『千重の桜』 ~華音の章~ 其の四
1週間程たった。
漸く私達は結界の準備を終えていた。
「しかし、姫よ。結界を張るとは、千重さんの結界だけじゃ『祠』は守れんという事か?」
「いや、これは誘いだ。」
「今居るような、雑魚じゃ結界は破れんが、やつらが入れんような大きな結界を張れば、大物が出ざるを得まい。」
「それに・・・」
「香奈達も安全になるだろうからな」
「誘いか・・・」
「先ず結界は2段構えとする。一つはてうし全体。此れは、雑魚が入れなければよい。」
「もう一つは、『桜』周辺。大物以外入れん様にし、ここに誘い出す。」
「それは、危険な賭けじゃないか?」
「うむ、だが、時間が無い。」
「海魔に調べさせていたのだが、海底に『楔』が4本確認された。」
『楔』を使い『常世』を『現世』に引っ張り上げる。
『常世』の夜魅は『現世』に溢れ・・・人の世は終わりを告げる。
4本程度の『楔』で『常世』を引っ張り上げる事は出来まいが、私のチカラを利用すればそれも可能だろう。
私を殺し、その瘴気を溢れさせれば。
本来ならば、私など封印してしまえば良いのだが、私のチカラが無くともいずれ事はなされてしまうだろう。
故に私自身を囮に使う。
封印が弱まり、私自身が完全に覚醒していないこの時期を利用して。
「姫、儂は何をすればいいのじゃ?」
「狐は、花子と共に、てうし全体を包む結界を頼む。」
「私は、千重と共に『桜』周辺に結界を張る。」
千重はまだ眠っているがな。
最悪は、私自身でもある程度の結界は張れるだろう。
「分かった。行くぞ、花子。」
「え、ちょっと・・・ここちゃんが仕切るのぉ??」
私の命を受けると、狐は山道を駆け下りる。
「待ってくださいよぉぉぉぉ」
花子も慌ててそれを追いかけて行った。
「頼んだのじゃ。愛しい子狐。」
私は、昔の口調で呟いた。
「千重・・・千重・・・起きているか?」
私は『桜』に語り掛ける。
「ええ、起きていますよ。」
ぼぅっと『桜』から巫女装束に身を包んだ少女、千重が姿を現す。
「じゃあ、早速始めよう。」
「ええ。」
その夜、眩しい光がてうし市を包み込んだ。
私と千重、狐と花子の張った結界は、弱き夜魅を祓い、全ての準備が整ったのだ。
その光は一瞬の事。直ぐに夜は静寂を取り戻したのだった。




