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婚約破棄された氷の令嬢は、嫁がされた枯れおじの下で花開く  作者:


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23 自由をかけた勝負~前編~

「ほう、それはどういうことだ?」

「今後についてどう身を振るか、ご息女自身が決めるということです」

「……つまり婚約をする、しない、というところからティリアが決めるということか?」


 その言葉にティリアがハッとイーラスへ視線を向ける。

 だが、イーラスはティリアの方を見ることなく淡々とケフローグへ説明をした。


「そうです。ご息女が広い世界を見たいと言えば他国への留学しても良いですし、多くのことを学びたければ帝国の学園を紹介します。また、ご息女が婚約をしないという道を選んだ場合は、辺境伯が跡取りに困らないように帝国が支援いたします。私が負けた場合はこのまま話を続けてシィーク辺境伯が婚約者を決めれば良いかと」


 イーラスの話にケフローグが唸りながら胸の前で腕を組む。


「留学や帝国の学園への入学は問題ないが、跡取りは自分の血を継いでるヤツにしたいんだよなぁ」


 ぼやくように呟いた言葉に黄金の瞳がニッコリと微笑む。


「別にシィーク辺境伯が勝てば考えなくて良いことでは?」


 その挑発を含んだ声音にケフローグの口元がニヤリとあがる。


「その勝負、受けて立つ!」

「お父様!?」


 まさかの展開に驚くティリアを置いてイーラスが女帝へ声をかけた。


「いかがでしょう、姉上?」


 話を振られた女帝が持っていた扇子をバッと広げる。


「よくぞ提案した。それでこそ、我が可愛い弟だ。もちろん、勝つつもりであろう?」

「それは当然ですが……それより、いい加減に可愛いは外してもらえませんかね?」

「それはおまえの次第だ。で、肝心のティリア嬢はどうだ? 我が弟に命運を任せてみないか?」


 唐突な問いにティリアが戸惑う。


「え? そ、その、それは……」


 すぐに返事ができないティリアに女帝が優しく声をかける。


「いきなりこのようなことになり不安に思うのはわかる。だが、そなたが我が弟を信じるのであれば任せてくれぬか?」


 そう言われて断れるわけない。だが、気がかりなことは……


「あの、イーラス様のことは信じております。ただ、手合わせというのが……」


 辺境伯である父の強さを幼い頃から見てきたティリアは普通の人ではケフローグに勝てないことを知っている。

 そんなティリアの心境を察したように女帝が説明をする。


「我が弟は軟弱そうに見えるがそこそこ強いからの。無様な結果にはならぬ」

「で、ですが……」


 心配そうに紫の瞳が恐る恐るイーラスを映す。


「大丈夫。悪いようにはしないよ」


 そこにあったのは柔らかく微笑む黄金の瞳。

 その表情に背中を押されるようにティリアは頷いた。


「わ、わかりました。イーラス様を信じます」


 その言葉に女帝が赤い髪を悠然と揺らしながら立ち上がる。


「ならば、決まりだな。手合わせはどこでするんだ?」


 誰よりも楽しそうに声を弾ませる女帝にイーラスが苦笑しながら外を指さした。


「庭はどうでしょう? 広さだけなら十分です」


 窓から見える芝生しかない庭にケフローグが頷く。


「手合わせをするだけなら問題ないな。いいだろう」


 こうしてティリアたちは庭へ出て行った。


~~


「わふっ! わふっ!」


 庭で日向ぼっこをしていた犬たちが尻尾を振りながら一斉にティリアへ飛び掛かる。

 あっという間に犬たちに囲まれたティリアが無表情のまま少しだけ残念そうな声音で話しかけた。


「ごめんなさい、今は遊べないんです」


 その言葉に犬たちの尻尾が一瞬で下がり寂しげな声が響く。


「クゥ~ン」

「キュ~ン」


 潤んだ目で見上げながら全身で哀しみを表現する犬たち。

 そのふわふわな頭を順番に撫でながらティリアが声をかける。


「あとでボール遊びをしましょう。ですので、少しお待ちいただけますか?」

「バウッ! バウッ!」

「わふっ! わふっ!」


 その言葉に犬たちが嬉しそうにティリアの周りを飛び跳ねる。ついさっきこの世の終わりのように沈んでいた姿はどこにもない。

 その光景に女帝が肩をすくめながら横目でイーラスを見た。


「犬たちは素直なのにな」


 トゲトゲと刺さる言葉と視線を無視して赤茶色の髪が歩き出す。


「さて、犬と鷲は邪魔になってはいけないので小屋へ戻しましょうか」


 女帝の言葉を聞かなかったことにしたイーラスが犬と、空の散歩をしていた鷲を小屋へ呼び戻していると、模造剣を持ったセバスチャンが現れた。

 そこそこの重さがあるはずの剣だが老齢の執事は軽々と運んでイーラスとケフローグへ渡す。


「どうぞ」

「ありがとう」

「あまりご無理はされないように。最近は運動が少なめですから、筋肉痛で動けなくなっては困ります」

「わかっているよ」


 付き合いの長い執事の忠告にイーラスが苦笑いを浮かべて頷く。


 こうして模擬剣を持った二人が庭の中心に立つ。

 そこでティリアとともに庭の端にいた女帝が前に出た。


「さて、ルールだが一般的な手合わせ通りでいいな?」

「あぁ」

「いいですよ」


 二人の同意を得たところで女帝が閉じた扇子を空高くあげる。


「騎士道に則り、一本先取した方の勝ちとする。はじめ!」


 号令とともに扇子を振り下ろした女帝が素早く下がる。

 同時にケフローグが年齢からは考えられない動きでイーラスとの距離を詰めた。


「どりゃあ!」


 怒号とともに頭上から振り下ろされる剣。

 だが、イーラスは足を軽く引いて体を横に向けただけで避けた。

 すかさずケフローグが追うように剣を薙ぐが、その動きも先読みしていたように赤茶色の髪がヒラリとかわす。


「まだ、まだ!」


 次々と繰り出される剣撃を寸前で避けていくイーラス。

 だが、その剣を振る腕の動きは徐々に速くなり、息つく間さえ与えない。ゆらゆらと揺れる赤茶色の髪の下でじわりと汗が滲む。


「脇が甘いぞ!」


 その言葉とともにケフローグが素早く模擬剣を突き出した。




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