七、歓喜と悲哀
志偉は背後から近づいてくる気配を感じた。
その気配は徐々に近づいて来て、隣に現れた。
「やはり、胡風か。で、準備の方はどうだ」
「皇太子殿下の合図で」
「わかった。おそらく、二人は父の軍に囲まれているはずだ。胡風、突入の合図を」
「御意」
胡風は持っていた花火に火を点け、打ち上げた。
「よし、皇太子殿下からの合図だ。皆、新しい国の幕開けだ。一人残らず殺せ!」
一人の青年の合図で志偉の率いる暗部が後宮へ向かった。
志偉は父である皇帝に対抗する手段として、密かに暗部と暗軍を作っていた。
暗部は五人の若者で構成されており、自由に動くことのできない志偉の手足となり、情報を集める役割を担っていた。志偉自ら人選を行い、集めた仲間である。この五人は極めて優秀であるため、暗軍の者たちも鍛え上げた。
暗軍の者たちのほとんどが元は奴隷や物乞い、理不尽な理由で皇帝から解雇された宦官、元高官たちである。
皆の目的は一つであり、皇帝趙志強の時代を終わらせることである。
皇帝は玉座の間をうろつきながら、今後どうすべきか考えていた。
そこへ皇帝を追いかけてきた剛泰と家軍がやってきた。
「趙志強ー」
皇帝からは剛泰が炎をまとった鬼のように見えていた。
皇帝は腰を抜かしながら、後ずさりしていた。
「朕はただ、この国をもっと繁栄させようと思ったのだ」
皇帝の言葉はその場を逃れるための言い訳にしか聞こえなかった。剛泰は今にも殺したい気持ちでいっぱいだった。
「お前は知っていたのか。瑾が一人の男としか交われないことを。他の男と交われば死が待っていることを」
「あぁ、そんなことも書いてあったな。剛泰、所詮ただの言い伝えだ」
とぼけた表情でそう言った皇帝を見て、我慢の限界を超えた。
剛泰が皇帝に対し、斬りかかろうとした時、皇帝の軍が入ってきた。
それを見た皇帝は静かに笑い出した。
「天は朕に味方している。お前ら、この二人を殺せ」
二人は皇帝の軍に囲まれていた。
(さて、どうしようか・・・)
二人の耳に奥から人が押し寄せているような音が聞こえてきた。
皇帝の軍が後ろを振り向くと次々に殺されていった。
「家軍、これは・・・」
「さぁ、わからぬ。しかし、私たちを助けに来てくれたのは間違いない。剛泰、行け!」
剛泰はゆっくり皇帝に近づいていった。
皇帝は命乞いをしていたが剛泰の耳には入らなかった。
「趙志強・・・死ね!」
剛泰は一振りで趙志強の首をはねた。
趙志強の歪んだ顔の首が転がり落ちていた。
剛泰は膝から崩れ落ち、高瑾の敵を討った喜びとこんな奴に殺された悲しみ、複雑な感情が入り乱れていた。
「瑾・・・」
剛泰は立ち上がり、高瑾がいるところへ戻った。
家軍は暗軍と共に、皇帝の軍を一人残らず殺していた。
家軍と暗軍が皇帝軍を全滅させた頃、志偉が現れた。
志偉は家軍に近づき、よくやりましたと労った。家軍が跪くと、先程一緒に戦ってた者たちも跪いていた。
「お前たち、よくやった。趙志強の時代は終わった。これから私が皇帝となり、この国の領土を取り戻し、必ず誰もが平和に暮らせる国を作る!」
暗軍の者たちは志偉の言葉を聞き、涙を流しながら抱き合ったり、肩を組んだりして歓喜した。
(なるほど、こいつらは皇太子殿下の配下の者たちか。しかし、あの父の下でよくこんなにも立派な息子が育ったものだ)
志偉が周りを見渡すと、床に転がっている父の首を見つけた。志偉には誰が殺したのか考えなくてもわかっていた。
「劉将軍、皇帝は暗殺された。皇帝を手にかけた者は皇帝の軍に紛れていた者だ。劉家軍と楊剛泰により敵の首をとった。劉将軍、間違いないですか」
家軍は思いもしなかった志偉の言葉にどう答えればよいかわからなかった。
「・・・皇太子殿下のおっしゃるとおりです」
志偉は深い深呼吸をした。転がっている父の首を見ても悲しみの感情はなかった。
(私は心底父上を嫌っていたのだな・・・)
「劉将軍、楊尚書はどこにいるのか」
「おそらく、高瑾のところだと・・・」
「高瑾様は無事なのか?」
家軍は目をつむり、ゆっくり首を横に振った。
「・・・そうか」
(濤もある程度は覚悟しているだろう)
志偉は家軍に剛泰のところへ行くよう伝え、自分自身は父の遺体と向き合っていた。
(父上、あなたの時代は終わりました。あなたが腐らせたこの国を私が平和な国へと変えてみせます)
家軍が部屋に入るとそこには血を流し、高瑾に覆いかぶさるように倒れている剛泰の姿があった。
家軍は急いで駆け寄り、名を呼びながら体を揺さぶった。
かろうじて息はまだあるようだった。
「家軍・・・、私は瑾を一人にできない・・・。濤と琳琅に伝えてくれ。自分勝手な父ですまないと。家軍・・・子供たちを任せる」
そう言い終わると剛泰は穏やかな顔をしていた。家軍が鼻元に手をかざしたが息をしていなかった。
「本当に自分勝手なやつだ・・・」
家軍は涙を堪えながら、外に向けて花火を打ち上げた。




