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05,懐かしの存在

この時、美菜と啓次は既に何度も此処へは足を運んでいやす。

 夕方、今日もいつものようにシュンはマイバイクで颯爽さっそうと登場した。どんな日であろうと日課の打撃追及を欠かすことは無い。まあ、最近は別の理由もある訳なのだが。

 とても静かで寂しいバッテングセンター、シュンはいつものベンチに座ろうと向かえば、先に自分がいつもの座る場所に女の人が座っていた。

 普段ならば絶対にあり得ない光景。

 その女の人は、肩まである長さの茶髪、現代の女の子らしいカジュアルな服装していた。そして彼女の持つ顔と雰囲気には、シュンは覚えがあった。

 その者は、思い出に在る、一番懐かしの存在。

「お前!!何でここに居るんだ!?」

 自分がいつも座る場所に居る存在に、驚きを露わにする。

「久しぶりに会ってその態度は何?!もっと歓迎してよね!!」

 彼女の名は今川いまがわ めぐみ

 シュンとは小中高と同じ学校で共に育ち仲もそれなりに良かったのだったが、卒業後は超A級の大学のT大に入るため上京していた。その為高校卒業以来、約5年ぶりの再会である。この関係、言うなれば幼馴染、そんなものだ。ただ、二人には、過去に色々あったらしく……。

「誰が歓迎何かするか!つーか早く帰れ!!」

「ひっどーーい!!折角、シュンに会いに来たってのにぃ!!」

 少しぐらいはシュンも歓迎してもいいだろうとは思うものだが、それもまた彼らしい。

 そして恵もシュンの言葉に対し、少し大袈裟にアクションを起こす。その態度にシュンは呆れを露わにする。

「あのなー……、はぁ、第一な、お前は此処にもう、用はないだろ??いちいち帰って来られても迷惑なんだよ」

 恵を突き放すための冷たい言葉を放つ。

「……ごめん」

 何故か早々謝る恵。言葉と表情にはもはやふざける余地は無かったようだ。

 シュンは大きなため息を吐いた後、隣に腰を掛ける。

 何も会話すること無く、しばらくの沈黙が続いていく。静寂の間は、二人に時間を、より大きく感じさせた。

 久しぶりの再会にしては不思議なもの、通常ならば再会を喜ぶものであろうが、二人にそれは一切無い。過去、それが原因か。はたまた他の要因があるのか。

 ただこの空気、このまま続けても何も動かない。どちらかがしびれを切らし、張りつめた空気を切り裂くころだ。

「まったく……何しに、来たんだよ」

 アクションを起こしたのはシュンからだった。

 この張りつめた空気を掻き消すために、最初に聞いたことを再び恵に聞く。

「まあ……里帰り……かな」

「そうか。世間は今、連休だもんな」

 重たい表情ををしながらも、聞かれたことを、里帰り、と答える。少し、何かを思い浮かべるよう、上を向きながら。

 シュンはそんな表情を見ること無く、最初の、冗談イッパイの会話とは違う答えながらも、納得をする。

 しかし、ふとシュンは考えてみた。

 長い付き合いであったものの、恵とは今までにここに一緒に居た記憶は全くないのだ。

 帰って来た理由の後、今度はその疑問を聞くことにした。

「何でお前はこんなとこにいんだ??折角の里帰り、親御さんとゆっくりしてればいいじゃないか」

 何が腑に落ちないのか、恵は口を少し尖らせた。

 続けざま、シュンは言う。

「大体お前、こんなとこ興味無いだろ??たしかにここにゃ都会と違ってなんもないけぐっ、痛ってえ!いきなり何すんだ!!」

 喋ってる最中に、恵は左手を握り、それをシュンの頭めがけてぶつけた。

 訳の分からないシュンは、当然怒りの態度を表した。だが相手も相手、シュン以上に怒りの表情で。

「さっき言ったじゃんか!!シュンはここに居るっておじさんから聞いて、それで来たの!!」

「な、なんだよ……。冗談じゃなかったのか??ってかお前、俺に用って今さら何なんだよ」

 シュンが冗談と思うのも仕方無い。それが、恵、だからだ。

 ただ再会の最初とは違い、恵は真剣な顔をしているのだが、意地の悪いシュンは、親しき懐かしの存在をからかいに入った。

「むかし俺をふったくせによー……。その男にわざわざ会いに来るなんてどうゆうつもりかね。ん〜〜??」

 にやけ面をし、煽りだす。

「まあようやく?離れてみて俺の素晴らしさに気付いたってか?!ははははは!!!」

 今まで向けていた視線を下に外し、困惑する恵。ふざけて追い打ちをかけてくるシュンに何も返さずにいた。

 口は半開き、何か言いたげなのだが詰まらせた顔をする。暫くしたのちに目だけをシュンに返し反抗の意思を示すような目線で見つめる。

「な、何だよ」

 真剣な表情、そんな態度に少したじろでしまった。額からは冷や汗が流れる。シュンからしてみれば、今までにこんな恵を見るのは極僅か。からかうのも難しい、きちんとそれを読み取った。

 一瞬の間が空き、そしてついに恵は言葉を発した。

「シュン……私と付き合わない……??」

 かなり唐突で、衝撃の一言。

「はぁ??」

 シュンはただ呆然とした。

 恵は、更に詰め寄るようにシュンに攻め入った。

「私と付き合ってほしいの」

 二人の間は一寸ほどしかない。

「何を今さら言ってんだ!!」

 つい先ほどの余裕からは一変し、この至近距離から逃げるため勢いよく立ち上がった。反動で持ってきていたバットは倒れ、足が不安定でボロのベンチも揺れる。恵は体勢を崩して右横の空いてる席に両手を着いた。彼の心は静まらない。

「お前な、いい加減にしろよ!大体、冗談なんだろ!!?」

「冗談じゃ、無いよ!!」

「はあ??!!今さら何言ってんだ!!お前ふざけんじゃねえ!!!!」

「…………ごめん……」

 彼の怒号が静かな室内に響き渡り、カウンターのおばあちゃんも目を覚ましてしまった。その迫力と気持ちに恵はまた謝ってしまう。

 かつては、自分が、ふった相手だから怒るのも無理ない、きっとそう思えたに違いない。

 シュンは怒りのあまり息を荒くして、自分の方へ顔を向けようとしない恵を睨みつける。この場、恵は自分のしたことに後悔を噛みしめていた。

 数回ほどの深い呼吸の後、シュンは少し気が静まり我に帰ったようだ。ただ全てが治まる訳では無かったために、別の場所で晴らすことにした。さっきの衝撃で倒れたバットを拾い、それを持ちいつもの打席へと向かう。手際よくバッティングを始める為の作業を一通り終え、やがてボールを打ち返す音が聞こえてくる。爽快な打撃音がして、ようやくながら恵は顔を上げる。そこにはふざけ半分ではない、真剣な表情でバットを振うシュンの姿があった。

 恵は打撃の様子を終わるまでじっと見ていた。ここで一体、何を感じ、何を考え、何を思ったものであろうか。

 最後の一球までフルスイング、いやオーバースイングで打撃を終えた。彼の額からは何滴もの大粒の汗が垂れており、彼のスイングの激しさを物語っている。ただそれでも、打席から出てきて、恵と目を合わせる事は無かった。

「やっぱりシュンは野球がうまいね」

「……お前なぁ」

 彼女は機嫌を取ろうとして言ったのであろう。だが今のシュンに対してまるで逆効果であって、焼け石に水と気付いた彼女は、頑張った作り笑顔もまたもとの表情に戻す。

 それから、無言のシュンは片付けを始めていく。バットをケースへとしまい、喉も潤さずに片付けを済まし、もう帰らんとしていた。

「も、もう帰っちゃうの?」

 シュンは反応無しに立ち上がる。恵も続いて立ちあがり、シュンが帰るのを止めようとした。しかしも当然、無視をされる、一向に止まろうとしない。

「ねえ、ま、待ってよ、もっと話しようよ」

「話すことなんてねえよ」

「ほら5年ぶりなんだからさ、ほ、ほら何か色々と気になったりしない?」

「しない」

 とは言ったのだが、ここで急にシュンは足を止めた。そのため恵はシュンの背中にぶつかる。

「あたっ!!急に止まって……」

 ぶつかった個所である顔の頬辺りを押さえ、同情を誘うための愛らしい上目づかいでシュンを見つめていく。まあ、振り向かなかったので意味は無いが、その時に恵は、外に居る、ある二人の存在が目に入った。

 それは美菜と啓次の姿であった。美菜は何を言ってるのか分からないが、啓次に吠え付けているようだ。言われようにされてる啓次は大きなテーブルを背負って辛そうにしている。

「お前、これ持ってろ」

「あ、ちょ、ちょっと〜……」

 シュンは顔は二人に向けたままで後ろの恵に自分の荷物を持たせ、外に駆け出ていった。辛そうにする啓次の元へ手を貸し、テーブル持ちを助力する。何度も頭を下げる啓次に、今までとは打って変わってシュンはそれを笑って返した。

 先に美菜が中へ入ってくる。入口を塞ぐように呆然と立っていた恵に軽く一つ頭を下げ、道を開けてもらうよう手で促した。

「はい、失礼しま〜す」

 恵は素直に道を開けた。美菜は自動ドアが再び閉まらぬよう、足で止め、テーブルが通るスペースを確保。その後に続いてテーブルを持った二人が、乱雑な足取りで中へ。

「おい美菜!!この向きで入るか!?」

「うんっ!!大丈夫大丈夫!!」

 傍から見れば危なっかしいが、二人は慎重なつもりで自動ドア手前の段差に差し掛かる。シュンはクリアするも、啓次は躓いてしまったらしく、いきなり二人が持っていたテーブルが傾き、下へ落としそうになる。

「ぬおっ!!??」

 それを必至にこらえるシュン。何とか二人は踏ん張り切り、体勢を安定した状態へと戻してゆく。

「啓次!!」

 シュンは不注意に喝を入れる、啓次は、すいません、と言って何度も返した。先の方ではそれを見ていた美菜が笑いながら、オーライオーライ、の大きな声と、両手で手まねきをして二人を誘導していく。

 邪魔にならないよう隅に寄っていた恵はある事に気付いた。

「あの人って……もしかして……」

 先頭を後ろ歩きをする美菜を見て呟く。恵には美菜に見覚えがあった。

「うん、絶対そうだ。間違いない……」

 心の中での確信はそのまま外へと漏れ、ただその希有な存在を口を開けたまま見続けていた。 


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