第4話 物語の本当の敵
卒業パーティーの事件が解決してから数週間後。
セレアが恐れていた通り、王都では、原因不明の病にかかる人々が現れ始めた。
最初は数人だった。
しかし、日を追うごとに患者は増え、王立医学院の医師たちも原因を特定できずにいた。
セレアの治癒魔法では、患者の症状は一時的に改善するものの、すぐに再発してしまう。
「そんな……どうしたら…」
彼女は焦った。
この現象は、前世で読んだ物語の展開と一致していた。
王国を襲う原因不明の病。
聖女の力が効かない患者たち。
そして、やがて訪れる王国の崩壊。
セレアとミサロッタは、まだこの世界の流れを変えることはできていないと判断した。
二人はもう一度、王立図書館の禁書庫を訪れた。以前から疑っていたように、やはり何か大きな力が働いているに違いない。まるで魔法のような力が……。
そう考えた二人は、改めて手掛かりを探すことにした。
そこで見つけたのは、古代の魔法に関する記録だった。
かつてこの世界には、物語の筋書きを記した魔法の書が存在していた。
その書は、人々の運命を一定の方向へ導く強い強制力を持っていた。
王太子と男爵令嬢の恋愛も、悪役令嬢の断罪も、聖女の祝福も、すべてはその書に記された筋書きの一部だったのだ。
そして、原作の物語が終わると、書に記された運命は次第に世界そのものを蝕んでいく。
原因不明の病は、筋書きから外れた世界を元に戻そうとする力から生み出されたものだった。
「つまり、私たちが物語を変えたから、世界が元に戻ろうとしているってこと?」
ミサロッタは尋ねた。
「おそらくね」
セレアは頷いた。
「でも、私たちはもう、物語に従って生きるつもりはないわ」
彼女は古代の書を見つめた。
「この世界の人々は、自分の意思で未来を選ぶ権利があるはずよ」
ミサロッタは微笑んだ。
「そうね。だったら、私たちで、その書を壊してしまいましょう!」
「そんな……簡単に言うわね……」
「だって、そうしないと安心してアイスを食べられないじゃない!」
「アイスって」
セレアは、思わず吹き出した。
だが、二人はすぐに真剣な表情に戻った。
物語の筋書きを支配する魔法の書。
それを破壊すれば、世界は救われるかもしれない。
しかし、そのためには、書が保管されている王宮最深部の禁域へ入らなければならなかった。
セレアとミサロッタは、王宮最深部の禁域に立ち入るため、王にこれまでのことを正直に話し、この国を救うために王宮最深部へ入らせてほしいと懇願した。
王は、自分たち王族が何もしてこなかったことを詫び、二人に禁域への立ち入りを許可した。
そしてそこには、古代から受け継がれてきた魔法の書が保管されていた。
書の表紙には、ミサロッタたちが前世で読んだ小説と同じ題名が記されている。
『癒しの聖女と銀髪の王子』。
ミサロッタは震える手で本を開いた。
そこには、自分たちの人生が記されていた。
ミサロッタが悪役令嬢として断罪されること。
セレアが王太子とチェリーヌの恋を祝福すること。
そして、王国が原因不明の病によって崩壊すること。
やはり、すべてがあらかじめ決められていた。
「……ふざけないで」
ミサロッタは本を睨みつけた。
「私の人生は、誰かが書いた物語で決められるものじゃない!」
セレアは頷いた。
「私たちは、自分の意思で生きる。そのためには、この書を壊さないと!」
二人は魔法の書に手を伸ばした。
しかし、その瞬間、書から強烈な光が放たれた。
二人の頭の中に、大量の記憶が流れ込んでくる。
前世で彼女たちが小説を読んでいたこと。
同じ物語を読みながら、それぞれ異なる結末を望んでいたこと。
そして、二人がこの世界に転生したのは、偶然ではなかったこと。
実は、前世で二人が読んでいた小説は、同じ作者が書いた作品だった。
しかし、作者は二つの異なる結末を書いていた。
一つは、聖女と王太子が結ばれる恋愛物語。
もう一つは、その後に王国が崩壊する悲劇だった。
二人が読んだ本は、それぞれ異なる結末を持っていたのである。
そして、二人がこの世界に転生したことで、二つの物語が一つの世界に重なってしまった。
世界は二つの結末を同時に実現しようとし、矛盾を解消するために人々の運命を変えようとしていたのだ。
ミサロッタは理解した。
「だったら、私たちで新しい結末を作ればいいのよ!」
ミサロッタは叫んだ。
「誰かが書いた筋書きじゃなくて、私たち自身の物語を生きるの!」
セレアは彼女の手を握った。
二人の魔力が重なり、魔法の書が再び激しく輝き始める。
そして、二人は書の最後のページに、自分たちの意思を刻み込んだ。
――この世界の未来は、誰かが決めるものではない。
――人は、自分の意思で生き方を選ぶことができる。
次の瞬間、魔法の書は砕け散った。
王都を覆っていた黒い霧が晴れ、原因不明の病に苦しんでいた人々の症状が瞬く間に消えていく。
聖女の治癒魔法も、再び本来の力を取り戻した。
世界は、物語の筋書きから解放されたのだ。
ミサロッタは、セレアの手を両手でぎゅっと握って言った。
「……終わったの?」
「ええ。私たちが終わらせたの」
二人は笑い合った。
そしてミサロッタは、いつもの調子で言った。
「よし! これで心置きなくチョコモナカチャンピオンの再現に取りかかれるわね!」
「……あなた、本当にブレないわね」
「当たり前でしょう! 私がこの世界で何とか頑張ってこれた理由は、チョコモナカチャンピオンのおかげなんだから!」
セレアは呆れながらも、幸せそうに笑った。




