18 婚約発表から断罪劇へ
こうして迎えた第三王子の婚約者発表会当日。
真っ白な壁に豪華なシャンデリアがさがる王城の広間。
そこでは豪華に着飾った人たちが集まり会話に花を咲かせていた。
その中でも本日の主役は第三王子であるため、学園で第三王子と同級生だった若い貴族が多く、自然と話題にあがっていたことは……
「ガフタ様が正式にクラン様との婚約を発表されるそうよ」
「でしたら次は結婚式ね」
「さぞや豪華な式になりますでしょうね」
「楽しみですわ」
招待状には『第三王子の婚約について発表がある』としか書かれていなかったが同級生の間ではクランとの正式な婚約発表と噂が広がっていた。もちろん、その噂を広めたのは第三王子とクランなのだが。
そして、次にあがる話題は……
「そういえば婚約破棄されたティリアも出席するそうよ」
「まあ、あの礼儀も作法も知らない田舎娘が?」
「さすが田舎者は図太いな」
「私なら恥ずかしくて家から出られませんわ」
「だが、あの田舎者が出席するってことは、その婚約者も出席するのか?」
その言葉に嘲りの対象が移る。
「へぇ、それは見物だな。どんな相手なんだ?」
「なんでも一回り以上、年上の男爵ですって」
「その年で未婚ってことは、訳ありか冴えないオッサンってとこだろうな」
「まあ、田舎娘にはお似合いだわ」
同級生を中心にクスクスと蔑み混じりの笑い声が響く。
そんな若者たちの会話を王は広間の奥にある玉座で顔を青くしながら聞いていた。
「……まさか、最後の挽回の機会を自ら潰すとは」
苦々しく呟いたところで、実の息子でありこの騒動の原因でもある第三王子のガフタがクランを連れて悠然と登場した。
広間が見渡せるように作られた檀上に置かれた玉座。その下では招待された貴族たちが王へ挨拶をするために集まっていたが、第三王子のガフタが現れたことで人々が道をあけていく。
スタスタと一直線に歩いてきたガフタが自分の父親である王へ声をかけた。
「父上。本日はクランとの婚約を改めて皆の前で告げる機会をくださり、深く感謝いたします」
いけしゃあしゃあと口上を述べる息子に王がこめかみを引きつかせる。
「どういうことだ? 今日はティーク伯爵令嬢との婚約破棄を撤回するために整えた場のはずだが」
怒鳴りつけたい気持ちを抑え、努めて淡々と訊ねる父親に対してガフタが平然と答えた。
「お言葉ですが、父上。皆の話を聞きましたか? あんな貴族の作法も知らない辺境の伯爵の娘を婚約者にするなど王族の名に傷がつくだけです。それより侯爵家のクランの方が美しく教養もあり、王家に相応しい……いや、クラン以上に私の婚約者に相応しい令嬢はおりません」
そう言ってガフタは隣に立つクランの細い腰を抱いた。
学園一の美女というだけあり、これだけの来賓の中でも一際目立つ顔立ちと豊満な体型。しかも、これでもかと財力をかけて飾っている。
その様子に王は深く息を吐いた。
「何度も忠告したが……本当にいいんだな?」
その声は疲労に染まっており顔色も悪かったが、そのことに気づいていないガフタは胸を張って断言した。
「何度言っても無駄です。オレの気持ちは変わりません」
息子の説得は無理だと悟った王がクランへ視線を向ける。
「クラン嬢も本当に良いのだな?」
それを王妃になる覚悟ができているのか? という問いに捉えたクランが上品な笑みを浮かべて優雅に頷く。
「はい。ガフタ様とご一緒なら、私はどのような状況になろうとも乗り越えていきます」
甘えるような媚びを含んだ声だが、王は鋭い視線とともに切った。
「その言葉、忘れるでないぞ」
「はい」
念押しの言葉にクランがしっかりと頷く。
そこに広間がざわついた。
「やっときたか」
噂にあがっていた本人が登場したことで人々の視線が入り口へと集まる。
このままいつものように盛大に蔑もうとしたガフタだが視線を向けた瞬間、青い目を丸くしてポカンと口をあけたまま固まった。
豪華な衣装に溢れている人々の中でも、そこだけ天から光が降り注いでいるかのように輝いている。
そこにいるのは白銀の髪を複雑に結い上げ、紫の瞳を宝石のように輝かせているティリア。
薄っすらと施された化粧は整った顔立ちをますます美しく仕上げ、そこに先進的なデザインを組み込み、繊細なレースで作られた水色のドレスをまとっている。
しかも、その身を飾るのは屋敷が買えるほどの高額な装飾品。イーラスが王都の宝石店で買ったネックレスとイヤリング。そして、髪飾りが輝く。
スラリとしたティリアの全身を優美に魅せており、自然と人の目を惹く美しさに男性陣の目が釘付けとなる。
来賓の人々が唖然とする中、ガフタはティリアの隣に立つ男に目を奪われていた。
「あいつは、誰だ?」
ガフタは王城でたまに見かけるボサボサの髪に無精ひげが生えた冴えないオッサンにティリアを押し付けたはずだった。
だが、目の前にいるのは熟練した渋さが漂う精悍な顔の男。
赤茶色の髪をオールバックにして、涼しげな目元がハッキリと見える。まっすぐな鼻筋に薄い唇という眉目秀麗な顔立ちに厚い胸板に引き締まった腰。そして、スラリとした長い手足と服の上からでもわかる適度に鍛えられた体躯。
その姿を目にした女性たちの頬が一斉に朱に染まる。
この場にいるすべての女性が熱い視線を送り、ガフタの隣にいるクランもうっとりと見つめるほど。
その中で事情を知らない大人たちがヒソヒソと若者たちに訊ねた。
「誰だ、冴えないオッサンって言ったのは」
「隣にいる美女も誰だ? 田舎娘なんかじゃないだろ」
「おい、どういうことだ?」
だが、想定外のことに元同級生たちは何も言えず唖然としたまま。
完全に広間の空気を二人に持って行かれたガフタはクランの腰を引き寄せて人々の視線を集めるように大声を出した。
「よくのこのことやって来たな、ティリア! そんな冴えないオヤジに嫁いで……」
「口を慎め!」
ガフタの言葉を止めた人物に人々の視線が一斉に集まる。
王子の発言に割り込むなど不敬罪で即処罰される行為。だが、発言した主を確認した全員が黙った。
「……父上、どうかされましたか?」
ガフタの言葉を途中で止めた王が青い顔のままゆっくりと首を横に振る。
その様子に人々が首を傾げていると、イーラスがティリアを隣に連れたまま前へ進み出た。
「やあ、久しぶりだね。ゼフ王」
その発言に王以外の全員が硬直した。
一介の男爵が王へかけてよい言葉ではない。
唖然とした空気が漂う中でガフタがすぐに声を出した。
「おまっ、不敬にも程があるぞ! 誰かこいつを……」
「よい」
再び遮られたガフタが抗議する。
「なぜですか!?」
「口を慎めと言っただろ! おまえは黙っていろ!」
公然で王子を叱咤する王の姿に来賓の人々がいつもと違う雰囲気を感じとる。
さまざまな視線が集まる中、イーラスがにっこりと黄金の瞳を細くした。
「さて、王もいることだし、ここでこの国の学園の現状について報告をさせてもらおうかな」
その言葉に若い貴族たちの肩がビクリと跳ねた。




