第12話:俺の剣の行き先
「四人ともか。おめでとう」
宿へ戻って案内を見せると、フェリクスさんは荷物の確認を中断した。フィーナが早速、相手の剣がどうだったか話し始める。
俺も話したいんだがここで割り込むのもな。隣で聞いているとミレイまで自分の試合を説明しだした。リゼットも案内を広げている。
……皆、報告したかったのか。先に騒がれたせいで、俺だけ待てのできる犬みたいになっているぞ。
「セイン君はどうだった?」
「はい。最初の相手は学校で一緒だった奴です。最後の実技試験では負けたんですけど、今度は打ち込んできた剣を流せました」
そこから話し始めると次の試合のことまで口に出てくる。
待っても来ない相手をこちらから動かしたこと。剣を押し返す力を使えば、重い一撃を受け止めなくても崩せたこと。
フェリクスさんは途中で遮らず、頷きながら聞いてくれた。
「君の剣が通じたんだね。教えた側としても嬉しいよ」
「……ありがとうございます」
平気な顔で返事をするつもりなのに、頬が緩む。村へ来たばかりの、どうしようもない俺を知る人に言ってもらえると余計に嬉しい。
「それで、気になったところがあるんです。ここ、少し空けてもいいですか?」
荷物を避けてもらい、剣を持たずに踏み込んでみせる。
「この先なんです。剣が届けばいいんですけど、躱されたら次の足が出ない気がして。前へ乗りすぎているんでしょうか?」
「もう一度、ゆっくりやってくれるかな」
足を戻してやり直す。さっきより浅く入ったつもりだが、これで相手の剣へ力をかけられるのか? 何もないところで動くと、かえって分からなくなる。
「実際に剣を合わせた方が分かりそうだね。村に戻ったら見てみようか」
「お願いします。本選までに少しでも直しておきたいので」
「もう出る気になっているじゃないかセイン。相談してからって話だったろ?」
フィーナにそう言われ、机の案内へ目が戻る。
そうだ、まずそっちの相談だ。俺が一番先に出場を決めてどうする。
「……出てもいいでしょうか?」
「私も出たいぞ。出場するだけで賞金が貰える。それに勝てばもっとだ!」
「出場分はともかく、まだ勝っていない分まで使うつもりになるなよ」
そう言ってフィーナをたしなめてやると、ミレイが口を挟んできた。
「何に使うか考えるくらいはいいでしょ?」
リゼットまで頷いている。もう使い道を考えているのか。俺よりも話が早いじゃないか、まったく……
フェリクスさんは笑いながら二つの大会の日程を見比べる。
「三週間後なら一度村へ戻れるね。牛車で六日、次は荷を持たずに四日。村で一週間ほど過ごしてから出ても、本選前に余裕を取れる」
「では、出てもいいんだな?」
「うん。購入した品を届けて、村長にも話を通してからだけどね。セイン君の見回りも調整してもらわないと」
「はい。出発まではいつもどおり働きます」
休みをもらう以上、そのくらいは当然だ。あとは稽古の時間をどう作るかだな。
「今度は任命された騎士も相手になる。学生とは経験が違うよ」
「分かっています。それでも、戦ってみたいです」
俺の柔剣は本物の剛剣にどこまで通じるんだろう。試してみたい。それに、勝てないと決まったわけでもないしな。
「それなら、明日は帰り支度を終わらせよう。買い残しがあるから君たちも頼むよ」
◇
翌日は店を回り、頼まれていた品を受け取って歩いた。
薬の材料に布、針、それから油。控えを確かめていると、まだ鉄の釘が残っている。
「金物屋へも寄りますか?」
「釘はオルデン領の町で買おう。行きに泊まった、鍛冶場の多いところだよ」
「王都でも揃いますけど、向こうの方が安いんですか?」
「こちらへ運ぶ分がかからないからね。どうせ通るならその方がいい」
それもそうだ。余計に金を使う必要はないよな。
荷を宿へ運び込むと、ミレイが包みを持ち上げながら首を傾げた。
「釘はどこ?」
「帰りの町で買うんだよ」
「なら、その分の場所は空けておいてね。あとから全部積み直すのは嫌だよ」
確かに。俺とフィーナで箱の位置をずらし荷台に隙間を作る。リゼットは薬の材料を抱えたまま、どこへ収めるか真剣に悩んでいる。
「潰したら母さまに何て言われるか……だから場所は考えてよね!」
いつも冷静に見えるリゼットも母親が相手となればこれか。まあ、気持ちはわかる。
準備を終えた翌朝、俺たちは王都を発った。城門を振り返る――次は本選だ。
それまでに少しでも仕上げて戻ってこよう。同じ門をくぐるのでも、配属通知を渡された時とはまるで別物だ。
「セイン、置いていくぞ」
「今行く!」
フィーナに呼ばれて牛車へ追いつく。まずは、この荷を村へ届けないと。
◇
帰り道は賊にも遭わず、オルデン領の町まで進んだ。往路に訪ねた領主の館で役人に納税の証書を見せ、帰村の途中であることを伝える。
追加の買い付けも控えに残すよう言われ、書類を受け取る。何を聞かれるか分かるだけで、来る時よりずいぶん落ち着いて話せるものだ。
館を出ると、フェリクスさんが店へ向かうところだった。
「手続きは済みました。俺も行きます」
金物屋で釘をまとめて買い、荷台の空けておいた場所へ釘を収めれば、これで買い物も終わりだ。
宿泊と野宿を重ね、王都を出て六日目――ようやくベルナ村へ帰り着いた。
牛車の周りに人が集まり、頼まれた品を渡すだけでもひと仕事だ。
リゼットは早々に薬の包みを抱えてエルゼ様のもとへ行き、ミレイはダランさんに買い物の説明をしている。
俺も最後の箱を下ろしたところで、村長と話してきたフェリクスさんに声をかけられた。
「明日からの見回りはいつもの予定でいいそうだよ。本選で留守にする分は出発までに調整してもらえる」
「ありがとうございます。……それで、今日は」
「剣かい?」
まだ言っていないのに分かってしまった。横からフィーナが笑う。
「道中も暇があると足を動かしていたからな。兄さま、私もやるぞ。セインばかり見ないでくれよ」
「今日は軽くだけだよ。帰ってきたばかりなんだから」
軽くでも十分だ。俺は荷の片づけを済ませ、二人と道場へ向かった。
◇
木剣を合わせると、フェリクスさんから押し返す力が来る。
これだ。予選でも、こうして手元を流した。剣を傾けながら踏み込み、空いた胸元を狙う。
だが、届くはずの体が横へずれた。
そっちなら追える――いや、足が!
動かそうとした時には、脇腹へ木剣が触れている。
「今のところかな?」
「はい。これです」
思わず返事が大きくなる。やっぱり、前へ乗ったところで動かれると追えないんだ。
「もう少し浅く入ってみてもいいですか? 一人では試したんですけど」
「もちろん。やってみよう」
今度は前へ乗りすぎないように踏み込む。足は出せる。だが、剣を伸ばすより早く木剣を押さえられた。
……ああ、そうか。動けるようにしただけじゃ、相手も動くんだよな。
「足を残そうとして、攻めまで遠慮しているね」
「届かせようとすると、前にかかるんです」
「相手を動かしたところへ入るんだよ。腕だけで届かせようとしないで、剣と足を一緒に」
言われた通りにしているつもりなのに、合わせるとまた止まる。フィーナに代わってもらって横から見ると、その剣は俺よりずっと滑らかに次へつながっている。
あそこだ。あの時にはもう次の足が動いているのか。
「フィーナ、今のをもう一度やってくれないか?」
「よく見ておけよ。そう簡単にできるようになられても困るがな」
そう言いながらも構えてくれる。俺は今度こそ見逃さないよう、剣と足を追った。
本選まで時間は少ない。でも、少しでも仕上げておきたい。フェリクスさんに見てもらえるからといって、あの高みに簡単に近づけるわけじゃないだろう。
それでも、予選で戦ったことで見えてきたんだ。
俺の剣の行き先を――。




