『自分攻略サイト』 ~華音の章~ 其の三
〜9月14日〜
ふぁぁぁぁぁぁ。
私の口から、大きな欠伸がこぼれる。
先日の『異世界』騒ぎの後、盛り上がって徹夜でオンラインゲームに興じていた為だ。
不在だった『漆黒』と『紅蓮』が復帰した事により、グランドクエストは大きな進展を見せた。
メーカーはこのゲームを10年持たせようとしているらしく、攻略した後からドンドン追加されるので、まだ先は見えないのだが。
そんな訳で、私も花子も寝不足という訳だ。
そこはそれ、毎日が日曜日な私は、今から寝ればすむ事だが・・・
「ジャ、私は寝る。」
と花子に告げて、寝室に向かおうとするとコンコン・・・っと扉がノックされた。
「花子。」
「はい、華音様」
とたたたたっとスリッパを鳴らして駆け寄り、「はーい」と返事をしながら扉を開ける花子。
「何か御用ですか?」
「花子さん・・・華音様は・・・」
息も絶え絶えな男が居た。どうやら花子と顔見知りのような口ぶりだが・・・
「あ、あら?何処かでお会いしましたっけ??」
花子の方は、面識が無いのか、憶えていないのか・・・
兎も角。
「私のお客の様だな。」
「花子。」花子に促し、男を中に招き入れる。
花子がソファーを薦めると、ソファーに腰を下ろす。
20台半ば・・・くらいだろうか。とりあえず、名前を聞くことにする。
「さて、先ずは名前を聞こう。」
男は、はっとして、自分の名前を名乗る。
「俺・・・私は、佐藤一郎といいます。」
「ここにくるのは・・・これで、100回目になると思います。」
と言って、頭を抑える。
「100回目だと?私はお前と面識が無いと思うのだが?」
100回なんて、香奈だってそんなに訪れていない筈だ。
この面識の無い男・・・佐藤一郎は何を言っているのだ?と思っていると、佐藤一郎は自分の事を話し始めた。
佐藤一郎は、9月14日から21日までを繰り返しているらしい。
最後、21日の18時45分に何らかの形で死ぬ。そして14日の朝に目覚める。との事だ。
此処に来るのは、私に此処に来いと言われたかららしい。
もし、佐藤一郎の言っている事が事実ならば、『時間の概念から外れた存在』であるという事になる。
当然、そんな事は『この世のモノ』には出来る事ではない。
その事について語るには先ず、時間の概念について説明せねばなるまい。
端的に言えば、過去には戻れない。時間とは川。人の認識の違いだけで、それら全てが一郎の未来と言う事。
「えっと・・・さっぱりわかんないんですけど?」
まあ、花子は兎も角。
「ええ、毎回同じ事を言われています。」
「そして・・・『時間の概念から外れている』とも言っていました」と、佐藤一郎は続ける。
「ふむ、ならば私が次に続ける言葉も・・・分かるのだな?」
「選び続けなければならない。」佐藤一郎は、私がまさに言おうとする言葉を当てた。
「そうだ。」
何十回、何百回と繰り返す同じ刻の中で唯一つの正解を求めて。
ループを抜けるその日まで、何度でも、何度でも・・・
「でも、俺・・・私は、其処から抜けることが出来ない!!」
「あ、頭も・・・頭痛が酷くて・・・記憶も・・・」
成る程。確かにそれだけの『死の記憶』体が、精神が持つ訳が無い。
記憶のリセット・・・出来ればそれに越したことは無いが、そんな事をしたら、存在そのものが無くなってしまう可能性がある。
何故なら佐藤一郎は・・・
ならば、『暗示』をかける。記憶は・・・そう、『佐藤一郎攻略サイト』という本人にしか見えない記憶と言う名のサイトを、
PCを前にし、検索した時にだけ思い出すようにする。
それでも、持つのはしばらくの間か・・・その内にその事すらも忘れるかもしれない。
だけど、繰り返す。正解にたどり着くまで・・・
「花子!『フォーチュナー』だ。」
本来、占い・・・『占術』を行使する為のの衣装だが、『暗示』をかける。そんな事もできる。
『暗示』をかけるには、怪しげな・・・そう、雰囲気という物も重要なのだ。
私は、一郎を待たせ、花子と共に奥の扉に入り着替える。
オリエンタル・・・とも言うべき雰囲気をだした、いかにも占い師といった衣装だ。
私はこの様に衣装を変える事により、さまざまな『術』を行使することが出来る。
「何をするんでしょうか?」
佐藤一郎は、不安そうな表情を浮かべる。
私は、経緯を説明すると、早速、『暗示』を掛ける。
お前の記憶は・・・『佐藤一郎攻略サイト』になる。
〜9月21日〜
突如として現れた強大な気配、因果と歪。
近所で殺傷事件が合った。
私は、その現場にたどり着いたが、佐藤一郎は既に息絶えていた。
強大な因果と歪を持った『何か』の気配はもう無い。
『今回も』正解ではなかった。。
という事だ。
一郎は過去・・・一郎にとっては未来に旅立ったのだろう。
これは、起こりうる可能性の一つ。
その先に待つものは・・・




