『黒歴史ノート』 ~直哉の章~ 其の十二
香奈のHPは勢いよく減っていく。
同レイド内の別パーティーなので、詳しい数値はわからないが・・・
・・・どうやら、『幻界の秘薬』の効果で0になる事は免れたようだ。
「回復は私にお任せくださいな」
「華音様と香織ちゃんは詠唱の終わってる魔法を!」
言うと、『裂光』は香奈の回復を行う。
「『ハイ・ヒーリング』」
ゆっくりとHPは回復しているようだが、全快にはまだ暫くかかりそうだ。
「『エクリプス』」
「『クリムゾン・ノヴァ』!」
詠唱の終わっていた極大魔法を発動させる、『深闇』と香織。
放たれた漆黒の炎は、『コマンダーベータ『キャノン』』の砲塔を完全に破壊する。
これで、後方の城下町に対する被害も減るだろうと思った矢先、砲塔を失った『コマンダーベータ『キャノン』』は、金色から、銀色へとその色を変化させた。
要塞とも思えるその巨体が展開し、中から別の・・・大剣を持つロボット的なフォルムの『ベータ』が現れた。
『コマンダーベータ『ブレイド』』
銀色に輝く、巨大なベータ。大きさ的には『サイクロベータ』程はある。
『コマンダーベータ『ブレイド』』は大剣を構えると、その巨体とは思えぬスピードで迫ってくる。
「香奈ちゃんの回復には、まだ時間がかかるわ〜」
「暫く3人で持たせてくださいな」
「簡単に言ってくれるっ」
俺は迫りくる大剣を『パリィ』する。
スキルの発動は完璧な筈なのに、腕に、体に衝撃が走る。
「っと、おいおい・・・『パリィ』しても、HP削られるぜ?」
洒落にならんっ
『パリィ』は最終手段として、回避に専念するしかないな。
「『シャドウバインド』」
『深闇』の魔法が『コマンダーベータ『ブレイド』』の動きを止める・・・が、其れも僅かの事。
闇のいばらを強引に引きちぎり、目標を『深闇』へと変える。
ブゥゥゥゥゥン
風切り音を上げ、振り下ろされる大剣。
『深闇』の姿が一瞬で消えると、数メートル後方に出現する。回避用スキル『ミラージュエスケープ』だ。
『ミラージュエスケープ』は消えている間は完全無敵だが、出現後に若干の硬直がある。なおも、目標は『深闇』。
「『プロヴォーグ』!!」
俺は、ヘイトを取るスキルを使い、強引に目標を変える。
「こやつ、直接的な攻撃魔法でなくてもヘイトが上がるようだな。」
「後衛にとっては厄介ね・・・」
「しかし、逆に言えば”攻撃を加えない限り攻撃は来ない”という事でもあるな。」
振り下ろされる大剣をステップで回避、通常攻撃を加える。
兎に角、コイツの攻撃をもらう訳にはいかない。俺なら2発程度耐えられるかもしれないが、後衛の二人はおそらく即死だ。
「お兄ちゃ〜ん♪ お・と・り・・・よろしくね♪」
ぱちんとウィンク。
「無茶言うんじゃねーーーー!!」
相変わらず、むちゃくちゃ言う妹だ。まあ、香奈と『裂光』が居ない現状、俺が前衛を支えなければならないのは事実だ。
ここは、回避重視で行くしかない。
振り下ろし、サイドステップ、横薙ぎ、バックステップ、一瞬のタメの後、大きく横に薙ぐ・・・スキル!?
モーションは『スラント』に似ている。躱しきれない!?俺は『パリィ』で受け流す。
くっやはりHPが削られる。それも、最初の攻撃よりもダメージが大きい。やはり、スキルも使うようだ。
後衛の二人の魔法詠唱が完成する。
「必殺必中っ『ホーミング・レイ』!!」
香織の魔法はお得意の炎系ではなく、無属性『エネルギーボルト』の上位にあたり、必中効果のある魔法である。
「動き回る敵には、こっちの方が確実なのよね!」
この時点で、ヘイトは香織に向く。
「我が手に、全てを斬り裂く漆黒の刃を!『シャドウ・ブレイド』」
『深闇』は漆黒の剣を生み出し、斬り込む。斬りつけられた箇所に闇が生まれ、炸裂する。
「『漆黒』・・・暫く変わろう。」
「回復しつつ、攻撃の準備を・・・」
俺は少し距離を取ると、エクスポーションを惜しみなく使う。HPが全快する最上級のポーションだ。徐々にHPが回復していく。
だが・・・『深闇』の回避は『ミラージュエスケープ』頼み。幾らヒットアンドウェイに徹していても、限界がある。
全快になるのを待たずに、戦線に復帰する。
「『グランドクロス』!!」
お得意の縦斬り→横斬りと繋ぐスキルを叩き込み、ヘイトを取る。
『深闇』は再び距離を取ると、魔法の詠唱を始める。
その間に魔法の詠唱の終わった香織。
「お兄ちゃん、そこどいて!!」
・・・どっかで聞いたフレーズだ。
「『エクスプロージョン』!!」
ドンッドンッドンッ・・・爆発が連続的に起こる。
効果時間の長い魔法で、足止めをするつもりの様だ。
「『スラント』!」
発動の早いスキルで再びヘイトを取る。『深闇』の詠唱はまだ終わっていない為だ。
「コマンダーベータ『ブレイド』」の大剣が、俺の良く知った軌道を描く。縦斬り→横切り・・・『グランドクロス』だ。
最初の縦斬りを何とか回避するも、次の横切りがかすめる。直撃では無いが、HPがごっそりと減る。
先程の回復が無かったら、正直危なかった。
こんな綱渡りの様な戦いが続く。
「回復完了・・・お待たせしましたっ『シールドバッシュ』」
盾を突き出しての体当たり。手早くヘイトを取りつつダメージを与える香奈。
ブォォォォン
振り下ろされる大剣の攻撃も、『ポイントガード』で完全に防御する。
「『フラワーアレンジメント』はまだ使えませんが、単調な攻撃ばかりの様なので、大丈夫です。」
「皆さんは攻撃に専念してください。」
『コマンダーベータ『ブレイド』』の攻撃を完全に無効化できる香奈が加わると、状況は一変した。
攻撃を連続で加えた後、香奈がヘイトを取り攻撃を無効化。そしてまた、攻撃を連続で加える。
何回か繰り返すと、『コマンダーベータ『ブレイド』』は動きを止めた。
銀色だった色が赤銅へと変わり・・・展開する。
中から現れたのは・・・
・・・人型。
背丈は1m80cm程だろうか、おおよそ人と変わらぬ姿の『ベータ』が現れる。
『コマンダーベータ』
人の姿の『ベータ』は、人と同じ言葉を発した。
「我らは、過去にこの星を出て、新たな星を目指した者。」
「だが、我らの新天地は見つからず、数千年の時を経て、この星へと帰還した。」
「我らの文明は既に滅び、新たな生態系の元に再生した我らが星。」
「我らが故郷を返してもらおう。」
『ベータ』とは、元々はこの星・・・『アース』に住む人間だった。




