七、誘拐事件の真相
「旦那、例の男です」
胡風は宰相である陸炎に会っていた。
胡風はある方により、ある女の居場所を特定するよう命じられていた。胡風は様々な人物を演じ分け、情報収集をおこなっていた。
ようやくある女と頻繁に接触している陸宰相の目に留まることができた。
「丁宇だ。俺は華姫に会えると聞いてきたのだが」
陸宰相は感心したように胡風を見ながら頷いていた。
あの女が率いている組織ことを華と呼んでいた。そして、あの女はおこがましくも自ら華姫と呼んでいる。
「お前は使えそうだな。華は今、ある計画を実行しようとしている。成功すればこの国は我々のものとなるぞ。おい、小六、明日こいつを振に会わせろ。あの計画に役立つだろう」
次の日の朝、胡風は陸振に会った。
そこで雪華誘拐事件の計画を聞かされることとなった。
胡風は雪華の誘拐の実行犯に名乗りを上げた。あの方には雪華のことを必ず守れと命じられたが、それよりも華姫を捕らえるほうが重要だと胡風は考えていた。雪華が羅の国にとってどれほど重要な赤子なのか理解していなかった。
後にこの考えが間違えだったと後悔することとなった。
当初の計画では誘拐した雪華を華の案内で直接華姫に渡す予定だった。
胡風は途中で計画にない行動をしてしまった。
胡風は走っている途中背負っている雪華の顔を覗いて見た。雪華は胡風に向かって微笑みかけていた。その微笑みを見た瞬間、無垢な赤子を利用しようとしていた己の考えを後悔した。
(この子はあの女の元に連れて行ってはいけない)
胡風は華の監視役が自分たちのことを追っていることにも気づいていた。
どうにか追手たちを撒いて木箱に雪華を隠した。
(後で必ず・・・)
劉家の護衛たちに捕まり、胡風と一緒に雪華を誘拐した小六に向かって矢が飛んできた。小六は殺された。胡風は裏切ったことが勘づかれたと悟り、雪華の身の危険を感じた。
(おそらく陸宰相も陸振も華に殺されるだろう。黒薔薇の入れ墨のある者たちに)
劉家の護衛の中には同じ門下生だった白竜もおり、雪華を守ってもらおうと木箱へ案内した。
冷静さを装っていたが内心は不安だった。
木箱の中には雪華の姿がなかった。
胡風は一気に冷静さを失った。
「あの方に報告せねば」
胡風は急いである場所へ向かった。
胡風はあの方の前で泣きながらひれ伏していた。
そこへ後ろから家豪がやってきた。
「胡風・・・どういうことだ。雪華はどうした」
胡風は家豪の方を向き、今度は頭を床に打ち付けながら、申し訳ない、申し訳ないと繰り返し言っていた。
「胡風、私はお前に雪華を必ず守れと言ったな。どうして雪華がいないのだ」
いつもの温厚な皇帝とは違い、少し怒鳴っているようにも聞こえた。
「皇上、私を殺してください、殺してください」
胡風は懇願した。
劉家豪は皇帝の前に跪き、
「皇上、僭越ながら私の問いに答えていただきたいのです。胡風はなぜ雪華の誘拐に加担していたのですか。目的は何だったのですか」
皇帝は隠しきれないと思い、胡風との関係を明かした。
「家豪、胡風は私の直属暗部の者だ。私の代わりに密かに敵の中に潜り込んだりし、情報をつかみ、敵を排除する役割を果たしている。今回、胡風はある女の調査をさせてた。家豪、お前も知っているだろう」
「まさか・・・」
「そうだ、お前も誰かわかっただろう。胡風は雪華の誘拐計画を利用して、あの女の居場所をつかませ、処刑させるつもりだった。私は胡風から雪華を利用する計画を聞いて反対した。あの女より雪華の命の方が大事だからな。しかし、胡風は雪華を必ず守ると誓った。胡風そうだな」
胡風は家豪の裾をつかみ、娘を守れなかった、殺してくれと泣きながら訴えた。
「家豪、今回の件は私にも責任がある。申し訳なかった。胡風の処分はお前が決めろ」
家豪は震え、怒りを露わにしていた。
家豪は刀を抜き胡風の首元で刀をとめた。その手は震えていた。
家豪には十歳離れた兄がいた。大将軍には兄の家景がなるはずだった。しかし、戦で落馬し、左足が不自由になった。家景は自分の持っている全てを若き者たちに教えるため、門下生を募った。その門下生の一人が胡風だった。
家豪は昔から胡風の性格を知っている。国のためならば全てを投げ出すほどの男だった。
家豪はわかっていた。胡風はこの国を守ろうとしてただけだと。雪華を傷つけようなど思っていなかったことを。
家豪はぐっとこらえて、刀を鞘に収めた。
「すまない、胡風。しばらく私に顔を見せるな」
胡風は家豪に向かって頭を下げることしかできなかった。




