『千重の桜』 ~華音の章~ 序
世の中に『不思議』な事は結構ある。
例えば『私』。そして夜の闇に妖しくも咲きほこる『桜』。
そんな私が『不思議』を扱う『何でも屋』を何て事をしているのは『不思議』じゃないのかもしれない。
「音。」
『桜』の下に、少女が居る。
巫女装束に身を包み、あの頃と変わらぬ姿の少女が立っている。
「千重か。久しぶりだな。」
「ええ。久しぶり。」
千重。桜の少女。桜になった少女。
私を封じる為に桜になり、この地を、ひいてはこの世を守っている。
「千重が”居る”という事は、先程の『桜』は・・・”そういう事”・・・なんだな?」
「ええ。封印が解けかかっている。」
私の封印が解ける事は即ち、この世に災いをもたらすモノの解放を意味するのだが、前に封印が解けた時に子狐のおかげもあり、私は理性を取り戻す事が出来た。
私は封印が解けても、この・・・『祠』の奥・・・地下からは出る事は無い。
しかし、封印が完全に解ければ、私からあふれ出す瘴気はこの地に災いをもたらすだろう。
私は、最悪の獣。千重によって体は滅ぼされ、岩となったが魂は不滅。新たな肉体を得れば即座に復活する。
私は、最悪の獣。・・・最悪の夜魅だ。
「封印の準備は?」
「そうね。後1週間はかかるわ。」
1週間か。その間この僅かながらの封印を守りきれれば・・・あの、楔を打った夜魅の王から。
いや、まて。これはチャンスにもならないだろうか?恐らくだが、”私と同じ”で夜魅の王も動く事は出来まい。
配下を使って楔を打っているのも、己の世界、つまりは常世を現世に引っ張り上げる為だ。
配下を誘い出し、これを撃退。楔を全て破壊すれば数百年の単位で時間が稼げる。
「千重。考えがある。」
「封印を少しだが、遅らせられないか?」
「遅らせる?それは、この地を、そして音自身も危険にさらす事になるのよ?」
「分かっている。だが、やりたい事がある。」
私は千重に説明をした。
恐らく、このままにしておけば、私のチカラを欲する夜魅の王が尖兵を送り込むだろう。それを確認後、封印はそのままに2重の結界を張る。
一つ目は尖兵をこの地に入れないための物、もう一つは『桜』周辺に強い夜魅でなければ入れない結界を張る。
尖兵が近づけなくなった事に気が付き、それでも私のチカラを手に入れる数百年に一度のチャンスだ。当然強力な・・・側近の夜魅を送り込んでくるだろう。
それをここで撃退する。その後に楔を破壊・・・此れは海魔に頼む事になるだろうが・・・する。
「勝算は?ここで失敗する事が何を意味するのか分かるでしょう?」
「子狐・・・次第だな。」
「そう・・・分かったわ。のりましょう。」
千重は子狐に信頼をおいている。私の理性を取り戻させた事、そして現在も修行中ながら白狐にまでなっている事がそうさせる。
「あの子も・・・もう、子狐なんて呼べないわね。」
「・・・そうだな。」
・・・
・・・
・・・
「あのう・・・私、すっかり置いて行かれてるんですけどぉ?」
空気の読めない花子だった。
・・・
・・・
・・・
寧ろ、すっかり忘れていた。




