『千重の桜』 ~華音の章~ 其の五
翌日。
狐と花子にそれぞれ、香奈の様子の確認と店の様子と『かのん』を見に行くように伝え、私自身は『桜』の元に残った。
・・・いや、残らざる得なかった。
最近、無理をしすぎた。この人形はもう限界が近い。
恐らく、この戦いで・・・
「音。」
「千重か。どうした?」
「・・・いえ、もう限界ではないのですか?」
千重にはわかってしまっている様だ。思えばこの人形も、前の人形も千重が用意してくれたものだ。
「・・・そうだな。だが、刺し違えてでもここに来た夜魅を倒してみせるさ。」
「貴女に合った人形は、それが最後です。本来ならば、体の方の転生体を見つけられれば・・・」
「転生体か。」
私は死んだ。死してその魂は夜魅になった。魂は輪廻の輪を外れ『現世』にとどまっている。
だが、体の方は・・・転生を繰り返し、今は・・・恐らく、彼女が・・・
「それは出来ない。その為の『かのん』だ。」
「黒猫の体では不便ですよ?」
「まあ、その時はなんとか次の人形を探すさ。」
「とりあえず今は・・・少し休む事にする。」
「そうですね。私も事が済み、音を封印するその時まで休む事にします。」
「・・・負けないで下さいよ?」
「ああ、勿論だ。」
私は『桜』に寄りかかり、眠りに落ちた。
目を覚ますと、夕暮れ時となっていた。
こきこきと体をほぐし、じっと『桜』を見上げる。
満開の『桜』私の封印はもう直ぐ解ける。
「お、皆来たのか。」
祠の扉が開き、狐、花子、そして香奈がやって来た。
「華音さんっ」
「香奈。久しぶりだな。」
「うんっお店に行っても全然いないんだもんっ」
「すまなかったな。」
「ちと・・・野暮用でな。」
「野暮用とはな。これだけの事をしておいて・・・」
「なんだ、狐も来ていたのか。」
「なんだはないだろう、なんだは。」
不機嫌そうに口をとがらせる狐。
「華音様。そろそろ香奈ちゃんに説明してあげた方が・・・」
花子に言われ、私は事の顛末を香奈に話す事にした。
とりあえず、香奈の身の安全はある程度確保されただろう。
「おっと・・・そうだな。」
「香奈。今回の事は凄く危険が伴ったので、話さなかった。」
「それに、何度も店に足を運ばせて悪かったな。」
「ううん・・・それはいいの。」
「・・・では、今回の・・・てうしに起こっていた事を話そう。」
事の始まりは『楔』。そして夜魅・・・夜魅の王。
其れにより訪れるであろう危機。『常世』の浮上による『現世』の崩壊。
さらには、夜魅の性質や行動理由なども。
しかし、私自身の事や私自身を囮に使う事については話さない。
香奈は、「あれ?あれ?音姫が華音さんで・・・桜が桜井さんで・・・」とあまり分かっていないようだが。
それについての説明をどうしようかとあぐねていると、見知らぬ声が聞こえる。
「そこから先・・・話してもいいのか?」
「お前の為にならんと思うぞ?」
音も立てずに結界に侵入するとは・・・
般若を模した面を被った姫のような夜魅。
「ほう、これは大物が釣れたようだな。」
「・・・夜叉姫。」
「流石に、わらわを知っておったか。」
「ならば、何をしに来たのかも分かるじゃろうて?」
「花子。」
「今すぐ、香奈を連れてこの場を離れるんだ。」
花子は無理やりに祠の扉に香奈を押し込むと、自身も入り込む。
それを確認すると、私は夜叉姫と対峙する。
「狐っ!手伝え!!」
「まったく・・・狐使いが荒いのじゃ」と言いつつ、狐も臨戦態勢を取った。




