十、誓いを守る男
早朝、劉家の門からは激しく扉を叩く音が響いていた。
見張りの護衛たちが何事かと思い、扉を開けると息を切らした少年がいた。服は泥だらけで、顔も汚れていた。二の腕や足はたくましい筋肉をしており、日頃から鍛えられているように見える。
護衛たちは、何者だと剣を構えた。
少年は息を切らしながら、
「ここに・・・劉雪華はいるか」
護衛たちは警戒し、少年の首元に刀を向けた。少年は護衛たちの態度で劉雪華がこの屋敷にいることを確信した。
「ここの主に会わせてほしい。会わせてくれ」
少年は跪き、両手を地面につけ、懇願した。
護衛たちは少年の行動に困惑し、どう対応しようか考えていた。
すると、騒がしさに気付いた家豪が門までやってきた。
「おい、どうした。何かあったのか」
護衛たちは目の前で懇願している少年について話した。
「私がこの屋敷の主、劉家豪だ。名は何という」
少年は顔を上げた。その顔は何かを必死に訴えかけるようだった。
「俺は黄勇敢だ。小蘭、じゃなくて、劉雪華がここにいると聞いてやってきました。雪華がここに来る前の町で共に育ちました」
(そういえばいつも一緒にいた友人がいると雪華が言っていたな。こいつのことか)
「で、お前はここに何しに来た」
勇敢は一寸の曇りもない眼で家豪を見つめ、
「俺は小蘭を、何があっても小蘭を守る、そばにいるって心に誓ったんだ。だから・・・どうか俺に小蘭を守らせてください」
そんな勇敢を見た家豪は、この少年は肯定の答えが聞けるまで帰らないだろうと感じていた。
「ここまでどうやって来た」
「走ってきました」
家豪は驚愕した。雪華がいた町からここまで馬車でも丸二日はかかる。それを走ってきたというのだ。勇敢の目は嘘をついているようには見えなかった。
「勇敢といったか。お前を護衛として雇おう。ただし、雪華との関係はあくまでも護衛と劉家のお嬢様だ。昔のように接することも難しくなる。それでも雪華のそばにいたいか」
「はい、小蘭を守れるなら、そばにいられるなら、それだけで十分です」
家豪は勇敢の目を見て、雪華に対してどんな感情を抱いているのか見抜いていた。
(雪華を守る者が増えたな。勇敢、お前の気持ちを利用してすまない。何があっても雪華だけは守らなければならない)
「勇敢、ついてこい。まずは、今のお前はどれくらい使えるのか確認する」
勇敢はこの後、護衛の重鎮、呉昭と戦ったが、全く歯が立たなかった。
それでも諦めず、粘り強く戦う勇敢に呉昭は、
「久々に鍛えがいのあるやつが来たな。旦那様、こいつはいいものを持ってますよ」
家豪は呉昭に頼むぞと言い残し去って行った。
勇敢はこの後、文字通り血を吐くような地獄の訓練をすることになるとは、この時は思いもしなかった。
雪華は先程から騒がしい声が聞こえていたので、気になって声のする方向を見ていた。すると、家豪が少し笑いながら歩いてきていた。
「父上、何かあったのですか?」
家豪は後ろを振り返り、首を横に振りながら、気にするなと雪華の頭を軽くぽんぽんと叩いた。
(勇敢のことはまだ隠しておこう。護衛として任務を果たせるようになったら、再会させてあげよう。その頃にはおそらく雪華は・・・)
雪華から見た家豪の表情は少し寂しそうに感じた。




