『黒歴史ノート』 ~直哉の章~ 其の十三
『ベータ』の正体は、数千年前この星を出た人間。
ゲームの資料によれば、数千年前一つの文明が滅びた。その後、新たな生態系の元再生した『アース』それがこのゲームの舞台だ。
つまり、先文明の人間が結局住む所が無くて帰ってきたら、過去に滅びたはずの星が再生し、暮らせる星となっていた。
が、今の文明・・・俺達がいるから侵攻して『アース』に再び定住しようって訳だ。
星を見捨てながら・・・なんと自分勝手な・・・
『コマンダーベータ』は手を振りかざす。
すると、無数の光球が生まれ、まるで意志を持ったかの様に、向かってくる。
「あれは・・・エネルギーボルト!?」
くっ問答無用かよ!!
俺は、『パリィ』で、光球を受け流す。同じ様に『裂光』も槍スキルの『受け流し』で受け流し、香奈は『ハードシールド』を展開し弾いた。
無数の光球は、後ろにいる香織と『深闇』をも襲う。二人は同じ『エネルギーボルト』を無詠唱で発動させると、ぶつけて消滅させる。
なおも生まれ続ける光球。
「エネルギーボルトの威力じゃないですよぉ〜」
「『受け流し』たはずなのに、HP3割持ってかれてますよぉ〜」
魔法職を兼任している『裂光』は俺よりも防御力で劣るが、エネルギーボルトでこんなダメージを負うはずがない。
まして、『受け流し』ているのに・・・だ。
「しかも・・・これは・・・」
俺は、ステップで回避する。だが、光球は狙いをつける。
「『ポイントガード』」
俺を狙った光球を香奈が弾く。
「物凄く、誘導性が高いです!」
「皆さん、光球を私に誘導してください!」
阿吽の呼吸で意図を理解した俺達は、光球を引き付け、香奈の後ろに回る。
全ての光球は香奈の前へと誘導された。
「『ゾーンシールド』」
広範囲に展開された『シールド』にぶつかり、全ての光球は消滅する。
「洒落にならないな。」
「私や華音さんは、直撃したら終わりね・・・」
またも手を振りかざす『コマンダーベータ』。今度は、漆黒の槍が生まれた。
「『シャドウランス』か」
「『アルティメットシールド』!!」
数ある盾スキルの中で最も耐久力のある『アルティメットシールド』で漆黒の槍を受ける。
漆黒の槍は、『シールド』を抜けずに消滅した。
「・・・シールド耐久値が残り20%まで削られた!?」
「威力的には、『ガーディアンベータ』のレーザーの2倍!?」
「防御に回ったら、ジリ貧だ。」
再び手を振りかざそうとする『コマンダーベータ』
「させないですよぉ〜『セイクリッド・スキュア』」
『裂光』は光を纏った槍を投擲する。
『コマンダーベータ』は、振りかざそうとした手を槍に向け、『シールド』の様な物を張り弾き返す。
「恐らく、ポイントガードです。」
俺は、『コマンダーベータ』が次の攻撃に移る前に、得意のスキルを叩き込む。
「これならどうだぁぁぁぁ!!『グランドクロス』!!」
空いている方の手で『ハードシールド』を張りこれも弾き返す。
「お兄ちゃんっ離れて!」
その声に、素早くステップで距離を取る。
「『ヴォルケーノ』!」
広範囲に及ぶ香織の魔法も『ゾーンシールド』で防がれる。
「『エクリプス』」
『深闇』の放った闇魔法は、『アルティメットシールド』に阻まれた。
間髪入れず、香奈が盾を投げ攻撃するスキルを放つ。
「『シールドソーサー』!」
『コマンダーベータ』は香奈の盾を素手で叩き落とす。
僅かだが、『コマンダーベータ』にダメージが入る。
確かに、他のスキルや魔法に比べ威力的に劣るスキルだが・・・
「・・・なるほど、そういう事かな?」
香奈が何かに気が付いた。
「どうしたの?香奈??」
「うん、多分だけど、アイツにもクールタイムがあると思うよ。」
「そして、多重展開は出来ないし、クールタイムも私達より長い。」
「私なら、あのタイミングで『ポイントガード』のクールタイム終わってるもん。」
それは、盾に特化した香奈だから分かるクールタイムの違い。
「つまり・・・アイツも無敵ではないって事だな!」
ならば希望はある。
全員の最強スキルのクールタイム終了に合わせ連続攻撃し、たたみかければ何発かは通る。
俺は、『オーバーエンド』のタメに入る。
その間に『コマンダーベータ』は攻撃に転じた。
『コマンダーベータ』が両手を掲げると、巨大な炎球が生まれた。
「まずいっインフェルノよ・・・いえ、ノヴァかも!?」
「皆さん、後ろに!『アルティメットシールド』!」
炸裂する炎球・・・だが、『シールド』に阻まれ炎の柱は上がらない。
その間に詠唱に入る香織と『深闇』。香奈なら防ぎきる。そう信じている・・・俺もだ。
「駄目・・・持たない・・・」
「・・・重ねて、『ゾーンシールド』」
『フラワーアレンジメント』により、多重に展開される『シールド』。大爆発は起こったが『シールド』で爆炎を防ぎきる。
「・・・今です!」
香奈の合図に、攻撃を開始する。
「攻撃回数に物を言わせるっ『スピアー・レイン』」
『裂光』の槍による連続攻撃。超スピードで繰り出される槍撃は100発にも及ぶ。
しかし『コマンダーベータ』は『アルティメットシールド』でこれを防ぐ。
100連撃と言っても、直線的な攻撃では無理という事か。
「ちぃっ抜けないかぁ〜華音様!」
「『メ・ギド』」
対して『深闇』は、複数の漆黒の塊を打ち出す闇属性魔法。
誘導性が高く、また、回り込む軌道をとるのでガードしづらい魔法だ。
『コマンダーベータ』は『ハードシールド』を展開するも、数に対応しきれずダメージを負う。
「直哉頼む。」
「おうっ」
俺は、ラストを香織に任せ、大剣で最大の攻撃力を誇るスキルを発動する。
「行くぜ!『オーバーエンド』」
『コマンダーベータ』は『ポイントガード』で対処するも、『ポイントガード』程度で止まる『オーバーエンド』じゃない。
ガードを打ち破り、『オーバーエンド』が直撃する。しかし、まだ・・・この位じゃ倒せない。
そして・・・そして、俺がラストを香織に譲ったのは・・・今、詠唱している香織の魔法にある。
「まだ、『ゾーンシールド』のクールタイムが終わっていないみたいだよ!」
『コマンダーベータ』のクールタイムを計算して、香奈が叫ぶ。
「香奈っ『シールド』をお願い!」
それに対して、魔法の詠唱の終わった香織は、香奈にシールドを指示した。
「へ?香織ちゃん??」
「究極魔法を発動するわ!『フレア』!!」
「え?えぇぇ〜『ゾーンシールド』!!」
究極魔法『フレア』己の全マジックポイントを消費して放つ、最強にして最後の魔法。
その威力は・・・
・・・最初は小さな光だった。その光が『コマンダーベータ』に触れると、膨張。
それは凄まじい熱量を生み、すべてを飲み込む光となって弾ける。
「なんなんですかーーー」
「太陽で起こる爆発が『フレア』だ。」
「威力は水素爆弾1億個と同等で、数千万度の熱が・・・」
「まあ、ゲームなので、そんな威力ありませんけどねぇ」
「でも、周りにも被害が出る禁呪的魔法なんですよぉ〜」
「・・・うっかり使うと、パーティ崩壊するからな。」
「洒落になってませんってーーーー」
熱風は数秒で収まり、香奈の『シールド』も消える。
多少のスリップダメージはあったが、全員無事。本当にすごい盾使いだ。
だが、『コマンダーベータ』は倒れていない。しかし、そのHPを残り10%にまで減少していた。
「お兄ちゃん!」
マジックポイントを全て消費した香織は、ラストアタックを俺に託す。
「おうっ!」
「これで、終わりにしようぜ?『ライトニング・バースト・ストーム』!!」
大剣で片手剣の様な速度の連続攻撃を繰り出す。
唐竹、袈裟斬り、逆袈裟・・・さまざまな連撃が『コマンダーベータ』のHPを削る。
5%・・・4%・・・3%・・・2%・・・1%・・・
・・・そうか、こいつ等も同じ人間なんだよな。それも、故郷も同じ。
そう考えた俺は、止めとなる一撃を寸前で止めた。
「何故、止めをささない?」
『コマンダーベータ』の問いに、
「・・・お前達も、同じ人間だからだ。」
俺はそう答え、大剣を下げた。
「ここは、俺達の世界だ。そして、お前達の故郷でもある。」
「この世界に対する思いは同じ・・・だと思う。」
「ならば、武力による解決ではなく、対話による解決の道もある筈だ。」
「・・・偽善者め。」
そう、偽善者なのかもしれないな。
「私は、この世界が好きよ。」
「そして、プレイヤー・・・いえ、この世界の住人全てがこの世界が好きだと思う。」
「その世界を戦火の炎で焼く事は、みんな望んではいないよ。」
香織が続くと、
「私、始めたばかりだけど、この世界が大好きになりました。」
「当然私もですよぉ〜」
「うむ」
香奈、『裂光』、『深闇』も其れに続く。
ついには、『ウインドチャット』で他の場所にいる面々も次々と思いを語った。
「・・・やはり、揃いも揃って偽善者ばかりのようだな。」
『コマンダーベータ』は、すっと立ち上がると背を向ける。
「・・・全軍。撤退」
「以降、指示のあるまで待機せよ。」
「・・・我らも、お前等も祖先は同じ。」
「そういう未来もあるかも知れんな・・・」
『コマンダーベータ』は光と共に消えた。
(コングラッチュレーション! 『ベータ大侵略作戦』クリア!)
(『ファンタジースターオンライン』における全てのコンテンツをクリアしました。)
「・・・終わったの?」
「ああ、終わったな。」
「これから、この世界はどうなるんでしょう?」
「それは・・・きっとこの世界の住人が決めることだろう。」
「だが、願わくば、争いの無い平和な世界になって欲しいものだ。」
「・・・そうですね、華音様」
夕焼けの空に、ゆっくりとスタッフロールが流れていた。




