八、演じきれなかった弟
家軍からの合図の花火を確認した白狼は後宮に来ていた。
後宮に一歩入ると恐ろしい光景が目に入ってきた。
数えきれないほどの人たちの死体が転がっていた。
初めて見る光景に白狼は吐きそうになりながらも進んで行った。
家軍は志偉の下に一人の男を連れてきた。
「皇太子殿下、指示通り、部屋の隅で怯えていたところを捕らえました」
家軍が連れてきたのは志偉の弟の志明だった。
志明は死を覚悟したのか志偉の前で正座したまま動こうとしなかった。
志偉は志明の目線まで屈み、穏やかな口調で話しかけた。
「志明、お前は本当に傲慢で、尊大で、粗暴なやつなのか?お前こそ、父から解放されたかったのではないのか?」
志明は志偉の言葉に驚愕していた。兄に全てを看破されていることを悟った。
「兄上、申し訳ありませんでした。私は今まで兄上に酷い態度をとっておりました。私は兄上のように父上に反抗することができませんでした。だから、父上のように振舞っていました。お許しください」
家軍は目の前の状況を疑っていた。志明といえば人を人とも思わない態度で父上と容姿も性格も似ていた。家軍も何度悪態をつかれたことか。今、目の前で何度も志偉に謝っている姿を見ても信じられなかった。
「劉将軍も申し訳ございませんでした」
「あぁ、いえ・・・」
志明は改めて、志偉に対し跪き、
「兄上、今回の皇帝の暗殺。私を下手人にしてもらって構いません」
志偉は笑いながら、冗談を言うなよと言ったが、志明の目は本気だった。
「兄上、私を後宮から追い出してください。皇族の身分を捨てても構いません。どうか、自由に生きさせてください」
志偉は志明が後宮という名の鳥籠、皇子という身分、周りからの期待の眼差し、全てからの解放を望んでいることを感じた。
「志明、お前に気持ちはわかるが何もしていない者を下手人にはできない・・・。ただ、しばらくの間、後宮を出ることは許そう。名も偽名を使え。私の配下の者はつけるがお前の生活には干渉しない。町で生活するのも良いだろう。好きな女ができたら婚姻すればよい。ただし、その時は必ず私に報告をしろ」
「兄上・・・。ありがとうございます」
志偉と志明は初めて本当の兄と弟になれた気がしていた。
「しかしなぜ兄上は、私が父上のような人を演じていると見破ったのですか?」
志偉は少し笑みを浮かべた。
「あぁ、それは知らせが届いた時、父上の企みに参加している者の中に、志明の名前がなかったからだ。父上のような性格なら見るだけでも参加するはずだ。それを拒否したということはそういう場にいたくないということ。父上にあれだけ付き従っていたのにおかしいなと思ったのだ。お前は玉座の間にいた父上を逃がすこともできたのにそうしなかったし、父上を守ろうともしなかった。父上が亡くなった後も、自分が次の皇帝だと名乗り上げなかった。どうせ、父上のことだ。志明に言っていたはずだ。次の皇帝はお前がなれと。王印のある場所も知っているのだろう?志明は今回高瑾の件には一切関わっていない。皇帝になろうと思えばなれる。なのにそうしなかっただろ?」
志明は、兄上は父上より恐ろしいですと苦笑いをした。
「劉将軍、劉将軍はどこですか」
家軍は声のする方へ向かった。
白狼は家軍を見つけ無事に合流することができた。
「劉将軍、この惨劇は何があったのですか?劉将軍が無事だということは勝ったのですか?旦那様と奥様は?」
白狼は家軍を質問攻めにしていた。
家軍は大きな深呼吸をした。
「白狼、落ち着いて聞け。今から言うことを濤に伝えろ。わかったな」
白狼は真剣な表情で頷いた。
家軍は白狼に後宮で起きたすべてのことを正確に伝えた。
「旦那様と奥様が・・・」
白狼は膝から崩れ落ちた。
「楊家はどうなるのですか?」
「皇太子殿下が皇帝になるのだ。おそらく、濤が父のあとの尚書に任命されるだろう。濤がそのまま継ぐことになる」
白狼は剛泰と高瑾の死をしばらく受け入れられなかった。
家軍は白狼の頬をはたいた。
白狼ははたかれた頬に手を当てながら家軍を見た。
「狼、濤に伝えに行け!お前はそのためにいるのだろう!」
白狼は立ち上がり、家軍に礼を言って走り去った。
家軍は白狼の後ろ姿を見ながら、天を仰いだ。
(剛泰、きちんとお前の子供たちを見守れよ)
自分の名を呼ぶ声がして家軍は戻っていった。
その頃、琳琅たちはある場所に身を隠していた。
家豪は琳琅から目を離すことができなかった。これが恋というものなのか何なのかわからずにいた。
「家豪、穴が開くほど妹を見てるが・・・惚れたのか?」
家豪は今度を濤を見つめていた。
濤はそんな目で見るな、気持ち悪いと家豪から少し離れた。
家豪は濤に距離を詰め、
「濤、そうかもしれない。私はどうしたらいいか」
と尋ねた。
濤は少しため息をつきながら、
「家豪、知っての通り、琳琅はこの国にとって特異な存在だ。そう簡単に手に入らない。お前の兄になるのは光栄だが、すまない、諦めてくれ」
家豪は濤に疑いの目をしていた。
「濤、初めから妹を婚姻させる気ないだろ。顔に書いてあるぞ」
濤は緩んだ顔を触りながら、誤魔化していた。
白竜は馬に餌を与えていた。
すると、空から一羽の鳩が肩に降りてきた。
白竜は慌てて、鳩に託されていた文を見た。
文の内容に衝撃を受け、文を強く握りしめ、震えながら泣いていた。




