『花の城の音姫』 ~音の章~ 其の二
春を迎える頃、花の城と呼ばれるこの城下は一層の賑わいを見せる。
城主たる父様の指示で、城下は花が大量に植えられているのだ。
実際の所、春だけでは無く夏の花、秋の花・・・色々と植えられているのだが、やはり春が一番良い。
儂は、そんな春の昼下がりを縁側でぼーっと過ごしている。
だんだんと眠くなってくる。
こくりこくりと舟をこぐ。
「・・・音姫様。幾ら春だとはいえ、こんな所で寝ては風邪をひきます。」
気持ちよくなってきたところを、華に起こされた。
「むー華か、儂は眠い。寝させろ。」
「いいえ、そうは行きません!今日はこれからお稽古ごとの筈。」
「何処にいるのかと、探してみれば・・・」
そういえば午後に何かあった気がする。
でも、眠いのだから仕方がない。
儂は目を閉じ、春の暖かな風に身をゆだねる。
「ですから、音姫様!!」
がっくんがっくんと揺らされ、儂はたまらず目を覚ます。
「何をするのじゃ!華!!」
「音姫様はこうでもしないと起きません!!」
「大体ですね・・・」と、また華の小言が始まる。
「はあ・・・分かった、分かったのじゃ。」
「それで・・・なんの稽古だったかの?」
「はい、音姫様。午後からは・・・」
と、華が言いかけた所で、別の女中がやって来た。
「音姫様。御殿様が御呼びです。今日はお稽古事は良いので、至急来て欲しいとの事です。」
「そうか、そうか、父様に呼ばれては仕方がないのじゃ。直ぐに参ると伝えよ。」
「華。」
「はい。直ぐに準備を致します。」
華に手伝って貰い、着替えを済ませると父様のいる会所へと向かう。
「音。参りました。」
「来たか、姫。」「参りましたね。音。」
会所に入り挨拶を済ませる。
「父様・・・それに、母様も、一体どのような御用でしょう?」
「うむ、その事なのだが・・・近々戦が起こると思われる。」
「戦・・・でございますか?それは、隣国の・・・でしょうか?隣国との関係は良好に思われますが・・・」
「隣国では無い。夜魅と呼ばれる物の怪との戦だ。」
「物の怪・・・でごさいますか?」
物の怪。古くから言い伝えにはある。
この辺りだと・・・大河童という物の怪の話や船幽霊と言う話を聞いた事がある。
「しかし、物の怪はお伽噺の事でしょう?」
「いや、物の怪・・・夜魅は実在する。歴史の裏で時の陰陽師達が人知れず戦っておったのだ。」
「この辺りは、柏木、入間と言う2つの陰陽師の一族が守っておったが、富士に強大な夜魅が現れ、その対処に向かった矢先にこちらにも手ごわい夜魅が出現との事だ。」
「大丈夫ですよ。音。まだこの国にも隣国にも物の怪が入ったという話は聞きません。柏木や入間が富士の物の怪を退治し、直ぐに此方に戻ってくるでしょう。」
「かといって、警戒を怠るのは愚かだ。国境に兵力を回し監視体制を強化する。」
「姫も何時戦が始まろう覚悟をしておくのだ。」
「はい。父様。」
戦が始まる。
それも、人同士では無く人と物の怪の。
父様の心配は的中した。
これよりひと月程経った頃、隣国は一匹の物の怪によって滅ぼされた。




