第34話:酸と水銀の聖杯
帝都サンクト・オーガスタの夜空を支配していた深い群青が、東の空から差し込む淡い白銀の光によって、ゆっくりと押し流されていた。
豪奢を極めた白金宮の尖塔や黄金のレリーフが、朝霧をまといながら薄青い輪郭を現していく。
昨夜の狂乱と鮮血の嵐が嘘のように、皇宮の奥深く――ディルク皇太子の主寝室は、息を殺したような静けさに包まれていた。
高い天井から吊り下げられた遮光カーテンが、朝の鋭い光を和らげ、室内に薄暗いヴェールを下ろしている。
暖炉には上質な楢の薪がくべられ、パチパチと爆ぜる乾いた音を立てていた。室内を支配していたのは、かつて皇太子を包んでいた濃厚な神殿の乳香や香油の匂いではない。煮沸消毒されたリネンの清々しい匂い、ほのかに漂う石鹸とアルコールの刺激臭、そして――傷口を保護する清潔なハーブ軟膏の、清涼な芳香だった。
天蓋付きの豪奢な寝台。
その上で、白銀の絹シーツに包まれたディルク皇太子が横たわっていた。
昨夜まで彼を苦しめていた、肋骨が軋むほどの浅く速い喘鳴は完全に消え失せ、規則正しい、深い胸の上下動が続いていた。
ベッドの脇に置かれたアームチェアには、一睡もすることなく息子の手を握りしめ続けていたロザリア皇妃の姿があった。
深紅のベルベットドレスは昨夜の処置の熱気と血の飛沫で汚れたままだったが、乱れた髪をそのままにし、隈の浮いた目でじっと我が子の寝顔を見つめている。帝国の冷徹な支配者として恐れられる女傑の顔には、ただ一人、我が子の生還を祈り続けた母の生々しい憔悴と安堵が刻まれていた。
そして――ベッドサイドの反対側、薬品や器具が整然と並べられた作業台の前に、エルザ・ヴァルデックは立っていた。
すでに返り血で汚れていた深緑のドレスは脱ぎ捨てられ、大公邸の従僕が急ぎ届けさせた、糊のきいた真っ白な医療用ローブ(白衣)を身に纏っていた。
煤けた黒髪は後ろで一本に束ねられ、血で汚れていた頬や指先は、石鹸と流水で爪の間に至るまで念入りに洗い清められている。徹夜で大手術を執刀し、その後も数時間おきにバイタルサインの計測を続けていたにもかかわらず、その琥珀色の瞳には、疲労の色など微塵も浮かんでいなかった。
冬の朝の氷のように、研ぎ澄まされた静謐。
「……ん……っ……」
静寂を破ったのは、シーツの擦れる微かな音と、掠れた青年の吐息だった。
ディルクの細い指先が、シーツを掴むように小さく動く。
閉ざされていた瞼が、震えながら持ち上がった。
「ディルク……!?」
ロザリア皇妃が弾かれたように身を乗り出し、息子の青白い手を両手で包み込んだ。
「ディルク、気がついたのですか……! ああ、ディルク……!」
青年の濁っていた瞳に、天井の天蓋の豪奢な金糸の刺繍がぼんやりと映り込む。
瞳孔が光の刺激に反応して収縮し、焦点がゆっくりと定まっていく。
ディルクは喉を鳴らし、ひび割れた唇を小さく震わせた。
「……母……上……?」
かすれきった、だが確かに息の通った声。
「僕……は……。あの、夜会で……血を吐いて……。僕は……死んだのでは……ありませんか……?」
青年の記憶は、あの純白の絨毯の上に、自らの内臓のすべてを吐き散らした瞬間で止まっていた。
喉が焼けるような激痛、視界が真っ赤に染まり、床へ崩れ落ちた時の冷たさ。身体の奥底から命の熱が急速に抜けていき、暗黒の底へと沈み込んでいった、あの絶望的な臨死の恐怖。
「死んでなどいません! お前は生きているわ、ディルク……!」
ロザリアの瞳から、大粒の涙がポロポロと息子の甲へと零れ落ちた。
「お前は生きて、今、ここにいるのです……!」
「生きて……いる……?」
ディルクは自らの身体へと意識を向けようとした。
その瞬間、青年は眉をひそめ、小さく息を呑んだ。
違ったのだ。
何かが、決定的に違っていた。
幼少の頃から、ディルクの身体を苛み続けていたあの感覚――みぞおちの奥底に、焼けた鉄の棒を常に突き立てられているような、万力で内臓をねじり絞られるような、あの耐え難い「灼熱の激痛」が。
消えていた。
もちろん、腹部には皮膚と筋肉を切開されたことによるズキズキとした創傷の痛みと、強固に巻かれた腹帯の圧迫感はある。
だが、それは生きている肉体が発する純粋な外傷の痛みであって、かつてのように命を内側から貪り食うような、底知れぬ地獄の苦痛ではなかった。腹が、信じられないほど静かだった。
「……失礼いたします、殿下」
涼やかな、澄み切った少女の声が、ディルクの耳朶を打った。
驚いて視線を巡らせた皇太子の視界に、ベッドサイドへ静かに歩み寄ってきたエルザの姿が飛び込んできた。
ディルクは息を呑んだ。
大公ギルバートの隣にいた、あの深緑のドレスの少女。十二歳前後にしか見えない小柄な体躯。だが、その純白のローブを纏った佇まいから放たれる気迫は、宮廷のいかなる重臣よりも重厚だった。
「腹部の触診を行います。動かずに、楽に息を吐いていてください」
エルザはディルクの掛け布をわずかにめくった。
腹部には、何重にも巻かれた清潔な晒の圧迫帯。その右脇からは、昨夜留置されたゴム製のドレーン管が伸び、ベッド脇のガラス瓶へと繋がっている。排液の色は淡い血性浸出液のみで、胆汁や未消化の胃液の漏出は一滴も見られない。
エルザは首にかけていた真鍮とゴム管の器具――オスカーに特注で作らせた『近代型聴診器』のチェストピースを、自らの手のひらで温めた。
金属の冷たさで患者を驚かせないための、無意識の気配り。
エルザはチェストピースを、ディルクの右下腹部から臍の周囲へと当て、耳管に全神経を集中させた。
……グルルル。
コポッ、グルル……。
数秒の静寂の後、エルザの耳に届いたのは、規則的で力強い、水と空気が混ざり合って管を流れるような音だった。
腸蠕動音。
開腹手術の侵襲によって一時的に麻痺していた胃腸の平滑筋が、自律神経の回復とともに、再びリズミカルな蠕動運動を開始した決定的な証拠。
「……良好です」
エルザは聴診器を外し、次いで手袋をした指先で、縫合部の周囲の腹壁を優しく、だが的確に圧迫した。
昨夜、触れた瞬間に石のように硬直していたあの「板状硬直(筋性防御)」は、跡形もなく消失していた。
触れられた腹壁は、生きている人間のそれらしく柔らかく、適度な弾力を持ってエルザの指先を押し返してくる。跳ね返るような激痛(反跳痛)も起きていない。
「腹膜炎の兆候はありません。腸管の麻痺も解除されつつあります」
エルザは掛け布を元通りに直すと、手帳に手際よく数値を書き留めた。
「脈拍は毎分七十二回、整。体温は三十六度八分。……殿下、午後までに一度、ガス(放屁)が出るはずです。ガスが確認できれば、腸閉塞の危険は完全に去ったと判断し、明日から煮沸した白湯と薄い野菜スープによる流動食を開始いたします」
淡々と、まるで機械のように正確に紡ぎ出される医学の所見。
ディルク皇太子は、呆然とした眼差しでエルザを見つめていた。
青年の脳裏に、朦朧とした意識の底で微かに聞いていた、昨夜の光景がフラッシュバックする。
血の海の中で、自分の服を引き裂いた少女の声。
『動かしては死にます!』
『胃に穴が開き、動脈が破裂しているのです!』
そして、白熱するランプの光の下、自分の腹部に冷たい刃が走り、温かい指先が内臓の奥深くまで潜り込んでいった――あの信じがたい記憶。
「き、君が……」
ディルクの掠れた声が、震えを帯びた。
「君が……僕の腹を刃物で切り裂いて……あの、僕に取り憑いていた悪魔の呪いを……切り取ってくれたのか……?」
ディルクの瞳には、畏怖と、感謝と、そして何よりも――幼少期から教会の司祭たちに刷り込まれ続けてきた「呪い」への盲目的な恐怖が、まだ色濃く残っていた。
自分は悪魔に呪われた血族なのだ。神の怒りを買ったから、胃を業火で焼かれ、血を吐いたのだ。その悪魔の塊を、この不思議な力を持つ少女が、奇跡のメスでえぐり出してくれたに違いない――と。
だが。
その青年の言葉を聞いた瞬間、エルザの琥珀色の瞳は、真冬の湖面のように冷たく細められた。
「……悪魔など、この世のどこにもいません」
怜悧な刃物のような一言が、寝室の静寂を切り裂いた。
「え……?」ディルクが目を丸くする。
「殿下。あなたを蝕んでいたのは、天上の悪魔でも、神の罰でもありません」
エルザは踵を返すと、作業台の上に置かれていた、昨夜から保管してあった一つの物品へと歩み寄った。
彼女が手に取ったのは、手のひらに収まるほどの、濃い紫色の遮光ガラス瓶だった。
金糸の封蝋で固められ、大聖堂の「双頭の鷲と十字架」の紋章が誇らしげに刻印された小瓶。
コトン、とエルザはその小瓶を、ディルクのベッド脇のサイドテーブルの上へと置いた。
「見覚えがおありですね、殿下」
「あ……それは……」
ディルクの瞳が、反射的な強張りを浮かべた。
「アンセルム首席司教猊下が……僕のために、毎朝直々に宮殿へ届けてくださる……『特級解呪の聖水』……」
「そうです」
エルザの声は、感情を排した事実の宣告だった。
「大聖堂の地下祭壇で七日七晩の祈祷を捧げ、神の奇跡を宿したと称される門外不出の秘薬。金貨百枚に相当する、帝国正教会の最高峰。……殿下、あなたが悪魔の呪いだと信じ込まされ、毎夜その身を焼かれていた激痛の正体は――まさに、この液体そのものです」
「な……!?」
ディルクが息を詰まらせた。
隣で聞いていたロザリア皇妃が、細い双眸を吊り上げ、凍りつくような殺気をその瞳に宿した。
「エルザ……それは、どういうことですか。アンセルムがディルクに与えていたあの聖水が……毒だと言うのですか」
「言葉で申し上げるより、現象でお見せした方が早いでしょう」
エルザは白衣のポケットから、純白の無鉛磁器の小皿を取り出し、テーブルの上に置いた。
次いで、手元のガラス瓶のコルク栓を、ピンセットで静かに引き抜く。
ツン、と鼻腔の奥を突いたのは、芳香油の匂いに偽装された、どこか金属質で、ツンと粘膜を刺激する異様な薬品臭だった。
エルザは小瓶を傾け、澄んだ無色の液体を小皿の上へと数ミリリットル垂らした。
そして――。
エルザは傍らのトレイから、厨房から調達させていた新鮮な子羊の生の胃粘膜の切れ端――ピンク色の柔らかな生肉の小片を、ピンセットで摘み上げた。
「殿下、皇妃殿下。よくご覧なさい。これが、ディルク殿下の胃の中で、毎日繰り返されていた現象です」
エルザの指先が、小皿の液体の中へ、その生肉をポチャンと落とした。
その瞬間――。
――ジュウウウウッッッッ!!
耳障りな、何かが激しく焼け焦げるような化学反応の音が、小広間に響き渡った。
「……っ!?」
ディルクが息を呑み、ベッドから身を乗り出しかけた。
熱湯でも、炎でもない。ただの冷たい液体に浸されたはずの生肉の表面から、シュワシュワと白い微小な泡が猛烈な勢いで噴き上がったのだ。
みずみずしいピンク色をしていた羊の胃粘膜は、液体に触れた端から、まるで強熱した鉄板に押し付けられたかのように、瞬く間に土気色の白へと変色し、次いでドロドロとしたヘドロ状のカスとなって崩れ落ちていった。
ツンと目を射るような、強烈な酸性の刺激臭が立ち込める。
「な……なんだ、これは……!?」
ディルクの顔から、完全に血の気が引いた。
「肉が……溶けている……!? 聖水が……肉を溶かしたというのか……!?」
「奇跡の聖水の、生化学的な正体です」
エルザは小皿を見下ろしたまま、淡々と解剖講義を進めるように告げた。
「この液体の主成分は、極めて高い濃度に精製された無機酸――塩酸、あるいは希硫酸をベースにした強酸性の鉱物性溶液です。さらに、その中へ長期保存と沈殿防止を名目に、微量の重金属化合物――塩化第二水銀(昇汞/しょうこう)が巧妙に混和されている」
エルザの琥珀色の瞳が、ディルクの青白い顔を射抜いた。
「殿下。あなたの胃袋は、神の奇跡によって清められていたのではありません。この強酸と昇汞の混合物を、空腹の胃の中に、毎日直接流し込まれていたのです」
「毎日……僕が……これを……?」
ディルクの唇が、ガタガタと音を立てて震え出した。
毎朝、目覚めるたびにアンセルム司教が恭しく跪き、『殿下、今朝も神の恩寵を飲み干し、悪魔の穢れを祓いなさい』と微笑みながら差し出してきた、あの青いガラス瓶。
自分はそれを、母を安心させるため、自らの身体を強くするためと信じ込み、感謝の祈りを捧げながら、喉を焼かれるような苦痛に耐えて飲み干してきたのだ。
「生体の胃粘膜は、自らが分泌する胃酸から身を守るため、厚い粘液のバリアを持っています」
エルザの解説は、容赦なくディルクの幻想を打ち砕いていく。
「しかし、この濃度の強酸と水銀を毎日のように流し込まれれば、粘液バリアなど数週間で完全に破壊されます。剥き出しになった胃粘膜の上皮細胞は、自らの胃酸とこの聖水によって日常的に自己融解を起こし、深いクレーターのような潰瘍を形成していく。
さらに、水銀イオンは血管の内皮細胞を攻撃し、微小血栓を作らせて局所の血流を止める。血が通わなくなった組織は再生することができず、潰瘍は胃壁の筋肉を食い破り、神経を露出させ、耐え難い激痛を生み出すのです」
エルザはピンセットで、小皿の中でボロボロに崩れた肉片を持ち上げて見せた。
「あなたが毎晩のたうち回っていた激痛は、悪魔が暴れていたのではありません。この酸が、胃の神経を直接焼き焦がしていた物理的な反応です。……そして昨夜、その潰瘍がついに胃壁を完全に突き破り(穿孔)、その底を走っていた太い動脈――胃十二指腸動脈の壁を酸で焼き切った。その結果が、あの大量吐血と出血性ショックです」
静寂。
暖炉の薪が爆ぜる音だけが、息の詰まるような重苦しさで響いていた。
ロザリア皇妃の肩が、激しい怒りにワナワナと震えていた。
皇妃はテーブルの上の小皿の、溶け崩れた肉片を凝視し、爪が皮膚を破るほど強く自らのドレスの太腿を掴み締めた。
「……アンセルム。あの男……最初から、ディルクを……」
「ええ、偶然の産物ではありません」
エルザは冷徹に、教会の支配構造の心臓部を切り開いた。
「即死させる毒であれば、暗殺として即座に発覚し、教会に疑いの目が向く。だからアンセルム司教は、薄めた酸と微量の水銀を使い、何年もの歳月をかけて、徐々に、確実に殿下の胃粘膜を破壊していったのです」
エルザの言葉は、残酷なまでに明快だった。
「病に苦しめば苦しむほど、殿下は神殿の祈祷に依存せざるを得なくなる。聖水を飲んだ直後は、アヘン成分によって一時的に痛みが麻痺し、重曹によって胃酸が中和されて『楽になった』と錯覚する。だが時間が経てば、酸と水銀が組織をさらに破壊し、以前よりも激しい苦痛が襲う。……『ほら御覧なさい、聖水をやめれば悪魔が暴れ出す。あなたは神殿なしでは生きていけないのだ』と、恐怖によって魂を完全に飼い慣らす」
病弱な皇太子。
教会に命を握られ、聖水なしでは一日たりとも生きられない、都合の良い操り人形。
やがて皇帝が世を去り、ディルクが帝位に就いた時――帝国全土は、完全にアンセルム司教の掌の上で踊る宗教国家へと成り果てるはずだったのだ。
もしディルクが途中で耐えきれずに喀血して死んだとしても、教会は『悪魔の呪詛に魂が屈した』と発表し、次の都合の良い皇族を玉座に据えれば済むだけの話だった。
「……あ……」
ディルクの喉から、血を吐くような嗚咽が漏れた。
青年の両目から、ポロポロと大粒の涙が溢れ出し、シーツを濡らしていく。
それは、激痛の涙ではなかった。
己が信じ、祈りを捧げ、父のように慕い、敬意を払い続けてきた神の代理人――その男が、自分をただの家畜のように扱い、毎日毎日、自らの手で胃袋へ死の毒を流し込ませていたという、底知れぬ裏切りと絶望の涙。
「アンセルム……ッ!!」
ディルクは震える両手でシーツを掻きむしった。
青白い額に、これまで一度も見せたことのなかった激しい怒りの青筋が浮き上がる。
歯が砕けんばかりに噛み締められ、瞳の奥に、昏く、灼熱の復讐の炎が点火した。
「アンセルム……! 僕を……朕を、謀っていたというのか……! 神の御心と偽り、僕の身体を内側から焼き殺そうとしていたのか……ッ!!」
操り人形だった少年が、自らの命を脅かしていた元凶をその目で認識し、真の統治者としての牙を剥いた瞬間だった。
その激昂する息子の肩を、ロザリア皇妃が力強く、痛いほどに抱きしめた。
皇妃の瞳には、もはや涙はなかった。
そこにあったのは、愛息を食い物にしようとした者たちを、地獄の業火で焼き尽くさんとする、冷酷無比な皇妃としての絶対の殺意。
「許しません……決して、あの者たちを許しはしません」
ロザリアの低く、研ぎ澄まされた声が寝室に木霊した。
「我が愛息の命を弄び、帝室を足蹴にした罪……骨の髄まで、その身に刻み込ませてやりましょう」
ロザリア皇妃は顔を上げ、ベッドサイドに立つエルザを見つめた。
その瞳には、先ほどの母の感謝を遥かに超えた、政治の頂点に立つ女傑としての、絶対的な同盟の炎が燃え盛っていた。
「エルザ」
「はい、皇妃殿下」
「その小皿と、その小瓶……そしてお前の記した病理の記録。すべてを持って、私と共に玉座の間へ来なさい」
ロザリアは立ち上がり、深紅のドレスの裾を翻した。
「皇帝陛下に、すべての真実を上奏いたします。……我が帝国の膿を切り裂く、本当の親裁を始めましょう」
朝の光が、寝室の窓を眩しく照らし出していた。
迷信と欺瞞の聖杯は完全に砕け散り、科学のメスを手にした少女の進撃は、帝国の最高権力の頂――玉座の間へと、真っ直ぐに狙いを定めていた。




