六、見つかった華
勇敢と小蘭が着いた時には、この町にこんなにも人がいたのだろうかと思うほど、町の中でも一番大きな道に人が集まっていた。
どうにかして前の方に行こうとしたが、人であふれかえっており、なかなか前に進むことができなかった。
小蘭は別に見えなくてもいいよと言ったが、勇敢はどうしても、皇帝と第四皇子の顔を拝みたいらしく、二人が見えそうなところを探していた。
小蘭、ここに乗ろうぜと言って、先に勇敢が乗って、手を差し伸べてきたが、見るからに不安定で今にも足が折れそうな木の台だった。
(二人乗ったら、足が折れるだろう)
そう思い、小蘭は勇敢に私はいいからと言ったが、少し怒った顔して、無理やり手を引っ張てきた。
二人乗ったら、やはり、足がぐらぐらし、二人とも変な体制になりながらも、なんとかバランスを保ち安定した。
「ほら、ちゃんと二人乗れただろ」
満面の笑みで言われたら、何も言い返せなくなる。
(本当、こういうところだよ)
強引に何でもやろうとして、いろいろ巻き込まれ、文句の一つでも言おうとするが、結局、勇敢の満面の笑みを見ると許してしまう。
遠くの方に皇帝と第四皇子が乗る馬車が見えてきた。さすが、皇族の乗る馬車だ。比べ物にならないくらい、大きく、豪華な馬車だ。四方にはいかにも強そうな男たちが護衛している。
周りの町民たちは、皇上、万歳万歳と叫んでいる。
小蘭は皇帝って慕われてるんだなと小声でつぶやいた。
それを聞いた勇敢がそんなことも知らないのかといい、今の皇帝について話し始めた。
先帝の時代、この国は隣国、涼の国に攻め込まれ、次々と領土を奪われ、国が滅ぼされる寸前にまで追い込まれていた。そんな中、先帝は崩御され、今の皇帝が二十歳で即位した。皇帝は自分が即位するのを見越して、優秀な人物たちをすでに集めていたという。即位後、すぐにその人物たちと共に領土奪還のために戦い続けた。もちろん、民のことも顧みながら。
その結果、この国が平和でありつづけられているのだと。
私はそういう知識に関しては疎い。というか、興味のないことは知ろうとしないし、知っても覚えない。
しかし、勇敢は興味のないことでもしっかり覚えている。
以前、なぜ興味のないことまで覚えるのかと聞いたら、必ず役に立つ日があると思うからと答えた。
感心した顔で勇敢を見つめていた。
「ようやく俺のすごさに気付いたか。いつでも俺の嫁になっていいぞ」
食い気味に結構ですと言った。
勇敢は不貞腐れた顔をして、こんないい男はいないのにと言ってじっと見てくる。
「わかった、そうね、私が十八になっても誰にも嫁いでいなかったら、勇敢に嫁ぐわ」
勇敢は目を輝かせ、
「言ったな、約束だぞ、絶対だぞ」
と何回も念押しされた。
何てことを言ってしまったんだろうと小蘭は少し後悔した。
ようやく皇帝と第四皇子が目に前を過ぎていく。
小蘭は二人を観察していた。
皇帝は四十半ばぐらいだろうか。いかにも国の主らしい面持ちだ。温厚そうでもある。
第四皇子はきれいな顔立ちである。きっと母君も美人なのだろう。
何か不満があるのか。溜息をついてるように見える。
その時だった。突然、突風が吹いた。一瞬だったが小蘭の頭に巻いてた布が飛びそうになった。布が飛ばないように必死に頭を押さえた。
(誰かに見られたら・・・!)
小蘭は周りを見渡した。幸い誰にも見られていないみたいだ。
その様子を見た勇敢が帰ろうかと言ってきた。勇敢なりに私を気を遣ってくれたのだろう。
ありがとうと言って、小蘭から勇敢の手を握り、来た道と同じ道で帰った。
この時、小蘭は気付いていなかった。ある人物に見られてたことを。