第5話「仕事」N
ナミダは涙した。右肩を貫通した敵の黒い短剣が、刻一刻と自分の命を削っている。
「くそ……」
血は嫌い。自分からいま、どくどくと血が流れていると思うと、気分が悪くなる。痛みそのものや不快感よりも、血液の赤色が、何よりも私の精神を乱していた。
「ナミダ。おまえは……誰の依頼で、私を殺しに来た?」
相手の女は、アマネ・アルルスロと言い、若い女だった。赤や紫の幾何学模様の入った白いインナーに黒い革のジャケットを着て、黒のワイドパンツ、そしてサイドゴアの黒ブーツを履いていた。
「言うわけないでしょ。そういう契約だし」と、私は言葉を絞り出す。心で負けたら負けだ。殺される。この女は、私よりも格上の相手だった。
その奇抜なファッションを差し置いて、アマネという女の何よりも特徴的なところはそのヘアスタイルだ。バイオレットを基調にアクアブルーとシルバーグレーを溶け込ませたユニコーンカラーの、透明感を凝縮したようなフェミニン・ウェーブ・ミディアムロング。毛先に動きがあって、まろやかに、いい髪質で。
「どうせ、マホかマキナか、そのあたりだろうと思うが。まさか、こんな殺し屋風情を私に差し向けるとはな」
丸顔で童顔、紫色の無邪気な瞳を持ち、唇はぷっくりと水分をふくみ、頬は控えめにピンク色に染まっている。おでこを出して、まつ毛がくるっと天を向いている。両耳にダイヤ型のピアスを着けていた。肌は赤子のようだ。
身長は160ちょっとか。服や髪に対して格好つきすぎず、かわいさが同居するのは、そのちょうどよい背丈、そしてもっとも健康的な体型によるところが大きい。
「ずいぶんな報酬だったから、どんな相手かと思ったけど……こんな女とは思わなかったな」
アマネのことは入念に調べあげた。
ちょうど2週間前、アデルというオジサンのところで、セラフィタスという組織に入ったばかり。その後最初に来た仕事が、このアマネという奇抜な女を殺せという依頼だった。依頼主の名前は、マホ・ヴィルテリア。彼女の理想の世界のために、このアマネという女を殺すことは、どうやら必要らしかった。エクスが唯一行った殺しの仕事も、マホからの依頼だったらしい。
この依頼はセラフィタスやメルアとは関係ない。だが、マホからの依頼とあっては、そもそも断る選択肢が存在しなかった。
1週間半をかけてアマネの行動スタイルを観察し、一人になるところを狙って瞬間移動し背後から心臓を狙って剣を差し込んだ。だが、その1週間半のあいだに彼女は私のことに気付いていて、その奇襲も狙いをずらされた。
いま、彼女は腹部を背後から数センチ刺され、私は右肩を短剣で貫かれていた。
「っ……!」
懐に忍ばせた小型ナイフを3本投げ、瞬間移動魔法を行使する。アマネがナイフを避けたそのときには、私は彼女の背後にいた。
ストン、と脚を蹴り彼女を転ばせ、4本目の小型ナイフで胸を刺す。血が流れ出す。ナイフを抜き、もう一度。より人体を傷つけ、血がより多く吹き出すのは、刺すときよりも抜くときだった。
「……ふ。流石だな。ナミダ・ストレイル」
「どうして、私の名前を?」
「さあな。……殺せ」
アマネをみたび突き刺すと、彼女は絶命した。
彼女はきっと、また生まれかわる。この世には、そういう人間がいる。そういう魔法がある。死んだあと、新たに生まれなおすという魔法が。
血は嫌いだ。武器は嫌いだ。
右肩が激しく痛む。
医者に見せることはできない。回復魔法使いというのもいるが、創作の世界でよくある、不思議なチカラで傷が回復するという原理ではなく、身体の中の代謝を操り、傷の再生を驚異的な速度で行えるように促す、というもの。こんな傷にそんな魔法を使ったら、身体がおかしくなってしまう。
……寝転がり、目を閉じる。
こんな生活を、続けてはいられない。早く、この世界を理想の世界に変えないと。
私が、変えないと。
TOPIC……魔法
魔法使いは自分の生体エネルギーを魔法に変換できる。
人によってどのような魔法が使えるかは決まっており、ほとんどの魔法使いは1種類の魔法しか使えない。
種類の同じ魔法でも人によって性質が違う。例えば同じ炎魔法使いでも人によって炎の大きさや熱さが異なる。そのような意味で完全に同じ魔法使いが2人以上いることは極めて稀。




