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04,再会の二日目 続きの続き

 バチグロ=バッティンググローブの略

「実はあの日、お嬢様の誕生日だったんです」

 あの日とは、シュンとここで初めて会った日の事である。

「この近くには奥様のご実家がありまして、そこで二十歳を迎えたお嬢様を祝う、パーティーが行われたのですが……」

 ここでシュンはこの発言に少々不思議に思い、疑問を投げかける。

「この辺、でっかい屋敷なんてねえぞ?間違いじゃないのか」

 シュンの勝手な思い込みであるが、二人の容姿を見る限りは相当な富豪と見て取れる。田畑と小さな民家ばかりの田舎。少なくともシュンの知る限り、そのような富豪が住むような建物は存在しない。

「それは、奥様の出身も俊輔と同じ、農家の出身でして。お嬢様たってのご希望で、毎年行われるような壮大なものでは無く、今回はご主人さまと、奥様、奥様の母上様、お嬢様、あとは私と、五人だけの小さなものでした」

 シュンは美菜との以外な共通点に、少し親近感が湧く。そしてまた軽くからかう。

「へえーじゃあ奥さん、たまのこしってやつか」

「人聞きの悪い……、そういう発言はお嬢様の前ではお控えください。気に障ります」

 軽い冗談のつもりが、啓次はそれにのらず怒る。予想外だったため今度はシュンが少し凹んだ。

「す、すまなかった」

 シュンは頭を下げ謝る。しかし場所については解決したが、またさらに疑問が浮かぶ。気を取り直し、この疑問を投げかけた。

「パーティーの後だと、なおさらこんな所は来んだろ」

「実は、ご主人様とのお話の最中、お嬢様が機嫌を損ねまして……」

「何があったんだ?」

 ここで、啓次は美菜の方へ振り向く。

「俊輔に喋っても……」

「言わないで、お願い……」

「わかりました」

 啓次は再び、シュンの方へ顔を向けた。

「まあ、兎も角ですね……。そんな訳ですので、ご了承ください」

「お、おう。まあ、やな事あって抜け出したんだな」

「はい……」

 啓次は口を曇らせる。シュンは頷き理解を示す、今度はただ単純に自分が気になっていたことを聞いた。

「で、その、美菜の実家はここからそんなに近いのか?」

「移動に一時間は掛かりましたから、そんなに近いとは言い難いです。何故そんな事を聞くのですか?」

 確かに今の流れで聞くようなことでは無い。そう疑問に思った啓次に聞き返されたシュンは何故か慌てふためいていた。

「あ、いや……べ、別に理由はねえよ!……続きだ、続き!ほら!」

 疑問は更に深くなり啓次は首を傾げる。だがシュンに話の続きを促されたため、美菜の来た理由を話すのを続けた。

「はい……。車を出して、とお嬢様に頼まれまして、適当に走らせていたうち、ここで止めて欲しいと」

「……そ、そうか。じゃあ、あの時はパーティーで入った酒が、ああいう風にさせていたんだな」

「その通りです」

 シュンはコクコクと頷きを繰り返し、そうかそうかと口ずさむ。そして、今日のことについて聞き出す。

「んで?今日は何しに来たんだ?」

「君に会いにきた!!!」

 この問いに、美菜が突然大声で応えた。シュンはそれに驚き、後ろの壁に頭をぶつけ、痛む場所をさする。啓次は、大きな音を上げて頭をぶつけたシュンを心配し、大丈夫ですか、と声をかけた。

「お、おう。大丈夫だ。それより俺に会いに来たと。……お前ら、そんなに暇なのか??」

 美菜はいきなりシュンをはたいた。まだ痛む後頭部に、そして。

「ひどい!!!!折角さぁぁぁあ!!啓次に頼みに頼み込んで、ようやくここに来れたっていうのにっ!!!」

 シュンは、今美菜が言ったことが真実かどうか啓次に聞いた。

「本当なのか??」

「ええ、本当です。今日を空けるのにどれほど苦労したものか……」

 啓次は、らしくない少し大袈裟な素振りを含めながら、シュンに応える。これを耳にし、シュンは今までの悪じみた発言に対し、謝罪する。

「それほどとは……な、すまなかった。まあなんだ、なんて言うか……わざわざ有難うな。その、今までのは軽いスキンシップみたいなものでな……」

 急に態度を改めるシュン。場の空気は冷めて二人は少し慌てた。

「い、いいですよ!今のは軽い冗談みたいなものですから」

「そーだよ!!ねっ、さっきのように調子良く行こうよ!!」

 シュンは二人の言葉にほっと胸をなで下ろす。ただ、二人は普段忙しいのは冗談では無い、とシュンは思い、一応ではあるがここに来るのを抑制するよう勧めた。

「そ、そうか??でも無理してまでこんなトコ来なくていいからな」

「無理なんかしてないよー!!もうっ啓次が余計な事言うからっ」

 今度は啓次の頭をはたく。いきなりはたかれ啓次は驚いた。

「わ、私のせいですか!?」

「うん」

「……すいませんでした、俊輔」

 変な責任押し付けられたのにも拘らず、啓次はそれを受け入れた。

 どうやら、彼にとって美菜は絶対らしい。執事とは大変な仕事だ、とシュンは二人のやり取りを見ててつくづく思った。

「啓次、もういいよいいよ。でもよ、美菜は良く覚えていたな。あの日はかなりの泥酔ぶりだったのにな」

 美菜は、はっとした。

「……じ…実は……全然覚えてないの……」

 美菜には出会った時の記憶は一切無い。そこでシュンはある矛盾をついた。

「え、でもさっき俺に会いにきたって言ったよな??」

 この問いに啓次が代弁する。

「ふふ……それはお嬢様が俊輔を夢で見て「あああああああああああああ!!!!!!」

 啓次が喋っている途中、美菜が突然発狂しだした。顔が真っ赤にし、持っていたブランド物のショルダーバッグから何かを取り出し、そのままシュンに顔に向けて投げつけた。

「ぶっ!!」

 見事に投げつけた物がシュンの顔に丁度当たる。投げつけた物は二つに分かれ、一つはシュンの足元に、もう一つは美菜とシュンの間に落ちた。

 当然、シュンはこの唐突な行為に怒った。

「何すん……」

「プレゼントっ!!!」

 美菜はそう叫び、そっぽを向く。シュンが投げつけた物を確認すると、それはバッティング用のグローブだった。

 シュンはバチグロを拾い上げ、目を丸くしながら美菜を見た。

「こ、これ」

「貰ってあげて下さい。お嬢様からのお詫びのしるし、だそうです」

「お、おう、そうか。ありがとな、美菜」

「………」

 美菜はシュンが告げた感謝の言葉を返さず、黙りこくるまま。啓次は更に美菜の心境を告げた。

「照れてますね、お嬢様」

「う、ウウ、ウルサイ、ケージ!!よーしゅ、すんじゃんだから!カーるよ!!!!」

 図星を付かれた美菜は、啓次に早く帰ると言って誤魔化そうとしたが、カミカミな上に声も裏返えってしまう。シュンと啓次はそんなコミカルな美菜の様子を見て大笑いをした。

 それでも美菜は構わず、ベンチを立ち勇み足で出口へと歩く。

「ははは、あっそうだ、俊輔」

 啓次は懐から黒の手帳を取り出し、開き、そこに何やらメモを。メモをしたページを破り、シュンに渡す。

「それは私の携帯の番号です。御用の時は連絡下さい」

「名刺じゃないんだな」

「一応名刺にも番号は載ってますが、携帯は二つ持ってまして。一つは仕事用、もう一つは一文字家、言いかえればお嬢様の家族用ですね。今、渡したのは一文字家用の携帯です。私にとって、俊輔も大事な御人ですから」

「気ぃ使わなくてもいいのによー」

 このやり取りの途中、バッティングセンターの出入り口から美菜の大声がした。

「啓次遅い!!あ!!それと、俊輔!!」 

「…んだよ!!!」

「また、ここに来てやるんだからっ!!大人しく待ってなさい!!」

 多分、来たときは絶対ここにいるように、との命令なのだろう。シュンはそう解釈した。

「ここは俺んちじゃねえっての……。ったく……はいはい!!いつでもお待ちしてますよ、おじょーさま!!」

 美菜はシュンに向かって手を突き出し親指を立てた。

「よろしい!!ほら啓次!!帰るよ!!」

「は、強弱の激しいお嬢様だこと」

「ははは。それでは俊輔。お嬢様がお待ちしてますのでお先に失礼します」

「おう。後で、啓次にワン切りいれとくよ」

 啓次はコクっと頷き、美菜の元へ。

「も〜私を待たせるなんて、付き人失格ね」

「すいませんお嬢様」

 二人はそんな会話をしながらバッティングセンターを後にする。ここでようやくシュンはある事に気付いた。

「俺、いつの間にか美菜に呼び捨てされてるな……」

 今頃気付いたところでどうすることも無い。最初の時と別れた時とでは態度の変化は急激なものだが、シュン自身、もうこれ以降は気にしないようにした。

 そしてバッティングセンターはシュン一人となり、静かとなる。シュンはおもむろに携帯を取り出した。啓次に渡されたメモを見ながら不慣れな手つきで番号を打っていく。

「うし、OKだな」

 啓次へのワン切りを完了した。

 ようやくバッティングが出来るようになったので、シュンはその準備をする。手始めに早速、今さっき美菜から貰ったバチグロを手に装着した。

「おお!!いい感じだ!初めてバチグロ着けたけど、こんなにしっくりくるもんなんだな」

 バチグロの感触に感動を覚え、次はマイバットを手にした。

 シュンはバットを両手に持ち天に向け、芯の部分を見つめ、気合いを入れるために大声で叫んだ。

「うっしゃあーーーー!!!!!打つぞーーーー!!!!!!」

 準備を終えて気合い注入後、打席に入る。そしてコイン投入し、マシンが動き出す。まず最初の一球目が放たれる。シュンはいつも通りの感覚でバットを振った。

「うおッ、軽ッ!!」

 なんと空振り……。新しいバットとバチグロに、シュンが対応しきれなかったのだ。そんな状態が三球も続いた。

「やべ、当たらん」

 それでも何とか慣れ、チップさせる事ができた。しかし、なかなか前に飛ばす事ができずにおり、気が付けば最後の一球となっていた。

 マシンから放たれたボールは、なんと顔面に向かって飛んできた。

 シュンはその悪球に対し、体を後ろに反らしつつ大根切り。見事ジャストミートさせ、物凄い速さの弾丸ライナーでボールを弾き返した。

「なんだ今の感触……すげえ」

 シュンは顔に向かって飛んできたボールより、打った時の感触に驚いていた。

「よ、よっしゃーー!!!!次だ次!!!!もっかいやっぞ!!!!」

 またもうワンセット。次は完全に慣れたのか、いつも通り快音を響かせまくった。

 二セット目終了後、シュンの顔は快感で自然と笑みを浮かばせていた。

「もう最高……」

 そんな気持ち悪い笑みを浮かべるシュン。バチグロを外し、バットをケースにしまう。帰り支度を終わらせ、いつも通り、おしぼりで手を拭く。

「啓次の奴がここで打つ姿、見た事ねえな。次来たときは無理矢理にでも打たせてやろう」

 おしぼりをかごに放り、出入り口に向かう。そしていつも通り、去り際にカウンターのばあちゃんに声をかけた。

「おっ今日は起きてるじゃん」

「ほっほっほ〜いつもあんたに起こされてばかりじゃ悪いもんでな〜」

「はははごくろうさま」

「あんたもな」

 シュンはそんな簡単な会話をばあちゃんとし、バッティングセンターを出て、マイバイクで家路に着いたのであった。

 今の時代、赤外線らしい……。

 乗り遅れ取るなあ……。

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