十二、守らなければならない華
「何を言っておる。俊智。雪華は月亮の許嫁だ。これは決定事項だ。お前はどんな娘を選んでも決して婚姻を結ぼうとしなかった。今さら何を言っておる」
皇帝は俊智を睨みつけ、その目は、自分の息子を見る目ではなく悪人でも見るかのようだった。
「父上もお人が悪いですよ」
俊智は皇帝に近づき耳元で何かを囁いた。
その瞬間、皇帝は驚きを隠せない表情をしていた。
「なぜ、お前がそれを・・・」
俊智は不敵な笑みを浮かべながら、
「今日はここまでにしておきましょう。父上もお疲れのようですし。この件はまたお話しましょう。では、失礼します」
俊智は皇帝に一礼をし、去ろうとしたが、雪華のところで立ち止まった。
雪華に近づき顎を持ち上げて、
「あなたを私のものにします」
俊智は雪華に微笑みかけ去って行った。
月亮は何度も父上と叫んでいたが皇帝は驚いた顔のまま動かなかった。
ようやく落ち着きを取り戻し、
「月亮、いいか、誰にも雪華を奪われてはならない。必ず守れ。いいな」
目を見開き、眉間にしわを寄せ、鼻息が荒く、険しい表情をしている皇帝を見るのははじめてだった。
俊智に何を言われたのか聞きたかったが、皇帝の迫力に何も言い出せなかった。
「はい、父上。必ず守ります」
(皇族との婚姻自体避けたいのに、無理だな、この空気は)
雪華は起きた出来事よりも皇族との婚姻が決定したことのほうが悩みの種だった。
雪華は家にたどり着くと、すぐさま家豪の部屋まで走って行った。
「どうした、雪華?そんなに慌てて」
「父上、なぜ第四皇子との婚姻のこと教えてくれなかったのですか」
それを隣で聞いた冰夏はうれしそうに、お嬢様おめでとうございますとはしゃいでいた。
「すまない、皇帝から口止めされててな。言えなかったのだ。皇上と私の約束なのだ、お前と第四皇子の婚姻は。父としては雪華を誰にも渡したくないのだが」
家豪は少し寂しそうな表情をしていた。
「第四皇子はいい男だろ。私もあの男ならお前を任せられる。婚姻まではあと一年ある。それまでは十五年間何もできなかった分、父親らしいことをさせてくれないか」
雪華は頭をなでられながら、納得のいかない表情をしていた。家豪はうれしそうに笑っていた。
「そういえば、俊智?っていう皇子もいましたよ。皇上と何か揉めてたけど」
「俊智だと?雪華、皇上は何か言っておられたか」
家豪は先程の笑顔から一変し、厳しい表情をしていた。
「第四皇子に私を必ず守れみたいなことは言っていました」
「そうか・・・。大丈夫だ、雪華。私もお前を守るから安心しろ」
雪華はなぜ皆が自分のことを守ろうとするのか、いまいち理解できなかった。
月亮の部屋に鬼のような形相で翰がやってきた。どうやら雪華との婚姻話が翰にばれたようだ。
翰は口が触れそうになるくらいに顔を近づけ、怒りに震えていた。
「殿下、なぜ私に妹との婚姻話を話してくれなかったのですか。殿下は私に殺されたいのですか」
本当に殺されそうな勢いで詰め寄られた。
月亮はすまなかったと言いながらなんとか翰を突き放した。
「私もお前の妹が許嫁だと知ったのは最近の話だ。よくわからないが父から雪華を必ず守れと言われた。いまだにその言葉の真意が理解できない」
月亮が考え込んでいると、
「殿下、理由などいりません。雪華を守るのは当たり前のことです。殿下、安心してください。雪華は兄の私が必ず守りますから」
相変わらずの妹の溺愛ぶりに月亮は少し引いていた。
「しかし、雪華は本当に美しかった。誰もが手に入れたいと思うのもわかるな。私だって・・・」
月亮は翰に顔を見てそれ以上言うのをやめた。
「殿下、他にも雪華を狙っている者がいるのですか!誰ですか!」
再び翰に詰め寄られ俊智のことは絶対に言うまいと思うのであった。




