自己陶酔
目の前に広がる珍風景。
『外面は』クールビューティーという言葉がよく似合うログリアが慌てている。
それはもう面白い感じで、顔を青くしながら口をパクパクしている。
ふんふん、これは何かに怯えているな。
「自分より強いものを恐れるのが生きる者の性だ」
いつかのログリアさんの言葉だ。
この言葉と今のログリアの状況を照らし合わせようか。
自分より強いものを恐れる立場にいるのが『私』
恐れられる立場にいるのがログリアさん
よって『私』の推測どうりならログリアは『俺』に恐れられるのを恐れている。
ということだ。
俺っていつ人心掌握なんて身に着けたっけ。
メンタリストの真似事ならできるけど。
まぁ、ならば彼女の過去の有象無象のクズになるか、
今の『私』と似た境遇の他の勇者のような人間になるか。
二つに一つ
選択によればログリアさんという大きなアドバンテージを得る。
ま、なにを選べばどうなるかなんて分かりきっていますが...
ふふ、どうしようかなぁ...
しかし今の状況でマイナスの選択をして得なんてありませんし、一択ですね。
はぁ...つまんない。
あ!そうだ!...
「ログリア、早く魔法のことを教えてくれないか」
優しく、話を逸らす。
「俺は先に戻ってる」
気にしていないという風を装い、
「待ってる」
おそらく言われたことのない言葉を優しく、浸透するようにログリアに投げかける。
そして後ろを見ずにゆっくりとわざとらしく足音を立てながら、図書室を後にした。
今回の選択は今まで力の大きさで忌避され蔑まれてきたログリアへの肯定でも否定でもない、ただ選択肢を与えること。
認めるなんて選択肢はあるけれど趣味じゃない。
否定はこれからのためを考えるとデメリットが大きい。
だから今回は違うパターンで攻めた。
いつもは他人の選択を押し付けられる立場にいるだろうログリアに選択肢を与えた。
これは賭けだ。
勝てば大きなアドバンテージ
だが負けてもこちらから接近すればいい。
ローリスクハイリターンの賭け。
こちらへの被害は無いに等しい。
そう結論づけ俺は魔法専用の練習場に戻る足を速めた。
あ、あ...あぁ...
思わず口から声が漏れた。
見られた、気づかれた。
恐れられそして離れていく。
もうあんな気持ちにはなりたくない...!
脳裏には小さいころ、12歳までのころの記憶が流れている。
小さくて、ボロボロな貧乏孤児院。
風貌は小汚くても、辛いことがあっても、笑いが絶えなかった孤児院での生活。
時間は変わり13歳以降の記憶が流れる。
偶然魔法に目覚め奇異な存在として孤児院で怖がられたあの日。
そして1人になって周りの重圧で苦しんだ日々。
騙されたり騙したり、公言できないようなこともやった日々。
男たちに襲われ初めて人を殺した日。
始まりは偶然でも結局辛いことしかなかった今までの人生でようやく見つけたのだ。
ハル・アカツキという休まるところを。
初めての恋慕だ、気持ちは何よりも大きい。
だがもし私があの時言った
「自分より強いものを恐れるのが生きる者の性だ」
という言葉通りにハルが私を恐れたなら
私は...ハルを殺してしまうかもしれない。
だがハルは言った。
「待ってる」...と
やった!
やった!
初めてだ、初めて受け入れられたのは!
おもわず顔がにやける。
今の私の顔は見れたものではないだろう。
私は自分が異常だということは分かっている。
力も感情も趣味も性癖も見た目も思いつくことすべて異常だと
周りからずれているのだと理解している。
小さいころの私からは想像もできないほど今の私は異常だろう。
この変化を周りのせいだ、などと言う気はない。
だから、私はこの恋慕を異常と認める気はない。
ハルに恋し、ハルに受け入れられた私の足はハルのもとへと自然に歩みだしていた。
魔法専用の練習場に向かう道すがら、現状の自分を見直す。
どうやら本性が少しずつ漏れてきているようだ。
その証拠に時々一人称が変化する。
いかんね、中学の時の二の舞になる。
あ、そうか魔力とか多いこと以外にもこっちに来てからずっと無表情だったのも含めて気味悪がられてたのかな?
だったらいつもの『俺』になる必要がある。
心の中ではギャグ吐いて自虐する『俺』に、
年相応には性に対して興味を持つ『俺』に、
そこそこには喋る、ちょこっと無口な『俺』に、
他人を少しだけ気遣う少し優しい『俺』に、
色々な雑学を知っている『俺』に
いつも、学校で、家での振る舞いを思い出し一つ一つをトレースする。
周囲を見て誰もいないことを確認したら手で表情筋をグニグニと弄り柔らかくする。
...うむうむ、そこそこ『俺』にはなったかな?
そこそこ『俺』になったタイミングで、俺の後ろから足音が聞こえてきた。
だがその足音は想像していた人物の足音ではなく
振り返ってみると、勇者様の足音だった。
てか勇者って誰だっけ?
興味なかったから忘れた。
確か...確か...サッカー部の......?
そうだ!カネモト君だ、思い出した。
女の子に囲まれてちやほやされてた奴だ。
この世界に来てある意味一番現実逃避している奴だ。
覚えた覚えた、うん。
「おい!アカツキ!」
はい?ストーカーですか?
ホモいけどまぁ適当に対応しよう。
「なんです?話なら手短に」
うん、ほんと手短にね、君の後ろから足音聞こえるから、ついでデカい魔力も
「お前、ちょっと魔力が多いからって調子に乗るなよ?」
「俺が勇者だ、主人公なんだよ。あまりでしゃばるな」
ありり釘刺されちゃった。
こっちなんてお前のこと眼中になかったのに...
「まぁ、あれだ、頑張ってね」
自己陶酔とか自己中心的なお方は応援すればいいって誰かが言ってた。
「...まぁいい、話は以上だ、分かったな?」
そう言い終わると体を翻し、颯爽と女の子たちのところへ戻っていった。
ため息をつき、やれやれと頭を振っていると
先ほどまで勇者の後ろから迫ってきていた足音はもうすぐそこまで来ていた。
読んでくれてありがとうございました。




