四、次期皇帝
「父上、馬車から降りてはいけませんか?」
月亮は今にも飛び出しそうな勢いである。
まぁ、待てと父である皇帝に止められる。
月亮は町に着いたら、歩いて町を散策できると思っていた。
しかし、そういう訳にもいかない。
二人はこの国の皇帝と第四皇子である。
比較的平和な国とはいえ、敵がいないわけではない。
皆が皆、現皇帝を敬っているのかと問えば、少なからずよく思っていない者もいる。
特に後宮内には。いつ何時、命を狙われるかわからない。
馬車の四方には馬に乗った最強の将軍とその部下たちが囲んでいる。
右前にはこの国の軍部の長、劉家豪大将軍、左前には劉家豪の息子で父親の補佐をしている劉毅、後方側で馬に乗っているのはいずれも劉毅の部下である。右後ろには陳浩然、左後ろは周廣、後方は朱輝である。
(これから本当に暗殺でも起こりそうな物々しさだな)
月亮は諦めて馬車の中から町を見ることにした。
しばらく進むと町の人たちの声が聞こえてきた。
皇帝、万歳と言う声があちこちから聞こえてくる。
劉家豪将軍が馬車を覗き込みながら、殿下と声をかけてきた。
「この小さな町でさえも平和であるために、皇上が国のために力を尽くしておられるのですよ」
父は少し照れながら、家豪よせと手をふった。
父は笑みを浮かべながら、
「月亮、すべての民が平和に暮らすためには、朕が正しく国を導かないとならない。国の民を守る必要がある。いずれお前がやることだ。今この時を忘れるのではないぞ」
「はい、父上・・・」
複雑な思いで返事をした。私は皇帝になろうとは思っていない。私には二人の兄がいる。なぜ、皆声をそろえて、私に皇帝になれと言うのだ。兄上たちでよいではないか。
そんなことを思い巡らしながら、外を見つめていた。
そんな様子を見た皇帝は家豪に小声で、月亮のために何か買ってきてくれと言った。
ついでに家豪も遊びに行ったらどうだとある店を指さした。明らかに夜の大人の遊びをする店であろう。
はっはっご冗談をと苦笑し、その店と違う方向に目を向けた。
その瞬間少し突風が吹いた。皆、目をつぶった。
父上大丈夫ですかと皇帝は月亮に声をかけられ、大丈夫だと言ってふと家豪の顔を見てみた。
「家豪、どうした?」
皇帝が何度呼びかけても、まるで物怪でも見たかのような顔をして、固まっていた。
ようやく皇帝の声に気付き、申し訳ございませんでした、皇上に頭を下げた。
「どうした、家豪」
「・・・いえ、何でもございません」
皇帝は何かを察し、家豪、後宮に戻ったら酒でも交わそうかと言った。
月亮はこの出来事により、後々次期皇帝に自ら名乗り出ることとなるとは夢にも思っていなかった。




