三、許嫁ー得た者と失った者
劉家が賑やかな夜を過ごしていた頃、
「父上、お呼びでしょうか」
月亮は父である皇帝に呼び出されていた。
以前は緊張をしていたものの、最近は呼び出される回数も増え、慣れてしまった。
「月亮、お前の許嫁のことだ」
月亮は自分に許嫁がいることは知っていたが、相手までは知らなかった。今まで相手が誰であるか聞いても答えてくれなかった。
「お前も劉家豪の娘の誘拐事件のことは知っているだろう。その娘がやっと見つかって、劉家に戻ってきた。名を雪華という。その雪華がお前の許嫁だ」
月亮は皇帝の話を聞きながら、なぜか後宮を抜け出した時に出会った少女のことを思い出していた。あの時以来ずっと月亮の心にはその少女がいた。月亮にはこの感情が何かわからなかった。今まで恋愛というものに関心を抱いたことがなかった。しかし、その少女ではない誰かと、一緒になるのだと思うと受け入れられない自分がいた。
「お前にしか雪華のことを任せられぬ」
(どういうことだ?)
月亮はその言葉の意味をわからないでいた。
「今まで許嫁が誰であるのか言えなかったのは誘拐されてたこともあるが、雪華はこの国にとって重要な娘なのだ。それこそ、我々皇族と同じ扱いをしないといけないぐらいだ。しかし、その娘の秘密を知られてしまうとこの国が大変な事態になりかねぬ。それで、お前が婚姻できる歳になるまで隠していた。先代たちの二の舞を演じることになってしまう。今はまだ、お前にもその秘密を明かすことはできない。私には三人の皇子がいるが、雪華を守れるのは月亮、お前だけだ。雪華とこの国を守ってくれ」
会ったこともない娘が許嫁で、その娘と国を守れと言われても月亮の心は動かなかった。
(先代の二の舞って何だ?その娘は一体どんな秘密を抱えているんだ)
「近いうちに雪華に会わせる。雪華はまだ十五だから婚姻は一年後となる。私の願いを押し付けて申し訳ないと思っている。だが、お前にしか任せられぬ」
今までに見たことない皇帝の訴えかけるような表情に、仰せのままにとしか返せなかった。
皇族に生まれたからにはお互いに思いを寄せた者同士の婚姻など望めないとわかっていた。
皇帝の必死の訴えに、月亮は覚悟を決めた。
(父上が私に懇願したのだ。期待を裏切らないようにしよう。しかし、重大な秘密を抱えている娘を私なんかに託して、本当に良いのだろうか。雪華とはどんな娘なのだろうか・・・もう一度あの少女に会いたかった・・・)
劉家を出て二日後、林晨と徐媛は町に戻ってきていた。
今日はゆっくり休み、明日から店を再開しようと二人で話している時だった。
店の外から聞きなれた声がしていた。
二人が外に出るとそこには勇敢がいた。
「媛おばさん、晨おじさん、五日間もどこ行ってたんだよ。野菜持ってきたのに誰もいなくてさ」
林晨は、すまなかったなと言ってなぜか目を逸らしていた。隣で徐媛も複雑な顔をしていた。
異様な雰囲気を勇敢は感じていた。
「そういえば、小蘭は?」
聞かれるとは思っていたが、林晨も徐媛もどのように説明しようか悩んでいた。
「もしかして、小蘭に何かあったのか」
徐媛は深刻な顔をして勇敢に、中で話すから入ってと家の中に招いた。
勇敢は嫌な予感がしていた。もう二度と小蘭に会えないような、そんな気がしていた。