表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/111

十五、翰の出生の秘密

琳琅(リンラン)(タオ)莫柔(モールー)の話を聞き、涙を拭っていた。

「あなたの旦那様のお名前は?」

「はい、如墨(ルーモー)といいます」

琳琅は聞き覚えがなかったが、濤には思い当たる節があった。

(たしか・・・)

「莫柔さん、玉佩を見せていただいてもよろしいですか?」

莫柔は玉佩を濤に渡した。

濤は玉佩を目にした瞬間、手が震えていた。

「この玉佩は・・・皇弟の志明(ヂーミン)様の玉佩です」

琳琅は思わぬ人物の名前に驚きを隠せなかった。

莫柔は目の前で起きていることが全く理解できていなかった。

「皇弟?あの人が?そんなまさか・・・」

莫柔は如墨の行動を思い出していたが、そういえば、思い当たる節があった。

上品な出で立ち、言葉遣い、衣の着方もあやふやだった。最初に出会った時も平民なら誰もが知っている毒草を口にしてお腹を壊していた。

莫柔は口を開いたまま、止まっていた。そして、お腹の子の身分に関しても気づいてしまった。

「お腹の子は皇族の血を受け継いでいる子になります」

莫柔は如墨が襲われた理由もなんとなく理解してきた。

「ここにいるうちは安全です。私も兄上も出産までいますので安心してください」

莫柔は正座をし、何度も頭を下げ、お礼を述べた。




莫柔の出産には秀念(シュウニエン)の妻と琳琅が立ちあった。難産であった。

琳琅は自分が子供を産んだ時の経験に頼るしかなかった。

出血の量が多く、莫柔は今にも意識を失いそうだった。

「柔さん、頭が出てきました。もう少しですよ」

琳琅は莫柔の手を握り、汗を拭いてあげながら、声をかけていた。


オギャー


赤子は元気な産声を上げた。

「柔さん、元気な男の子ですよ」

産まれたばかりの赤子を莫柔の横にそっと寝かせた。

莫柔は優しく赤子に手に触れた。すると、赤子は莫柔の人差し指を握った。

莫柔は感動のあまり声を出すことができなかった。

「琳琅様、この子の名前は"(ハン)"と名付けます。あの人が・・・言っていました。生まれた子が男の子だったら・・・自分の名前の如墨につなげると・・・」

琳琅は莫柔の声に耳を傾けていたが、言葉が途切れてしまった。

莫柔を見ると、幸せそうな笑顔で息を引き取っていた。




志明が殺されたこともあり、翰が皇弟の子であることを隠す必要があった。

琳琅は翰を自分の子供として育てる決心をした。




三月以上家を空けていたため、皆心配していたが、子供を連れて帰ってきたら、納得していた。

家豪(ジャーハオ)とは半年以上会っていなかったこともあり、事実が露呈することはなかった。

むしろ、家豪は戦の間に子が生まれていたことを大変喜んでいた。

(イー)も弟ができたことに喜んでいた。

翰は(リウ)家の第二子として育っていった。

琳琅は毅、(チョン)雪華(シュエファ)と同じように翰にも愛情を注いだ。

これが、琳琅が二十年間、隠し続けてきた翰の出生の秘密だった。




翰はこの事実を知り、悲しむどころか大いに喜んでいた。

(雪華とは本当の兄妹ではなかったのですね。私の雪華への思いはもう隠す必要はないのですね。今すぐにでも雪華を抱きしめたい)

翰はすぐにでも帰って雪華に会いたかったが、外はもうすっかり暗くなっていた。

翰は帰るのを諦めて、朝早くここを出ることにした。

(しかし、全く気づきませんでした。それほど、母上は兄上や忠と同じように自分の息子として育ててくれたということですね。やはり、母上には頭が上がりません)

翰は雪華を想うのと同じほど、母への感謝の気持ちでいっぱいだった。




小蘭(シャオラン)、行ってくるわよ。たくさんお土産買ってきてあげるから、楽しみに待ってなさい」

林晨(リンチェン)徐媛(シュイユエン)は新年で賑わっている町に出向き、外に出れない雪華に何か買ってきてあげようと思い、二人で出かけた。

二人が出かけた後、雪華は冰夏(ビンシャー)に手伝ってもらいながら着替えていた。

外から激しい足音が聞こえてきたかと思ったら、戸が勢いよく開き、部屋に入るとその勢いのまま閉めた。部屋に入ってきたのは翰だった。

(あれ?この前もこんな状況があったような・・・)

雪華は肌着のまま止まっていた。冰夏は空気を呼んで外に出ようとしていた。

雪華は冰夏を止めようとした時だった。

翰が思い切り抱きしめてきた。

あの口づけの事故以来、話づらい雰囲気だったのが、一気に距離を縮めてこられ、雪華は動揺していた。

「翰兄様、どうしたのですか?」

翰は雪華を離し、じっと愛おしそうに見つめていた。

すると、雪華の頬に手を当て、ゆっくり目を閉じながら口づけをした。

(えっ?)

雪華は何がどうなっているのかわからず、口づけされたまま固まっていた。

翰は唇を離すと、もう一度雪華を抱きしめ、こう言った。

「私たちは本当の兄妹ではなかったのです」

信じられない翰の発言に、聞き間違えたかと思ってしまい、

「翰兄様、どういうことですか?もう一度言ってもらえますか?」

と聞き返したが、答えは同じだった。

「私と雪華は実の兄妹ではなかったのです」

そう言った翰の顔は兄の顔ではなく、男の顔だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ