十一、波乱の幕開け
雪華は朝から準備に追われていた。皇帝から謁見するよう命を受けていた。しかし、なぜ呼び出されたのかまでは知らない。
「いやー、雪華お嬢様の白髪は何を着てもお嬢様の美しさが映えますね」
侍女の冰夏は雪華の着替えを手伝っていた。
冰夏は雪華の専属侍女であり、歳は雪華の二つ上である。侍女の中で一番雪華に歳が近く、劉家での働きも優秀なため家豪が抜擢した。雪華に初めて会った時から雪華を妹のように感じており、唯一不愛想の雪華の感情を読み取れる人物である。
「しかし、なぜ呼び出されたのでしょうか。もしかしたら、皇子の誰かとの婚姻の話とか?」
この国では婚姻は十六からである。皇帝には三人の息子がいるがまだ誰も婚姻を結んでないという。末の息子は十六だが他の息子たちは二十を超えている。皇族にしては珍しい。
(できれば平穏に暮らしたい。皇族との婚姻はできれば願い下げだ)
「お嬢様、皇族との婚姻を蹴ったら、劉家がつぶれますよ」
「私、声に出てた?」
「いえ、顔に書いてありましたよ」
つくづく侍女の冰夏は怖ろしい。
冰夏の前では下手なことは考えられないなと思う雪華であった。
月亮は少し緊張していた。許嫁である劉雪華と会うため皇帝に呼び出されていた。
「珍しいな。月亮が緊張しているとは。女に興味がないのかと思っていたがそうでもなかったのだな」
皇帝はうれしそうに笑っていた。
皇帝は急に深刻な顔をし、
「お前にもう一つ話すことがある。俊智が戻ってくる。月亮、気をつけろ」
俊智とは皇帝の一番上の息子である。羅国の北の地方では長年小さな争いが絶えなかった。俊智は皇帝の代わりに争いを収めるため、後宮を離れていた。ようやく、争いも落ち着いてきたため、報告をかねて、後宮へ帰還する。
月亮との関係は特に悪いわけではない。むしろいいほうである。皇帝がなぜそのように言ったのか月亮には理解できなかった。
一人の宦官が皇帝に近づいてきた。宦官は小声で皇帝に耳打ちしていた。皇帝はそれを聞いて頷き、宦官は去って行った。
すると、一人の少女がゆっくりと歩いてきた。鮮やかな赤と朱色の衣をまとっており、頭には絹のような白髪を際立たせる金色の簪がつけられていた。その美しさに皇帝も感嘆の声を上げるほどだった。
月亮は一瞬で心を奪われた。そして気づいた。目の前にいる少女が四年前の一輪の花のような少女であることに。
「雪華の美しさに私も見とれてしまった。月亮、お前の許嫁の劉雪華だ」
雪華は顔には出さなかったが動揺していた。皇子の許嫁の話は初耳であった。
(まさか冰夏が言っていたことが本当になるとは。父上もなぜ教えてくれなかったのか)
月亮は雪華を見つめたまま固まっていた。心の中は喜びであふれていた。
「また会えるとは・・・」
月亮の言葉に雪華は首を傾げた。
「どこかでお会いしましたでしょうか?」
月亮は微笑み何でもないと言って再び劉雪華を見つめた。
その様子を見ていた皇帝は少し安心したような表情をしていた。今まで女に見向きもしなかった息子が初めて見せる表情に可笑しくも感じていた。
「はじめまして。劉雪華と申します」
月亮も慌てて
「第四皇子の趙月亮です」
雪華はいつもの不愛想な顔をし、月亮は喜びが全身から溢れ出ていた。
対照的な二人を見た皇帝は
「二人で少し話すといい」
と言って打ち解けれるよう二人だけで話す時間を与えようとしていた。
その時だった。
先程の宦官が慌てて走ってきた。皇帝のところへ駆け寄り、小声で耳打ちした。皇帝の表情がみるみる恐ろしくなっていった。
皇帝が月亮に声をかけた時だった。
奥から一人の男がやってきた。
「お久しぶりです。父上、月亮」
「兄上」
「父上、趙俊智、ただ今戻りました」
月亮は兄、俊智の帰還に喜んでいたが、皇帝の顔は息子を見るような顔つきではなかった。
「ご苦労だった、俊智。早かったな」
「少しでも早く父上にお会いしたかったので」
しかし、皇帝から見た俊智の目つきは、何か裏があるとしか思えなかった。
俊智は雪華をじっくり観察しはじめ、
「あなたが劉雪華ですか。本当に美しい。月亮にはもったいなさすぎる」
俊智は皇帝の前で急に跪き、顔の前で手を重ね、願い出た。
「父上、劉雪華を私にください。次の皇帝になる私には劉雪華のような皇后が必要です」
思わぬ俊智の発言に皆吃驚した。




