『花の城の音姫』 ~音の章~ 其の一
今より昔。
てうしの地にそれは美しい姫が居たと言う。
その姫の名前は『音』。
音姫の住む城は、春には桜や菜の花、夏には百合、秋には秋桜・・・それは美しい花が咲き乱れ『花の城』と呼ばれていた。
陽は当に昇り、朝・・・という時間にしては少し遅めの時間。
儂は布団の中で惰眠を貪っている。
この時間がたまらない。一番気持ちの良い時間と言っても良いじゃろう。
「音姫様。もう起きてください。御稽古ごとのお時間ですよ。」
そんな時間を奪うかのように女中の声が聞こえる。
儂はそんな女中の声に、うっすらと瞼を開けるがまた布団に潜り込み・・・
「今日は体調が悪いのじゃ、休むと伝えよ。」
と言って瞼を閉じる。
はぁぁ・・・と大きなため息が聞こえ、儂の布団は一気に引きはがされた。
「なっ何をするのじゃ!華!!」
女中・・・華は、悪びれもせずしれっとした態度。
「お目覚めになりましたね。音姫様。」
「ささ、お召し物を変え、御稽古に参りましょう。先生ももうお待ちですよ。」
「じゃから、儂は体調が悪いと・・・」
「お、と、さ、ま。仮病を使うのもいい加減になさいまし。」
「お稽古事は、将来、音姫様がお輿入れになる時に、役に立つものです。しっかりと身に着けていただかねば・・・」
華の小言が始まったので、たまらず耳をふさぐ。
そんな儂の手を耳からはがし、小言を続ける華に儂は降参した。
「もう、分かったのじゃ、着替えるから手伝え。」
「はい、音姫様。」
と華はにっこりと笑った。
今日は、お華(女中の華ではない。)とお琴の稽古。
一体これが何の役に立つのだ?と思っているが口には出さない。
また、華の小言が増えるからだ。
稽古が終わり、やっと有りついたご飯。
「音姫様がちゃんと起きていれば、朝も食べられたのです。」
・・・そうだった。
午後になり、華を伴って城下を散策する。
父様も母様もこういう所には五月蝿くない。むしろ城下へ出て民と交流しなさいと逆に言うくらい。
そういう方針な為か、父様や母様に対する民の人気は高い。
儂も・・・皆に好かれていると思ってはいる。
暫く散策していると、店先に出している屋台に気が付いた。
「華、あれは何じゃ?」
「音姫様。あれは『今川焼』という物です。」
「あの中にはたっぷりの餡子が詰まっており、たいへん美味です。」
「ほう! それは美味そうじゃのぅ。」
儂は屋台に近づき、まじまじと観察する。
鋳物の型に生地を流し込み、餡子を乗せ焼いているよう。
「おお、確かに美味そうじゃ!」
「姫様。お一つどうですか?」
「うむ、貰おうかの。」
儂は店主より『今川焼』とやらを貰い、ぱくりとかぶりつく。
「あつつつ」
口に入れた『今川焼』・・・中の餡子はとても熱かった。
「ひ、姫様、おあついのでゆっくりと食べてくだされ。」
「・・・先に言って欲しかったのじゃ。」
「音姫様。見れば分かると思いますが?」
「むぅ。」
しっかし・・・これはこれは・・・甘すぎない餡子といいこの皮?もとても美味だのう。
うむ、これは是非・・・”しろあん”と言うのも試さねばなるまい。
「店主。このしろあんと言うのも・・・」
「はい姫様。どうぞ。」
儂はしろあんを受け取ると、今度はちょこっとづつ食べる。
こちらも出来立てほかほかでとても美味。
「姫様。そんなに食べますとお夕食が食べれなくなりますよ。」
「むー美味しいから仕方がないのじゃ。」
儂はしろあんもぺろりと平らげ、さらにお土産にと何個か包んで貰った。
その後当然が如く・・・夕食は喉を通らなかった。
そんな平和な日常。何時までも続けば良いと思える日常・・・




