大海
高校生活は、思っていたより忙しかった。
勉強。
部活。
友達。
ゲーム。
小説。
全部やりたい。
全部成功させたい。
全部、理想通りにしたい。
でも。
人間の一日は、二十四時間しかない。
そんな当たり前のことを。
俺は受け入れられなかった。
「もっとできるはずだ」
そう思った。
だから削った。
休む時間を削った。
寝る時間を削った。
遊ぶ時間を削った。
それでも足りない。
足りないから、もっと削る。
そんな生活を続けていると。
少しずつ、何かがおかしくなっていった。
「最近、寝てる?」
神谷が聞いてきた。
「寝てるよ」
「嘘つけ」
「寝てるって」
「顔に出てる」
「うるさいな」
俺は笑った。
神谷も笑った。
「まあ、無理すんなよ」
「無理してない」
「そっか」
神谷はそれ以上言わなかった。
家に帰る。
机に座る。
教科書を開く。
問題を解く。
時計を見る。
小説を書く時間がない。
ゲームをする時間もない。
友達と遊ぶ時間もない。
でも。
全部やりたい。
だから。
何かを削る。
削った自分を責める。
責めた結果、また何もできなくなる。
そして。
また自分を責める。
世界が広くなったはずなのに。
俺の視界は、逆に狭くなっていった。
周りを見る余裕がなくなっていった。
誰かが自分より上にいる。
誰かが自分より先に進んでいる。
自分は遅れている。
そんなことばかり気になった。
俺はようやく。
大海の広さを知り始めていた。
でも。
広い世界を知ることと。
その世界を楽しめることは。
同じじゃなかった。




