『千重の桜』 ~華音の章~ 終
私は意識を・・・”私”に戻す。
人形の体は消滅した。代わりの人形はもう無い。
唯一、黒猫の『かのん』にならば魂のほんの一部・・・いや、ひとかけらを移す事が出来よう。
私の瘴気から生まれた夜魅とも呼べる猫だとしても。
階段を下りてくる音が聞こえる。
狐だろう。
もう、外への扉は閉ざされてしまった。この場を動けない私以外であの扉を開ける事が出来るのは、鍵を持った海魔か花子くらいだろう。
「狐。」
私のいる広間まで下りてきた狐に声を掛ける。
「姫。無事だったか。」
「いや、無事では無い。」
「あの人形は消滅してしまった。夜叉姫を道連れにしてな。」
「そう・・・だったの。姫は、此方が本当の姫・・・だったの。」
私は頷く。
私の姿は黒い大きな獣。狐も昔はこの姿を見て、逃げ出してしまった。
今は・・・驚いたもののそう言った事は無い事に少し安堵する。
「なんとか、夜叉姫の念を追い、夜魅の王の場所は特定が出来そうだ。」
「だが・・・」
もはやその必要もないだろう。
私も夜魅の王にも次の一手が無い。
お互いに封印された(る)身。暫くは様子見になるだろう。
それが・・・数年なのか、数百年なのかは分からない。
「待つしかあるまい。」「ここを開けてくれるモノをな。」狐は言う。
此処に来るのは・・・海魔になるのか、花子になるのか・・・それとも・・・香奈か。
私は手をおいでおいでと振り、ちょいちょいと自分の隣を差す。
人型だった狐は白子の姿になり、私の横に座る。
「狐。」
「待っている間、話でもしようか。」
「そうだの、昔みたいに。」
『祠』の扉が開くのは・・・そう遠い話ではない。




