声
異変に気づいたのは、神谷だった。
何度も連絡が来ていた。
俺は返さなかった。
電話も鳴った。
出なかった。
それでも。
しばらくして。
家の外で声がした。
「……おい」
聞き慣れた声だった。
「いるんだろ」
俺は返事をしなかった。
「返事しなくてもいいから」
少し間があった。
「俺、ここにいるから」
その言葉を聞いた瞬間。
何かが切れた。
涙が出た。
自分でも驚くほど止まらなかった。
「……俺さ」
声が震える。
「全然できない」
神谷は何も言わない。
「昔はできたのに」
「うん」
「お前はできるのに」
「……うん」
「俺、何やっても中途半端で」
「うん」
「こんなんじゃ……」
言葉が続かなかった。
神谷はしばらく黙っていた。
それから言った。
「俺もできないよ」
「……嘘だ」
「本当」
「だって、お前……」
「何でもできるように見える?」
「……見える」
神谷は小さく笑った。
「じゃあ、俺の負けだな」
「……え?」
「俺、ずっと隠すの上手かったんだ」
神谷は、自分のことを話した。
勉強が嫌になること。
失敗が怖いこと。
期待されるのが苦しいこと。
弱いところを見せるのが怖いこと。
俺が知らなかった神谷の話だった。
「俺、お前のことずっとすごいと思ってたよ」
「……俺を?」
「うん」
「でも俺、二番だったじゃん」
「だから?」
「……」
「俺、お前を二番だと思ったことないよ」
その言葉を聞いたとき。
中学時代の記憶が蘇った。
『俺、お前と競争してるつもりないけど』
あの言葉。
俺だけが勝手に競争していた。
神谷は、俺を敵だと思っていなかった。
「お前さ」
神谷が言った。
「俺みたいにならなくていいんだよ」
「……」
「お前はお前でいいじゃん」
昔なら。
綺麗事だと思った。
でも。
今は。
少しだけ分かった。




