『自分攻略サイト』 ~華音の章~ 其の四
〜9月14日〜
ふぁぁぁぁぁぁ。
私の口から、大きな欠伸がこぼれる。
先日の『異世界』騒ぎの後、盛り上がって徹夜でオンラインゲームに興じていた為だ。
不在だった『漆黒』と『紅蓮』が復帰した事により、グランドクエストは大きな進展を見せた。
メーカーはこのゲームを10年持たせようとしているらしく、攻略した後からドンドン追加されるので、まだ先は見えないのだが。
そんな訳で、私も花子も寝不足という訳だ。
そこはそれ、毎日が日曜日な私は、今から寝ればすむ事だが・・・
「ジャ、私は寝る。」
と花子に告げて、寝室に向かおうとするとコンコン・・・っと扉がノックされた。
「花子。」
「はい、華音様」
とたたたたっとスリッパを鳴らして駆け寄り、「はーい」と返事をしながら扉を開ける花子。
「何か御用ですか?」
「すみません、『霧島華音』・・・様?でしょうか?」
「俺・・・いえ、私は、佐藤一郎と・・・」
緊張しているのか?しどろもどろになりながら自己紹介をする。
「あ、すみません、私は華音様じゃないんですよ。」
「ノック2回だったので、私に用事かなーって思っちゃいました。」
ノック2回はトイレのノック。
花子を呼び出す条件の一つでもある事から、私も花子に用事と早とちりをした。
・・・眠くなければ、そんな事も無かっただろう。
「お客の様だな。」
「花子。」花子に促し、男・・・佐藤一郎を中に招き入れる。
花子がソファーを薦めると、ソファーに腰を下ろす。
20台半ば・・・くらいだろうか。とりあえず、用件を聞くことにする。
「さて、むー佐藤一郎・・・だったか?」
「『霧島華音』に来た訳を聞こう。」
玄関先で、しどろもどろに言った名前をあの子・・・霧島華音は聞いていたようだ。
「貴女に、『霧島華音に来い』と言われました。」
ふむ、面白い事を言う男だ。
私は佐藤一郎と言う人物に面識は無い。
「私は、お前に会った事は無いと思うのだが?」と聞くと、さらに面白い答えが返ってきた。
「ええ、この時点ではそうですね。」
「ですが、21日の夕方に、私は貴女にそう言われたんです。」
「面白い事を言う、まるで未来から過去に戻った様だな。」
「・・・正に、その通りです。」と、佐藤一郎は此れまでの経緯を話し始める。
佐藤一郎は、9月14日から21日までを繰り返しているらしい。
最後、21日の18時45分に何らかの形で死ぬ。そして14日の朝に目覚める。との事だ。
興味深い事例だ。
もし、佐藤一郎の言っている事が事実ならば、『時間の概念から外れた存在』であるという事になる。
当然、そんな事は『この世のモノ』には出来る事ではない。
その事について語るには先ず、時間の概念について説明せねばなるまい。
端的に言えば、過去には戻れない。時間とは川。人の認識の違いだけで、それら全てが一郎の未来と言う事。
「えっと・・・さっぱりわかんないんですけど?」
まあ、花子は兎も角。
「私も良く分かりませんでしたが、21日の次の日が14日でも未来って事でしょうか?」
と、一郎も半信半疑のようである。
私は、「哲学的にはな。」言い
『時間の概念から外れている。』
と結論図ける。
やはりよく分かっていない一郎に対し、私は結論を述べた。
さて、この男・・・佐藤一郎の持つこの因果そして歪。
それは、この一週間を繰り返した影響だろう。ならば一郎が会った過去の私・・・一郎から見た過去だが。その私は一郎に何をした?
今はこの程度の因果と歪を持つに過ぎないが、21日その死の瞬間以降はどうなる?
・・・恐らくは、『現世』に多大なる影響を与えるだろう。それは、あの海底にあった『楔』をうち込んだ者の思惑通りと言った所なんだろうな。
過去の私も恐らく同じ考えを持つだろう。それで死を回避する術を与えている筈だ。
「・・・華音様?」
花子に声を掛けられる。どうやら難しい顔で考え込んでいたようだ。
一郎を見る。一郎は、意を決したように、私に問いかけた。
「それは、どういった意味になるんでしょうか?」
それは・・・と言うのは『時間の概念から外れている。』と言ったことに対してだろう。
「率直に言おう。」
「お前は既に死んでいる。」
言葉通りに、率直に結論付けた事を答える。
「俺が死んでいる!?」
意味が分からない。とでも、顔に書いてあるようだ。
「俺・・・いや、私は生きていると思うのですが?」
其れはそうだろう。実際に一郎は生きている。
「あー無理に敬語使わんでいいぞ?」
私は、使いにくそうな敬語を使っている一郎にそう言った。
・・・まあ、明らかに年下に(見える)私に敬語を使うのはやりづらいだろう。
これは、少しでも落ち着いて聞いて貰う為の配慮みたいなモノだ。
「すみません。」
「少なくとも、現在、俺は生きていると思うのだが・・・」
早速、敬語をやめる一郎。さて、当然の疑問をぶつけられた訳だが、どう説明したものか。
「うむ、佐藤一郎は生きている。」
「だが、お前は死んでいる。」
「と、言った方が良いだろう。」
とりあえず私は、そう切り出した。
この時点で『この世のモノ』では無いのは分かっている。一度死んだ者が意識を持っているという事は、あまり良い事では無い場合が多数だ。
さらなる検証が必要だと判断する。
この辺りは、過去の私はやっていたのだろうか?
成るべくなら、やっていない事が望ましい。やった上でループしているのならば、それは解決に向かっているか疑問だからである。
何にしても、事情を聴く事から始めよう。
一郎からループしてきた14日〜21日の事を詳しく説明してもらう。偶然『佐藤一郎 攻略サイト』を見つけた事、何度も死んだ事、私に出会った事。さらに家族関係などもだ。
疑問は主に3点。何故過去に戻れるのか、そしてその方法。『佐藤一郎攻略サイト』の事。そもそも一郎の正体。
幸い移動系のチカラならスペシャリストがここにいる。
「花子。」
「お前は、出来るか?」
花子は、扉を好きな場所の扉につなげる事が出来る。某ネコ型ロボットの”アレ”が最も近い。
成り立てとは言え、神である。位置的には私の『属神』という事になるのだが。
「同一世界で無いって条件なら、方法はあるかも知れません。」
「どちらにせよ、私には無理ですけどね。」
まあ、当然・・・と言うか、私も花子の能力は把握しているので、出来ないのは分かっている。
しかし・・・成程、類似別世界軸か。
”過去のは戻れない。”という『時間の概念』から同じ世界の過去には戻れない。ならば如何するのか?
・・・別の世界。今の時間が21日の・・・18:45分の世界から、その時の時間が14日の朝の別の世界に移動した。という事ではないだろうか?
其れならば、一応は過去には戻っていない。
尤も・・・そんな能力は聞いた事は無いが。とりあえずそういう仮説にしておく。
「後は、攻略サイトか・・・」
む?ああ、すっかり一郎を放置していたようだ。
「あーすまない。」
「いろいろと仮説を立てていた。」
「その・・・『佐藤一郎 攻略サイト』というのを見せてくれないか?」
私は、ノートPCを一郎に渡す。
一郎は、『佐藤一郎』と入力し、検索結果から何処かをクリックした。
「・・・これだ。」
其処には、『ページが表示できません』とエラー画面が映っていた。
「すまない、私には『ページが表示できません』というエラー画面しか見えないのだが?」
「花子、見えるか?」
「いえ、私も同じです。」
一郎は「そんな馬鹿な!」と驚きの声を上げた。
「今、ここに表示されているだろ!?」
表示は変わらない。『ページが表示できません』だ。
「私も花子もエラー画面にしか見えない。」
「しかし・・・だ、お前が見えているなら、それはあるのだろう。」
「もう少し、ヒントが欲しい。」
「花子、『フォーチュナー』だ。」
私は、花子に促すと、「すまない。少々待っていてくれ。」と言って、衣裳部屋に向かった。




