」


「ストーカーが別にいる、ということは、ご自分がストーカーだということは認めるんですよね?」


「あ、揚げ足をとるなぁぁぁぁぁぁ!!!」




            ☆   ☆   ☆




 それから一時間後。オレは取り調べ室で泣きながらカツ丼を食べていた。


「う、う、う……。つ……罪を認めます。もうストーカーなんてしません。だから、妻の元に帰してください。お願いします。ぐすん……ぐすん……」


「うん、うん。奥さんのことが心配だという気持ちはよく分かりますよ。でも、もう二度とストーカー行為なんてやめてくださいね。……あと、食事中ぐらいお面をはずしたらどうですか? お面にご飯つぶがたくさんついてますよ」


 巡査大明神・増田敬太郎の根気強い取り調べについに屈したオレは、完全に心が折れて罪を認めてしまっていた。……まさか、何千年も神をやっていて、警察署で泣きながらカツ丼を食うはめになるとは……。


「今回は初犯ですし、神様の世界ではあまり細かな法律はないので、本人が十分反省しているのなら数日で解放してあげられると思います。その間、留置場で大人しくしていてくださいね」


「うえっ、うえっ、うずめに会いたいよぉ……。寂しくて死んじゃうよぉ……。うえぇぇぇぇん」


「そんなに泣かないでください、サルタヒコさん。後でちゃんとうずめさんに連絡しておきますから。きっと面会に来てくれますよ」


 増田は、幼児退行して泣きじゃくるオレを優しくなぐさめた。そして、オレが少し落ち着くと、神使の狛犬こまいぬたちに命じてオレを留置場に移動させるのであった……。





「はぁ……。うずめはあの不気味なストーカーから逃げられただろうか……」


 幼児退行の状態からようやく戻ったオレは、檻の中で一人呟き、うずめの身を心配した。すぐにでも助けに行ってやりたいが、今の霊力が少ないオレでは導きの矛を一日に一回しか使用できない。


「ここから脱獄するにしても、霊力が回復する明日の夕方ごろまで待たなければならないか……」


「脱獄なんてしたら、罪がさらに重くなるからダメですよぉ~」


 檻の外から聞き覚えのある声がして、オレは「えっ!? あ、アマテラス様ですか!?」と叫びながら鉄格子ににじり寄った。


「アマテラス様、どうしてここに!?」


「神が高天原警察に逮捕されると、敬くん(増田敬太郎)がわたしに連絡を入れることになっているんですよ。

 ……それにしても、あなた……。こんなひどい目にあって……」


 アマテラス様が言葉につまり、目をうるませた。


 ど、同情してくれるのですか、アマテラス様? オレのことを憐れんでくれるんですね……!!


 アマテラス様の涙を見たオレは感激のあまりブワッと大粒の涙を流し、「た、助けてください、アマテラス様!!」とすがった。


 もうこうなったら、恥も外聞もかなぐり捨てて、太陽神のコネでここから出てやる!


 ……と、オレは思ったのだが……。


「うっ……ぐすっ……さ、最高です、サルタヒコ。人を正しい方向に導く神様のくせして、自分が間違った方向に突っ走って逮捕されちゃうなんて……。体を張った渾身こんしんのギャグ、最高ですよ……!」


 アマテラス様は体をプルプル震わせて泣き笑いし、スマホを懐から取り出した。


 カシャカシャカシャカシャ!!


「れ、連写で撮らないでください!! それにギャグのつもりで捕まったわけじゃないですから!!」


 オレは情けない声を上げてそう訴えたが、アマテラス様はまだ笑っていて、「トヨちゃんにサルタヒコの写真送っちゃおーっと♪」などと言いながらスマホを操作している。


「こんなみっともない姿、誰かに見せようとしないでください! あと、ネットで拡散とかは絶対にやめてぇぇぇーーー!!!」


 オレは必死になって叫んだ。アマテラス様がネットリテラシーをちゃんと勉強しているようには見えなかったからだ。


「ネットで拡散なんてひどいことはしないですよぉ~。失礼しちゃうなぁ、もう」


「お友達の女神にオレの写真を無断で送ろうとしている時点で信用できませんよ! ……アマテラス様、こんなことをしている場合ではないのです! オレをここから出してください! うずめが何者かに狙われていてピンチなのです!」


「うずめの命を狙っているのは、あなたもよく知っているウカちゃんですよ。それぐらいのこと、すでに把握して対処済みですし」


「……え? う、ウカ様がなぜうずめを……!?」


「今、うずめのそばにはトヨちゃんとタヂカラオ、アメノイワトがいますから、あなたは安心して豚箱生活を満喫してくださいね☆」


 そう言いながら可愛くウィンクし、去ろうとするアマテラス様。オレは「ま、待ってください!」と叫んだ。


「一生のお願いだから、ここから出してください!!」


「ダメでーす。乙女の寝所に忍びこむエッチな天狗にはお仕置きが必要なんでーす。うずめはいま精神年齢が思春期真っ盛りの13歳の女の子なんですからね? ここで三日ほど反省して、デリカシーというものを身につけなさい☆」


 むむむ……。た、たしかに、オレの行動はいささかデリカシーに欠けていたかも知れない……。

 うずめは、女神だったころの記憶がほとんどなく、心の中はどこにでもいる普通の少女なのだ。オレは、うずめのそばにいてあいつの笑顔を守るためにも、もっと人間の常識を知らなければいけないのだ……。


「……わ、分かりました。そのかわり、うずめのことを守ってやってください。なにとぞ、よろしくお願いいたします」


「それは分かっていますよぉ~。うずめは、わたしにとっても大切なお友達なんですから」


 アマテラス様は最後に優しい声でそう言うと、今度こそ帰ってしまった。


「……トヨウケビメ殿がそばにいるのなら、ひとまずは安心か。ウカ様がなぜうずめの命を狙っているのかは分からないが、食物神の仲間であるトヨウケビメ殿と争うことは避けたがるはずだから……」


 アマテラス様がいなくなった後、オレはそう独り言を言った。トヨウケビメ殿が少しでも自分のそばから離れることを嫌がるアマテラス様が、うずめの元に彼女を派遣したのも、そういう作戦なのかも知れない。


 ……それにしても、あのお優しく(・・・・)物静かで(・・・・)気配り上手(・・・・)とても大人な(・・・・・)女神であるウカ様がどうして我が妻に悪意を抱いているのだろう。それが不思議だ。


 オレが黄泉の国に堕ちている二千年の間に、何かあったのだろうか?








<雑談コーナー:うずめ×増田敬太郎>


うずめ

「増田さんは佐賀県唐津市の増田神社で祀られているのよね? 生まれも佐賀県?」


増田

「僕の故郷は熊本です。警察になりたくて佐賀県警察学校に入り、10日で警察官教習課程をパスしました」


うずめ

「え!? 10日!? 昔はそんなに短い期間で警察になれたの?」


増田

「いえ、普通は3か月ほどかかるそうです」


うずめ

「ほえ~。優秀だったんだねぇ~」


増田

「そして、警察官になって7日目で任地に赴き、着任してから4日目でコレラで死にました……」


うずめ

「なんかすごい駆け抜けた人生だったのね……」


増田

「数日の人命救助でかなりの数の命を救えたらいしので悔いはないであります! これからは高天原の都の治安を守ることに全力を尽くします!」


うずめ

「……全力を尽くした結果、猿田くんは逮捕された、ということね……」

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