第6話「エクスとデート!」N
メルアという犯罪組織を滅するためにセラフィタスというチームに入ってから半年。グラティハの死から1か月の日だった。
ちなみに、グラティハと戦った日にも、アマネに刺された右肩の傷はうずいており、セラフィタスのみんなにはバレないように隠していた。今はもうリハビリまですんで、ほとんど問題ない。
イグニクア王国。まだまだ発展途中のこの国でも、城下町の賑わいはいつでもお祭りの様相だ。タイサンボク広場を中心とするメインストリートに沿う都市群は、唯一といっていいイグニクア大陸の都会になっている。
広い空の下で、若干汚れた空気の広がる一本道の街並み。都会ってどうだろう、と思う。私が田舎者なのを抜きにしても、ちょっとここは人が多すぎる。
「今日はただの買い物だって言ってたけど、なんで俺を連れてきたんだ?」
「いやエクス、明日マキナの誕生日ジャン、覚えてないの? あと、別に私とエクスが一緒に買い物するのはそんな変なことじゃないよ」
「あれ!? そうだったっけ! じゃあ気合い入れないとだな」
エクス。犯罪組織を調査するためのチームの仲間。そういう出会いだったけど、私はいい出会いだったと思う。というよりも、エクスと私のことを考えると、きっと彼といつか出会うことにはなっていたと思う。それがこういう形でよかった。もっとひどい形でなくてよかった。
私はエクスのことが好きだった。だからこそ、彼が3度も死ぬことになるだなんて、絶対に受け入れられない。
「マキナって何が好きなの? 知ってる?」
「うーん」と、何をあげれば喜ぶのか、エクスもわからないみたい。マキナってどういう人?
「マキナってなんか、いつも遠くを見てるよネ」
「そうだな。何か僕たちには見えないものを見ている」
マキナは私の瞬間移動を最強にしてくれた最高の友達だから、心をこめてお祝いしたい。
人の波にのまれて離れないように気を付けながら、レンガ造りの歩きにくい通りをなんとか進んでいく。よく周りの人達はこんなに歩けるね、とか言って。
「ごはんに連れていくとかが無難じゃないか? なんかデウスもマキナも、どういう人かわからないな、僕は友達になりたいと思ってるのに」
マキナはまだいいが、デウスの方はひどい壁の作り方だ。ひどくない? 私たちとんでもない役目を持った仲間だよ? 悪い人じゃないんだろうけど……。
「なんであんなに自分のこと喋らないんだろうネ」
「ナミダは素直になんでも話してくれて、楽しいよ」
「ありがと。ん? でもそれって遠回しに二人への悪口じゃん!」
「はは。そうかもな。ナミダと気が合いすぎるから、余計にあの二人がそっけなく見えるのかもな」
「私そんなにいい子じゃないよ。エクスのほうがいい子」
いい子、とか男の子に言うのはハードルが高い。周りからは私は簡単にそういうことを言うような人間かと思われてるかもしれないけど、少なくともエクスに言うのは勇気が必要だった。
「え? うーん……」
「え、その顔なに?」
と、少しもやっとして、エクスにとっては怖い言い方をしてしまった。これは、何か後ろめたいことがある?
「隠しごと? 待って、まずさ、私たちもっと仲良くなろうよ」
「え、なるほど……ナミダ、君は結構、そういう感じだよな……」
「ありがと」
困り顔のエクス。おもしろい。
「じゃ、じゃあ、明日はもう、仲良くなろうという親睦会で良いんじゃないか?」
「えー、うーん、地雷踏んだら嫌だな、誕生日でしょ? マキナもデウスも何あるかわかんないんだケド。ああいうタイプ」
「それもそうかぁ」
エクスって、絵本や神話に出てくる英雄みたいな顔してる。背も高くてきりっとしてて、かっこいい。この仕事をする前は貧しかったらしいけれども。もったいないな。いや、失礼か。
「あ、あそこのアクセサリー屋、見てみようよ。ああいうのキライな女の子はいないから」
「分かった。ああいうキラキラしたのは、僕は分かんないけど」
イグニクア人らしからぬ金髪の女性の店主。ナミダの形のピアス、すっごくイイのを着けている。ちいさな霞がかかっているみたいな、不思議な色。
「ねえ、エクス! あれ欲しすぎ!」
「いいじゃないか。僕たちの役目の重さからすれば、あれくらいの値段の贅沢なら許されると思うよ」
「えー、そんなに甘やかされたら買っちゃう、エクスのせいだからネ」
「えー? 買ってもいいと思うよ、デウスもきっと怒らないさ」
「イヤー、デウス怒りそう。真面目ばかだから。このために予算が降りたわけじゃないんだぞって」
宝石やアクセサリーが立ち並ぶ棚に、エクスのことを飾っても違和感はない気がした。エクスって、きらきらしてるし。
「それで、マキナが気に入りそうなものは、女性として何かピンと来るか?」
「うーん、いつもの感じだと、例えばこういう髪につけるやつか、うーん、ないなあ……」
エクスは笑って、「ナミダがアクセ見たかっただけか?」
「ばれちゃった~」
「そっか。はは、まあ、時間はあるよ」
「うん。あれ買うよ。欲しい欲しい、お耳かわいくなるよ」
「よかったな。毎日かわいいほうが毎日幸せだな」
「え、エクスってそんなこと言えるの!? 最高」
「え?」
「いや、無自覚? いいねえ~」
困り顔のエクス。おもしろい。
「あの、いちゃつきすぎ。早く帰って」とアクセ屋のしゃれた金髪の女性。
「えっ」
「あは、その顔からもっと困った顔になれるんだ」と私は笑った。「あの、彼氏じゃないです」
「ええ……?」店員は嫌そう。綺麗な顔だね。
ごめんなさい、って私は頭を下げた。「でも、こんな都会じゃ、そんな人ばっかりでしょ?」
「そうね」
「このピアス好きだよ。このお店続けてネ」
「まあ、そんなこと言ってくれるなら……。はい、どうぞ」
私は料金を渡し、その女性から、ナミダのピアスを受け取った。大事にしよう。マキナに自慢しよう。
そう思ってふと店の奥を覗くと、『M2からの』という文字が書かれたメモが見えた。
「え?」思わず声が出た。「待って、お姉さん、メルア?」
「はあ?」と、店員はけだるげに言った。
メルア。それは、私達4人が追っている犯罪組織の名前だった。
人類滅亡をたくらむという、4人の人間が所属する闇の組織。偉い順に、M1、M2、って呼ばれているらしい。先月死んだグラティハは、M4だった。
やっぱり気だるげに店員さんは、「サイアク。えっと……あの、しばらく何もしないからついてきても意味ないよ」
女性店員はその場から消失した。
私の体もとっさに動くが、もう彼女がどこに行ったかはわからない。瞬間移動だ。
エクスの顔を見た。びっくりして固まっている。
「え? 今の人、メルア……ってことか?」
「そうみたいだネ」私は店の奥に入ってみた。じゃらじゃらしたきらびやかな宝石や派手な衣装が散乱しているが、隙間隙間に不自然なまでに絨毯が露出している。もともと何か置いてあったみたいな感じ。「彼女、帰ってこないと良いけど。まあ、私と同じ瞬間移動魔法使いなら、相当な魔法力持ちじゃないともう1回使うのは無理なはずだから、しばらくここを調べ放題かも。案外ラッキーかもよ?」
「いや、冷静すぎだろ……」
「ウーン、たぶんセラフィタスの4人、エクス以外まともじゃないんじゃないかな。私も、変な経歴ばっかりだからサ」
冗談で言ったが、エクスは微妙そうな顔になってしまった。
「ま、こんな幸運はゼッタイもうないよ! 一人メルアの正体が分かったうえに、何もしない宣言までもらえたんだよ! ほら、これ見て。っていうかまずあのリボン可愛すぎじゃね」
「ああ。まあ敵の発言を信じるかは微妙だけどね。……それで、この紙、『M2からの命令』と書いてあるね。『イグニクア王の暗殺』とある。なぜこんなのを字に書いて大衆に見えるように晒しておいていたんだ?」
「M4はもういないし、ほぼあの子M3確定だネ。M1だったらマヌケすぎ。あの女、どういう狙いなのかわかんなくて怖すぎ」
「明日マキナに会ったらこの情報をプレゼントできるね」
「えーっ、最低すぎ! マキナかわいそ」
エクスも私も笑った。
彼やマキナ、デウスと出会って、セラフィタスを結成してから半年が経った。マキナとは女の子どうし、いい友達になれた。デウスは気難しそうで、まだ全然仲良くなれてない。でも頭がよくて、意外と気が利いて、思ってるよりは普通の人なんだろうな、とも思う。
そしてエクスとは、会話のリズムや冗談の波長がすごく合うって分かった。何より、カッコイイ男だった。
「いやー、お城でかいねー! アデルとデウスたちにも直接話しにいかなくちゃだネ。M3の女の人と会ったって」
ここは城前広場。四角型の広場の中央に噴水があがっている。エラ大陸と違ってまだ上下水道が整備されてないだろうから、魔法使いが工場で水を生んでいるわけじゃないと思うけど、どうなってるんだろう?
「マキナへのプレゼントを探すどころじゃなくなってきたな」
「そうだね。メルアが見つかったっていうのに何やってるんだって怒られそうなくらい。今日はもう帰ろっか」
「ナミダの家ってどこにあるんだ?」
「ウーン、それは秘密なの。瞬間移動魔法使いにとって、唯一自分だけが知っている場所ってすごく価値があるんだ。エクスのことキライなわけじゃないよ? ゴメンね」
「そうか。そうだよね。無理なことをごめん。じゃあ、ここで今日はお開きかな」
エクスがそう言った瞬間、私たちの目の前にキレイなピアスを着けた女性が現れた。さっきのM3だ。
広場の噴水が、空高くキレイな水を吹き上げた。




