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十七話

 メイドさんが出て行ったお部屋の中で、木箱に座ってる。

 うーん。しばらくは待った方が良さそうだったし、お暇しようかな。


 足をぶらぶらさせていると、さっきメイドさんが出ていったドアが勢いよく開いた。

 メイドさんの後から、お腹のおじさんもお部屋に入ってくる。


「リズリリス! あなたも一緒に食べて行きなさいよ!」

「んー。いいのー?」


 悪魔をご飯に招待する人間さんは、珍しいかも。


「もちろんよ。だよね、パパ?」

「うむ。ラトリアのお客様なら、セライゼン家は大歓迎だよ」

「ふーん。それならご一緒するよー。シリシーもいいかな?」


 シリシーはいつの間にか妖精さんに化けている。さすがあたしの使い魔だね!


「勿論だとも。妖精もラトリアのお客様なんだろう? 食事は人と同じもので良いかな?」

「はいでございます。オカネモチのご飯、期待するです」


 みんな楽しげで、にこにこしてる。幸せそうだなあ。

 今回も良い契約、出来たかも!



「ご馳走様。シェフに今日も上出来だと伝えておいてくれ」

「美味しかった。……ここのお食事って、こんなに美味しかったんだ」


 メイドさんが泣いてる。でも魂は、ふんわかぽかぽかだ。

 ご飯も美味しかったし、良い感じ。


「そうですわ、ラトリアちゃん。使用人の服なんて着てないで、あなたもセライゼン家の者なのですから、おめかししてきてはどうかしら?」

「う、うん!…ありがとう、ママ!…っあ」


 メイドさんが嬉しそうに立ち上がったら、弾みで椅子が倒れちゃった。

 燕尾服の人間さんが、慌てて椅子を起こした。


「こらこらラトリア、はしたないぞ」

「うふふ。ラトリアちゃんはおてんばね。気にしないで、レイラちゃんと一緒におめかししてきなさいな」

「うん!…ふふふ。行こうよ。レイラ! リズリリスとシリシーも!」

「はい、お姉さま」


 メイドさんに腕を引っ張られる。待ってよー。


「…シュイゼン。ラトリアの部屋は、何故物置なんだ?」

「申し訳ございません。分かりません」

「これはいかんな。客人に誤解させてしまう。直ぐにでも部屋を移してくれ」

「承知致しました、旦那様」



△▼△▼△▼△▼△


 メイドさんと契約してから三ヶ月が経った。そろそろ回収の告知に行こうかな。


 ふよふよと空を飛んで、メイドさんのいるお屋敷に向かう。

 あれ?なんだかお屋敷が燃えてる。


「ご主人ちゃん。あのお屋敷、火事でございます」

「うーん。メイドさん、燃えちゃってないよね?」


 火の上がるお屋敷の中に入って、メイドさんを探す。

 良かった。入ってすぐの大広間にいるね!…でも。


「リズリリス、やっと来たんだ」

「うん? うん。回収の告知に来たよー。でも火事だから、避難しなきゃだね。燃えちゃうよ?」


 メイドさんは、手に燭台を持ってる。先にはロウソクが刺さって燃えてる。危ないなあ。


「ふふふ。リズリリス?……この火事は、私が火をつけたんだよ。なんでだと思う?」

「そうなの?…うーん。分かんないかも。火を見たくなったから?」


 クイズかな?でもゆっくりしてると、本当に燃えちゃうかも。

 それに、魂がなんだかドロドロしてて濁ってる。それに、冷たい感じ。


「悪魔だと、分からないよね。――私ね、契約をして最初は幸せだったんだよ?」

「うん、幸せそうだったよー」


「ふふ。そういうのは分かるんだ。…うん、幸せだった。温かくて美味しい食事、清潔なお風呂に、綺麗なお洋服。広くて快適な部屋。それに、無条件に私を認めて優しくしてくれる家族とお屋敷。みんなみんな、私がずっと欲しかったもの」


 メイドさんは言葉にしながら指折り数えていく。

 幸せそうだったのに、なんで今はあんなにドロドロしてるんだろ。


「――でもね、私気づいたの。…気づいちゃったんだ」


 あれ?メイドさん、泣いてる。でも笑ってる。


「私が欲しかったのは、契約なんて無くても、私を愛してくれる家族だったんだ。……私、どこで間違えちゃったんだろう。どうすれば良かった、んだろう」

「何を言ってるのでございます。契約しなければいじめられてたのだから、契約の間だけでも楽しめばいいです」


 メイドさんが泣き始めちゃった。この契約って、失敗しちゃったかも。

 あたしもどうすれば良かったかなんて、分からないよ。


「何もなくなっちゃった。…何もなくなっちゃうのは、これからか。この家の者はみんな、私が仕込んだ睡眠薬で寝ちゃってるの。……リズリリス、欲しいなら全部の魂を取っちゃっていいよ?」

「うーん。残念だけれど、無関係な契約してない魂は、悪魔の規則で回収できないんだよー」


 奮発してくれたのは嬉しいんだけど、仕方ないよね。


「そっか。それじゃ、私の魂、取る?」

「んー。今日は告知に来たんだけど、こうなっちゃったら仕方ないよね」


 炎ももうここまで来てるし、このままじゃメイドさんの魂も回収出来なくなっちゃう。

 メイドさんの胸に手を当てる。


「じゃあ、取るよー」

「どうぞ。…こんな屋敷、みんな燃えちゃえ」


 あたしはメイドさんから、魂を抜き取った。


 うええ。やっぱりぐにゃぐにゃドロドロしてる。あちこち溶けてて、それに冷たいよお。

 でも、無駄にしちゃダメだよね。


「いただきます…。あむ。にがいぃ」

「だ、大丈夫なのです!? ご主人ちゃん!」


 メイドさんの魂はとっても苦くて、じゃりじゃりしてる。

 最初は幸せそうだったのに…人間さん、なんでえ…。


 今回は、失敗しちゃったなあ。人間さんって難しい。

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