『学校の七不思議』 ~花子の章~ 其の二
・・・どれ位の時が過ぎたのだろう。
私の意識は闇と同化し、何処にいるのか?そして、私というモノの存在すらも良く分からない。
私は多分死んでしまったのだ。でも、私の意識は今ココにある。其れはどういう事なんだろう?
ひょっとして、幽霊になったのかもしれない。
幽霊って多分だけど、恨みとか妬みとか・・・または、心残りな事とかあったらなるんじゃなかったっけ?
幽霊の知り合いでもいる訳では無じゃないから、本当の所は分からないけど。
私の場合は?
・・・
・・・
・・・
あの子達が憎い。
私は何も悪い事はしていない。あの子達が面白半分で気の弱いあの子をいじめた・・・私はそのとばっちりみたいなものだ。
そうだ、そうなんだ。私はあの子達が・・・いじめっ子達が憎いんだ。
だから幽霊・・・いや、怨霊になったんだ。
怨霊になった私は、あの子達を呪い・・・殺すんだ。そうだ。殺しちゃうんだ。
そう、同じようにトイレに閉じ込めよう。それで、泣き叫んでも出してあげないんだ。その後、火が回って来て、煙を吸い込んで苦しくて・・・
出してっ出してっここから出してよって泣き叫んでも出してあげない。
あははは・・・あはははは・・・アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
・・・
・・・
・・・
時が過ぎた。
私はまだココに居る。ココから出られなければ、あの子達を殺せない。
深い、深い闇の中。私の意識だけがココにある。
・・・
・・・
・・・
こんこんっ
扉を叩くような音が聞こえる。
私は辺りを見回す・・・と言っても、体が在るのかも分からない。意識的に辺りを探ってみる。
扉は何処にもない。気のせいかも知れない。
こんな闇の中に意識だけで存在する私はとっくに狂ってしまったのだ。
こんこんっこんこんっこんこんっ
なおも聞こえる音。気のせいでは無い。
扉は・・・無い・・・??
いや?光だ。長方形・・・いや、あれは多分扉が開いたんだ。其処から光が漏れたのだ。
そして聞こえてくる声。
「花子さん居ますか?」
私を呼んでいる。私はココにいる。外に出られるのだ。この暗い闇の底から。一筋の光を目指し私は進んだ。
光が薄らいでいく。閉まる。扉が閉まってしまう。外に出られなければ、あの子達を殺せないじゃない?
・・・やがて光は闇に呑まれ消えた。
・・・
・・・
・・・
時が過ぎた。
其れからも、扉の叩く音は聞こえた。そして光も。
こんこんっこんこんっ
ほら、まただ。
もう、いじめっ子の事なんて、どうでもよかった。
ココから出たい。
私は、それだけしか考えていなかった。
こんこんっ・・・こんこんっ
そうだ。声だ。声を掛けてみよう。暫く出していないから、上手く出るか分からない。
そもそも、意識だけの私に声を出す事が出来るのかどうかも。
「花子さん居ますか?」
・・・
・・・
・・・
出ない・・・声が出ない・・・光が薄らぐ。
出さなきゃ・・・声を・・・私はココにいる。長い。そうだせめて返事だ。
私は声を出そうと必死になる。
ああ、光が・・消える・・・
「は・・・・ぁ・・・い」
しわくちゃで・・・消え入りそうな声。
でも確かに声が出た。
・・・しかし、光は消えてしまった。
いや、遠くで悲鳴の様な物が聞こえた気がする。あの光の先は、確かに外に繋がっているのだ。
次こそは・・・次こそは、私を見つけて貰うんだ。
そして・・・
・・・
・・・
・・・
時が過ぎた。
私はまだココに居る。何度も何度も返事をした。しかし・・・其れだけだった。
私はココから出る事は出来ない。出られない。そう・・・出られないんだ。
・・・
・・・
・・・
時が過ぎた。
私はまだココに居る。
・・・
・・・
・・・
時が過ぎた、
私はまだココに居る。私はまだココに居る。私はまだココに居る。私はまだ・・・
「・・・見つけた。」
「もう大丈夫だ。」
「さあ、私の手を掴むんだ。」
唐突に聞こえた声と共に差し出された白い手。
光の向こうに幼い少女の顔が見えた。
「ぁぁぁぁぁぁぁ・・・・」
声が出ない。
「て・・・てんし・・・さま?」
やっと絞り出した声。
「違う。」
「でも・・・お前を助けに来た。」
「さあっ」と言ってさらに手を伸ばす。
私は・・・その白い手を掴む。
ぐいっと引っ張られる感覚。暗い闇から光の中へ。体の感覚が戻る。意識は闇から光へ其処は・・・
見慣れない場所。でもそこがトイレだという事は分かった。
私はずっと・・・あの時からずっと、トイレの中に居たんだ。
そして、この子・・・私より下の学年かな?この子が私を助けだしてくれたんだ。
「・・・お前、失礼な事を考えているだろう?」
私には何の事か分からない。
「言っておくけど、私はお前よりずっと年上だからな!」
「私の事はちゃんと敬う様にな。」
え?そこなの?って思ったけど、きっとこの子は私よりずっと上の存在なんだと何故だか理解できた。
怨霊になった私を、闇から救い出したこの子は。
「・・・は・・・い。」
うんうん。と納得するかのように頷く。
「まだ名乗っていなかったな。私は『華音』だ。」
「一応・・・この辺りの『土地神』という事になっている。」
『土地神』・・・つまりは神様。みたいです。
「はい・・・華音さ・・ま。」
少しうまく声が出た。
「花子。此れからお前は私の属神として・・・」
華音様が難しい事を言っている。
華音様。私を助けてくれた神様。私はこの方にお仕えする事になるみたい。
暗闇から助け出してくれた事。私はとても感謝しています。きっと・・・何時までも忘れません。
差し出された白い手を。
あの時の華音様の幼い・・・いえ、やさしそうな顔を。
そして。この気持ちを。
私は、何時までも忘れません。




