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都落ちした元神童の俺は、田舎にいた本物の神童たちに鍛えられて強者となって返り咲く  作者: RCAS


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第2話:俺に合わない剣

 指を緩めて、軽く振る。相手がいなければさっきの振り方を繰り返せるようになってきた。


 だが、フィーナが剣を打ち込んでくると――。


「ほら、また固まった」


 頭へ落ちてくる木剣を受けた途端、腕が止まった。押し返そうとした俺を置いて彼女の剣が離れ、空いた胴を打たれる。


 見えていた。剣が引かれるところも、そのあと胴へ来るところも。なのに、どうして追いつかない?


「握らないようにしてたんだけどな……」


「手はな。今度は肩から動かなくなったぞ」


 上腕を指でつつかれ、ようやく力を抜いた。受け損ねまいと支援術で身体を強化したのだが、それがいけなかったのか?


 強化して動けなくなるなんて、何のための支援術だ。


「もう一本頼む」


「今日は終わりにしよう。お前、その脚をかばい始めている」


 指摘されて足元を見ると、さっき打たれた側へ体重をかけないように立っていた。


 確かに痛い。だが、今やめたらあの振り方を忘れてしまいそうだ。


「あと一回だけ」


「駄目だ。変な立ち方まで覚えられたら、私には直せないぞ」


 木剣を取り上げられてしまった。フィーナは二本まとめて壁へ戻し、俺を振り返る。


「やはり兄さまに見てもらう方がいいな。明日の朝に来い。一門衆の稽古の時間だが、特別に見てもらえるよう頼んでおく」


「いいのか? 俺はここの門下じゃないんだが……」


「お前のちぐはぐさは見ていて面白いからな。兄さまも興味を持つはずだ」


「……俺はちっとも面白くない」


「直ったら面白くなるさ」


 俺が学校でどれだけ悩んだと思っているんだ。……それでも、明日も見てもらえるならありがたいか。


 稽古の始まる時刻を聞き、見回りの前に来ると約束した。初仕事から遅れるわけにはいかないし、今夜はちゃんと寝ておこう。


         ◇


 翌朝、道場へ向かうと戸口の手前から木剣の打ち合う音が聞こえてくる。


 子供から俺より年上の男まで、何組かに分かれて稽古をしている。俺に気づいたフィーナがその間を歩く金髪の青年に声をかけた。


「兄さま。昨日話したセインが来た」


「君が剣士セイン? 僕はフェリクス。フィーナがずいぶん楽しそうに話すから気になっていたんだ」


 顔立ちは妹によく似ているが、ずっと穏やかに話す人だ。俺よりいくつか年上だろうか。あのフィーナが敵わないというから、勝手に大柄な剣豪を想像していた。


 ……昨日も見た目で油断したばかりだ。人を見る目まで落第しては笑えないぞ。


「セインです。お時間を取らせてすみません」


「構わないよ。まず、昨日と同じように打ち合ってみてくれるかな」


 フィーナから木剣を受け取り、向かい合う。軽く握ることを意識しても、剣が迫れば受け止めようとしてしまう。


 今も胴を打たれたところでフェリクスが止めた。


「学校ではどう直すように言われた?」


「構えを崩さず、受けて押し返せと。押し負けるなら強化が足りないと言われました」


「そのやり方を覚える前は?」


 俺は返事に詰まった。最近は昔のことを考えても、あの頃は勝てたのに、と落ち込むだけだったからだ。


「避けるか、剣を横へ外していました。まともに受けると手が痛くなるので」


「そちらの方が勝てたんじゃないか?」


「……はい。でも、それじゃ騎士の剣にならないと」


 故郷の道場でも、入学してしばらくも、それで勝てていた。ロイスの打ち込みを横へ逃がし、空いた脇を狙った時の手応えも覚えている。


 だが、魔法の使用に備えながら強化して戦う稽古では教わった構えを保つことに必死だった。


 避けようとすれば腰が浮く。押し返そうとすれば剣を返せない。指摘されるたび、学校の型に合わせて直してきたのだ。


「剛剣の教え方が君に合っていなかったんだろうね。君は柔剣の方が向いているはずだ」


「柔剣……受け流す方ですか?」


「そう。相手の動きを見て剣を変えられるのに、わざわざ止まって力比べをしている。今の打ち合いでも途中までは動けそうだったよ」


 フェリクスは俺の木剣へ自分の剣を添え、軽く押してきた。押し戻そうとすると、その重みがするりと逃げる。


 俺の剣だけが前へ出て、彼の切っ先はもう胸の前にあった。こんなにゆっくりでも、昨日のフィーナと同じように崩されるのか……。


「剛剣が悪いわけじゃない。正面から受けて相手を崩せるなら、それは強い。ただ、君が得意なのは別の動きだろう?」


「でも、周りは教わった通りに強くなっていました。俺も、続ければできるようになると思って……」


 正しいと言われたものを捨てて、故郷の剣へ戻るのが怖かった。ここで逃げれば、それこそ追いつけなくなる気がしたのだ。


「そこから君に合わせて教えてもらう前に、席次が決まって配属となったわけか」


「はい。一席足りませんでした……」


「それは悔しかったね」


 下げた剣を握り直しかけて、やめた。今さらそんな話をしても三十席には入れない。


「……別のやり方なら、俺にもできますか?」


「試してみよう。まず強化を解いて、押し返さずに僕の剣を横へ逃がしてくれるかな」


「強化なしで受けたら、潰されませんか?」


「加減するよ。君がどう動くか確かめたいだけだから」


 オーラによる強化を解いた。これまで足せと言われ続けたものを、今度は引けという。心許ないが、フェリクスは俺が構えるまで剣を振り上げずに待ってくれた。


 ゆっくり下りてくる木剣へ、自分の剣を斜めに合わせる。横へ流すつもりが、触れたところで腕を突っ張ってしまう。


「そこで止まらない。足も動かしていいんだよ」


 足も? ――そうか。相手の正面に居続けるから、押し返さなければならなくなる。


 もう一度来る剣に触れ、木剣を傾けながら半歩ずれた。そうすることで重さが横へ抜け、そのまま剣を前に倒していけばフェリクスの肩へ届く軌道で剣が動く。


「そう。それなら続けられるだろう?」


 俺は自分の剣と、足の位置を見た。受けたあとに踏ん張り直していない。それなのに次の一撃まで出せている。


 これを、もっと速くできれば――!


「もう一度お願いします」


 今度は足を動かすところから意識する。受け流して返す。フェリクスが同じ速さで打ってくれるおかげで、さっきより迷わず剣が出た。


「な。直ると面白いだろ?」


 隣からフィーナが覗き込んできた。


「……ああ。悔しいけどな」


「なんで悔しいんだ?」


 ――もっと早く教わりたかったからだ。


 けれど、この村へ来なければ二人には会っていない。そう考えると、都落ちを喜んでいいのか悔しがっていいのか分からなくなる。


「これで強化すれば、もっと速く動けますよね?」


「やってみようか」


 丹田からオーラを引き出し、脚と腕へ巡らせる。剣を合わせ、さっきと同じように横へ――抜けない!


 肘が引っかかり足だけが先に動いた。剣にかかる重さを腕で支えてしまう。フェリクスが打ち込みを止めてくれなければ、構えごと崩れていた。


 なんでだ? 強化する前はできたのに。


「もう一度、いいですか?」


 今度は足を出しすぎないように試したが、受けたところでまた肩が固まる。


「受け止めるための強化が染みついているね。剣だけ変えても、そちらに引っ張られるようだ」


「支援術も直さないと駄目なんですか……それも教えてもらえませんか?」


 フェリクスは少し考え、自分の木剣を下ろした。


「僕は剣は得意でも、支援術はそれほど得意じゃないんだ。僕の使い方をそのまま覚えても君には合わないだろうね」


「そうなんですか?」


「剣の動きで補っているところも多いからね。君には、もっと合う使い方を覚えてほしい」


 支援術が不得意でこの動き? いったいどれほどの鍛錬を積んできたのか、まるで底が見えない。


 剣は教わりたい。でも、身体強化は誰に頼めばいいんだ?


「剣は僕が見よう。オーラは別の人に頼むといい。フィーナ、セイン君をダランのところへ案内してやれ。僕からの頼みだと言えば分かる」


「分かった。今なら北の伐採場だな。セイン、見回りはどっちだ?」


「北の畑からだけど……その人も剣の先生なのか?」


「樵だぞ」


 俺は返そうとしていた木剣を見た。剣の次は、樵に身体強化を教わるのか? 王都の教本には、そんな進み方は載っていなかったぞ。

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