騙騙開直
「えーっと......」
「なんでアカツキ君が、2人いて、一人そんな、状態、なの?」
混乱しているのか、たどたどしく細かく言葉を切りながらミズノが俺に尋ねる。
「此奴は俺の姿を真似た怪物だよ。俺じゃない」
これは譲れないな。
「で、でも...」
「信じてよ...仲間でしょう?」
思わず口調が変わる。
私は今焦っている。
理由は姿を真似てきたムカつく奴の死体が元に戻らないのだ。
元の姿かたちは知らないが、真似るというのなら元が存在するはずだ。
「そういえば...魔族って」
おいやめろ
またその結論か
なんでそんな都合悪く頭回るんだよ。
いつもは何もわかってないくせに
「親が同じなら稀に姿かたちが全く同じになるって...」
その理論はおかしいだろう。
なんで人間が敵対している魔族のことをそんなに知ってるんだよ。
「もしか..して?」
「本当に?」
それもおかしい。
いつどのタイミングでお前らの望むハル・アカツキが魔族とすり替わったんだ。
不可能だ。
ログリアの結界がある中であの城に潜り込むなんて、少なくとも今の俺じゃ無理だ。
それに聖女なら審判で確認できるはず
以上証明は完了。
後は話すのみ......!
「まて、まずは俺が魔族だとしてもあのログリアのけ」
『た...助けてくれぇ...!ミズキ!』
クソがぁ!!
ふざけるなクソが!
また邪魔しやがって、今度こそ!
頭に血が上る。
ここぞというところでまた邪魔をしやがって、さっきの洗脳を解いた時も今の聖女の時も!
魔力の制御が上手くいかず壁に罅が走る。
このクソは聖女からは見えない位置に、俺には見える位置に顔を向けニヤニヤしている。
殺してやりたいがここで殺したのなら確実に俺は敵視されるだろう。
このクソは俺がこの世界、展開に似たものを待ち望んでいたことを知っている。
そして俺が絶望するのを望んでいる。
......今は我慢だ。
「え!?どういうことなの!?」
「アイツは姿を真似るタイプの魔物なんだ。信じてくれ!」
『此奴は魔族だ...早く、逃げろ......!』
この言葉を聞いた聖女の顔を見る。
あぁ...もうだめだ。
完全に騙されている。
「違う!俺は魔族じゃ!」
「俺は見たぞ!こいつが今倒れている方のハルに突然攻撃したのを!」
なんで!?
こうも悪い展開に!
此奴は斧使いの..!
畜生!クソ!洗脳するか!?
しかしそんなのその場しのぎで俺の理想じゃない。
諦めるしか......
「この魔族が!死ね!」
「ゆ、勇者!?」
なんで此奴まで!
気絶してろよ!
勇者は叫びながら俺に剣を振るう。
当然俺は避けようと体に魔力を籠め、横に飛ぼうとする。が
「な!?」
左腕が肘から消し飛んでいる。
痛みと驚きで横に飛ぶはずが足をもつれさせそのまま転んでしまう。
『勝った』
転び打ち付けた頭の真横に俺の顔がある。
憎たらしい程に顔に笑みを浮かべた、嫌悪感しか湧かない気持ちの悪い顔が勝ち誇った笑みを浮かべている。
「ガアァ......!」
今のなって腕がはっきりとした痛みを俺に伝える。
床に倒れ伏せ悶える俺に無慈悲で理不尽な勇者の足音が近づいてくる。
「アカツキ...よくやった。あとは任せろ......!」
何が任せろだ。
ハル・アカツキは俺だ!
確かに利用して満足しようとしたが悪い子とは何もしてないじゃないか!?
「ハルを返せよ!」
「悪魔!屑!」
目を覚まし始めた他の生徒が俺に罵声をぶつける。
本物の俺が偽物の俺の横で倒れ伏せ、
本物が罵倒される。なんて滑稽だろうか。
偽物君は皆に心配され囲まれ、涙される。
その光景がそんな皆に囲まれる光景を願ったボクがこんな目に合うなんて......
「じゃあなクソ魔族」
無慈悲で理不尽で勘違いな勇者の剣がボクの胸を貫いた。
「帰るか...」
俺の口からそんな言葉が意図せず零れた。
「うん...せめてハルの遺体は持って帰ろう」
「俺が背負うよ」
そんな言葉に返事をするのは聖女のミズキだけで他の皆がは『ハル』の遺体を見て硬直している。
無理もないが今は動いてもらわなければ、いつまたクソ魔族が来るとも限らない。
「皆、帰るぞ...ハルは俺が背負う。そこ退いてくれ」
人垣をかき分け遺体を背負う。
そのまま先頭を歩き、先導する。
「辛いのは分かる。でも今は帰るぞ」
とどめを刺して後味が一番悪いのは俺だっていうのに、こいつらどうせ
【自分もああなるのかも】
とか考えてんだろうな。
これは元の世界に変えるのに時間がさらに掛かりそうだ。
今思えば此奴とはあまり喋ったことがなかったな。
いつも一方的に因縁つけて、文句言ってたことしかない気がする。
そういえば途中からなぜかこいつに対するみんなの態度が変わりだしたんだよな。
それもクソ魔族のせいだと思えば納得がいく。
なんせ賢者さんを欺いて俺たちにハルを敵視させたんだ。
...今思えばよくそんな奴に勝てたな。
それもハルのおかげだろう。
振り返ると良い思いではないが、濃い思い出はたくさんあった。
洞窟は一本道だからもうすぐで外だ。
後ろからは泣き鼻をすする声が聞こえる。
もらい泣きだろうか、俺の目から涙が流れてきた。
罪悪感しかない。
いままで敵に操られて敵視して、孤立させて悪かったな。
そう思うと口が軽くなり、つい言葉が漏れた。
「ずいぶん軽いな」
「やっぱり下半身無いと軽いよ」
「ごめんな、いままで」
「墓は俺が立ててやる」
涙声で聞き取りにくい気持ちの悪い声だけど、俺の心にはしっかりと目標として保存した。
むかーしむかしあるところに生まれた時から自我を持つ子供がいました。
しかし自我はあっても感情は上手く出来ていませんでした。
不定形で不確定で、それでも確実に彼には自我があり、欲がありました。
生まれからその子の考えは捻じれ曲がり、湾曲し、悟り、世界に対する軽蔑の眼差ししかできませんでした。
それでも彼は周りを見ていると欲しいものが見つかりました。
俗にいう『トモダチ』です。
でも彼は生まれ持って確立した歪んだ自我を持っていたためか、同年代とはかけ離れた存在でした。
そこで彼は考えました。
『真似よう』、と
そう思い立った彼は捻じれた自分
湾曲した自分
そして年相応な自分に自我を捻じ切りました。
人間は理性で活動するとはいえ、本能がないわけではありません。
そして子供は本能が理性よりも強いです。
歪であやふやになった彼を他の子供は追放し、虐めました。
そんな状況で彼は人生で初めて狼狽しました。
その時の彼の年齢は5歳でした。
狼狽した彼のは自我を補強し、輪に溶け込むことに成功しました。
そんな彼は11年間誰にも本心本性を悟られずに生きてきました。
ですが転機が訪れます。
彼は、彼らは異世界に来てしまいました。
でも彼は考えました。
『つり橋効果とかで関係を強固にし理想に近づけよう』、と
彼の理想とは
『以心伝心、本心を受け入れあう関係』でした。
その理想を叶えるためには自分がいくら犠牲になっても良いと決心しましたが...
「運の悪さと決断の遅さか」
つくづくボクは運が悪いな。
望んだものが足を生やして逃げていく。
それだけならまだしも、障害物まで用意しやがって...
無理ゲー無理ゲー
クリア不可能。
現実は小説より奇なり。
「もう諦めようか」
うんうん。
この機会に理想を体現しようなんて考えたボクが悪かったしバカだった。
ログリア?ログリアとかどうでもいいよ。
1番可能性はあったけどあくまでボクが目指していたのは『どちらも望んだ形』での以心伝心信頼関係だし。
つり橋効果で無理やり理想を体現しようとしたボクが浅はかだった。
胸に刺さっている剣は身体強化で防いだから致命傷じゃない。
腕ももう完治させてある。生えてはいないけど
それにしても寒い。
特に顔が、あと胸の剣の刺さっているところ
ボクは今とてつもない体験をしている。
16年間求め続けてきたものを諦める経験なんて現代じゃあそんなにできることじゃないよ。
もうこれで僕も私も俺も必要ないね。
自我を一つにするなんて経験そうそうできないよ。
ついでに涙が流れて鬱陶しい顔の目の部分を自分の手で消し飛ばすなんて経験もできないね。
『ハル・アカツキの称号欄に【諦めたもの】【自己理解者】が発現しました。【理解者】は【自己理解者】変化します』
『【自己理解者】を発現されたハル・アカツキは自身の情報を聞くことが可能になりました』
『ハル・アカツキの種族が【阿修羅】に進化しました』
『ハル・アカツキに【自制の魔眼】が発現しました』
『ERRORERROR ハル・アカツキの視力の欠損を確認』
『【自制の魔眼】は【自制の支配】に変化します』
『以上の情報は、ハル・アカツキには報告されません。キカイにてご確認を』
『勇者全員の称号欄に【裏切者】【バカ】が発現しました』
『真似っこゲンの称号欄に【どんでん返し】【策士】を追加します』
『以上の情報は随時確認できます。ご注意を』




