二、新たな生活の始まり
劉家の夜は賑わっていた。
雪華は先程まで長兄劉毅の四歳になる息子、靖と遊んでいた。毅には一歳になる娘玲もいる。靖は人懐っこい性格をしている。雪華と靖が初めて会った時、靖にとっては祖母である琳琅と雪華が同じ見た目をしているため不思議な顔をして見ていたが、すぐに手を引っ張りあちこちと振り回した。町では勇敢以外と接する機会がなかったため、最初は戸惑っていたが、靖の無邪気な笑顔に雪華は癒されていた。
日も沈み、食事の時間となる頃、林晨と徐媛は劉家の厨房で料理人に交じって料理を作っていた。
その間雪華は、今まで暮らしていた町の様子や暮らしを父、母、兄たちに話していた。雪華の話を皆うれしそうに聞いていた。
出来上がった料理を持ってきた林晨と徐媛は話している雪華の様子を見て、うれしくもあり、寂しくもあった。普段は不愛想で必要なこと以外あまり話さなかった娘が、あれこれと饒舌に話している。心なしか楽しそうに見える。
(小蘭にとってはやはりここがいるべき場所なのだ。これでよかったのだ)
林晨はそう言い聞かせながら、料理を食事台に並べた。
劉家では食べたことのない素朴な見た目の料理が並んでおり、皆戸惑っていたが、雪華が食べてみてください、絶品ですからと言うので、皆食べてみた。
見た目とは裏腹にしっかりとした味をしており、特に野菜で出汁をとり作った面湯はあまりのおいしさにおかわりする者が続出した。
「小蘭、じゃないな、雪華、しばらく俺の料理は食べれないからしっかり食べておきなさい」
林晨は寂しい顔をしながら、雪華の頭をなでていた。
雪華は、はい、と今にも泣きそうな声で答え、一口一口味を噛みしめながら食べていた。
雪華は林晨と徐媛と一緒の部屋で寝ていた。
明日には二人は町に帰るため、家豪が今日は三人で過ごしてくださいと部屋を用意した。
雪華は眠れないでいた。
「どうしたの小蘭、眠れないの。私も眠れなくてね」
徐媛はそう言うと起き上がり、雪華の隣に座った。
雪華は十五年過ごした町のことを思い巡らしていた。
(そういえば何も言わずにここに来てしまったな。私はもうあの町には戻れない。最後に伝えたかったな・・・)
徐媛はどこか遠くを見ている雪華の顔を見て、どうしたの?と優しく問いかけた。
雪華は徐媛の顔を見て
「母上、伝えてほしいことがあるの」
徐媛は雪華の話を聞いて、わかった、必ず伝えるわ、そう言って抱きしめた。
翌朝、劉家の屋敷の前には林晨と徐媛を町に送る迎えの馬車が来ていた。
門の手前で劉家がそろってお見送りをしていた。
雪華は来た時と同じように布で頭を覆っていたが、母の琳琅も同じようにしていた。
(母上も隠しているということは白髪の髪は身内以外には知られてはいけない秘密なのだろう。どんな秘密があるのだろう。母上は教えてくれるのだろうか)
知らなかったとはいえ、あの町で秘密がばれなくてよかったと雪華はほっとしていた。
「私どもはいつでも歓迎します。また来てください。雪華も喜びますので」
「えぇ、必ずまた会いに来ます」
家豪は林晨と固い握手をした。
徐媛は、また会いに来るから、元気でねと雪華を抱きしめた。
「養父上と養母上もお元気で。待ってるから」
今度はそれを聞いた林晨が雪華を抱きしめていた。
それから林晨と徐媛は雪華をしっかり見つめ、家豪に一礼し、名残惜しそうな表情で劉家を後にした。
「雪華、泣きたい時は思いっきり泣いていいのですよ。私の胸を貸しますから」
翰は両手を広げて待っていたが、目を開けた時には誰もいなかった。
「翰兄何してるの。戻るよー」
忠が少し馬鹿にしたように笑っていた。
雪華と叫びながら追いかけてくる翰に結構ですと言いながら雪華は逃げるのであった。
それを見ていた皆はやれやれと呆れた顔をしていた。
家豪はやっと娘が戻ってきたうれしさと同時に不安も感じていた。
(このまま平穏に過ごせればよいが・・・)
雪華は十五年も過ごしてきた町を離れ、本当の家族との生活、劉家のお嬢様としての立場に不安を感じながらも、前向きな気持ちでいた。
心の奥底でくすぶっていたものが、少し晴れた気がした。




