八、影に潜む華
胡風が雪華の誘拐事件の真相を話した後、しばらく沈黙が続いていた。
(暗部だったのか・・・だから・・・)
胡風の話を聞いた者の中に、暗部の者がいたとは誰も気づかなかっただろう。
この重苦しい空気を翰が断ち切った。
「一つ尋ねていいですか。その華という組織は雪華を手に入れてこの国を乗っ取ろうとしていますが、そもそも雪華を手に入れるとなぜ国が手に入ることになるのですか?」
翰は胡風を見たが本当に知らない様子だった。
家豪は琳琅に目配せをして何か同意を求めていた。琳琅はゆっくり頷いた。
今から話すことはここだけの話だと思ってくれと神妙な面持ちで話しはじめた。
「琳琅の家系はこの国の存続をも左右するほどの人物とされているのだ。代々引き継がれている巻物があるのだが、その巻物の在処、何が書き記されているのか、全て白髪を継いでいく者しか知ることができない。もちろん、私も知らない。だが、もう一人知る人物がいる。皇帝だ。代々皇帝を引き継ぐ者にもその巻物が継がれている。つまり、その巻物の内容は、琳琅と現皇帝のみが知っている。しかし、ある人物がその巻物の中を盗み見て、この国と白髪の者がどう関わるのか知ってしまった。そこに何が書いてあったかは知らないが、行動から読み取れるのは、雪華を手に入れるとこの国が手に入るほどの力をもつことができるということだ。そしてあの女はそれを叶えようとしている。」
雪華は家豪の話を聞いて、自分自身がこの国にとって何者であるのかを知ることに恐れを感じた。
翰はちらっと琳琅を見て少し考え、
「父上、ではなぜ母上は狙われないのですか?」
家豪が何か言葉を言いかけたが、琳琅が私が話しますと言って
「巻物に記されていることは言えないのですが、雪華が生まれた時点で巻物に書き記された全てが雪華のことを示すことになるのです。巻物の中を見たのはおそらく雪華が生まれた頃でしょう。雪華が生まれる前までは私が"継いだ者"でしたので」
「なるほど、理解できました。それで父上、あの女とは一体誰の事なのですか」
翰は真実を知りたいあまり家豪を問い詰めた。
「忠と雪華は知らない事件だろうが、翰と毅は皇帝と第四皇子が毒殺されそうになった事件を覚えているか」
「確か、その二人を殺そうとしたが、結局毒入りの湯を飲んで亡くなったのは当時の第二皇子でしたよね。皇帝は飲むのを忘れていて、第四皇子が飲むはずだった湯を第二皇子が奪って飲んで亡くなった。犯人は当時の皇后、李美華でしたね。牢獄の中で焼死したと聞いております」
翰は当時四歳でありながら、鮮明に覚えていた。
「その通りだ。だが、私と皇帝は李美華は生きていると考えている」
皆、疑問に思っている中、翰は事件の背景が見えてきていた。
「もしかして、牢獄の遺体が李美華のものではないとわかったのは、牢獄に安置されている遺体が一つなくなっていたとか」
「さすが、翰その通りだ。その時私も遺体を見たのだが少し小さく感じた。李美華は女にしては少し大柄だった。牢獄の番をしている者たちに確かめさせたら、埋めるはずだった女の遺体が一つなくなっていた。誰かの手引きによって逃げたと皇帝と私は結論付けた。それで、その手引きをした者の有力候補が宰相、陸炎だった」
「なぜ、陸炎が手引きした者だと思ったのですか?」
「李美華と陸炎は従兄妹だ。陸炎は李美華を本当の妹のように思っていた。李美華は違うみたいだったがな。先帝を唆せて今の皇帝と李美華を婚姻させたのも陸炎だ。ただ、証拠がない。何か証拠をつかむため皇帝と私は陸炎をわざと泳がせていた。殺されるとは思わなかったが」
(陸炎が最後に言っていた"白"は雪華のことだろうが私の娘は一体何者なのだ)
家豪は握った両手の上に顎をのせ、目をつむってしばらく考え込んでいた。
見開いた目は息子たちに何か訴えかけるような目をしていた。
「李美華という女は権力にしか興味を持たない。そのためなら何でもする女だ。雪華が戻ったこともすでに知っているはずだ。どんな手を使ってくるかはわからないが、毅、翰、忠、父からのお願いだ。十五年前、私は雪華を守れなかった。だが、今はお前たちもいる。雪華を守ってくれ」
三人は跪き、雪華を必ず守りますと誓った。
そんな兄たちを見た雪華は、心の中でこみ上げていた不安が少しずつ和らいでいるのを感じた。
「胡風、お前も雪華を守ってくれるか」
家豪は胡風に少し笑みを浮かべながら言った。
胡風も同じように笑みを浮かべ、
「命に代えてでも守ります」
胡風は十五年もの間、心の中にのしかかっていた重りが軽くなったように感じた。
「主様、計画通りに進んでおります。二、三日後には後宮に着くでしょう」
「わかったわ。あの子なら上手くやれるはず。私の息子よ。」




