九、初めてできた義姉
「・・・雪華!雪華!」
「ごめんなさい、義姉上。考え事をしてました」
雪華は昨日の家豪の話を思い出していた。町で一平民として過ごしていた自分がこの国の存続をも左右する存在だったとは。
ようやく"雪華"という本来の名にも慣れてきた時に、あまりにも壮大な話を聞いて、雪華は理解が追いついていなかった。
長兄毅の妻、逸美はいつも以上に不愛想で何を考えているかわからない雪華を見かねて、気分転換になればと思い、いつも髪を下ろしているだけの雪華の髪を結ってあげていた。
「雪華の髪、本当にきれいね。でも、うれしいわ。義妹ができて。雪華が来るまでは、劉家は皆、息子だし、私、姉も妹もいないから。こうやって髪を結ってあげるのずっとやりたかったの」
逸美は本当にうれしそうな笑顔で雪華の髪を結っていた。
「そういえば、義姉上はなぜ毅兄様と結婚したのですか」
逸美は恥ずかしそうに笑いながら
「叱ってくれたからかな」
「叱る?どういうことですか」
逸美は育った環境のせいか、何をしても叱る人がいなかった。
逸美は無自覚のまま人を駒のように扱っていた。
父は忙しくなかなか会えず、母には関心すら向けてもらえなかった。
十二歳の時、初めて毅と出会った。
逸美はいつものように傍若無人な振る舞いをしていた。
そこに逸美より少し年上に見える少年が近づいてきた。
その少年は逸美の手を掴み、
「あなたは恥ずかしくないのですか。あなたの態度があなたの父を困らせることになるとは考えないのですか。私はあなたのような者に仕えていると考えると残念でなりません」
逸美は自分の全てを否定されたような気がした。いつもの逸美なら自分の立場を利用して脅しをかけたりするが、何もできなかった。自分の態度が悪いものだとは思っていなかったが、はじめて悪いものだと知った。逸美はどうしたらよいかわからず、泣きながら、ごめんなさいと言うことしかできなかった。しかし、誰に何を謝っているのかわかっていなかった。
その様子を見ていた毅は、目の前にいる少女が誰からも真剣に向き合ってもらえなかったのだと悟った。
「君は悪くない。知らなかっただけなんだ。私が教えてあげる。本当の君は素直で心が清らかなんだ」
逸美はただ誰かに自分を見てほしいと思っていた。真剣な眼差しで逸美を見つめている毅のことについてもっと知りたいと思った。この人なら自分のことを見てくれると思った。
「私の名前は毅だ。君の名前は?」
「逸美」
「逸美か。いい名前だな」
そう言って毅は逸美に向かって満面の笑みを向けてくれた。逸美に向って純粋な笑顔を見せてくれる人は今までいなかった。逸美も毅につられてくしゃくしゃな笑顔を見せた。
「逸美。君はその笑顔が一番美しいと思うよ」
逸美と毅はそれから頻繁に接するようになった。毅に会ってから逸美は人が変わったようにいつも笑顔で素直な少女となっていた。
雪華は好意を持つという感情がわからないせいか、それからなぜ結婚に至るのか理解できなかった。しかし、長兄の毅の人柄が素晴らしいということは理解できた。
「まぁ、感情的になりやすい人だけどどんな人にも真剣に向き合うことのできる人だから。こんなに可愛い義妹もいるし。私は幸せよ」
雪華はうれしく感じていた。義姉上とは良い関係が築けそうな気がして、劉家に戻ってきたのも悪くないなと逸美を見て少し微笑んだ。
翰は月亮の部屋に来ていた。
「翰、その・・・妹はどんな顔をしている?性格は?背丈は?」
月亮は皇帝である父から翰の妹、雪華が許嫁であると聞いた。兄である翰から聞き出せることは聞いておこうと翰を質問攻めしていた。
翰は虫でも見ているかのような目で月亮を見ていた。そして、月亮を壁まで追いつめ、
「殿下、なぜ、私の妹のことを知りたいのですか?殿下といえど、私の妹に色目を使うなど言語道断ですよ」
月亮は翰の目つきに寒気がした。
(そうだ翰は妹を溺愛しているのだった。聞く相手を間違えた。これ以上聞いたら確実に殺されるな)
月亮はその場をなんとか誤魔化し用事もないのに部屋を出るのであった。
(仕方がない。一層の事、実際に会う時まで知らぬままでいよう。しかし、劉家に皇族との婚姻を結んだものが二人もいるとは)
月亮は少しずつ許嫁の雪華のことが気になりはじめていた。




