第4話「セラフィタス」D
「メルア。人類滅亡をもくろむ犯罪組織。貴方がた4人には、メルアを滅ぼす英雄になっていただきます」
アデルはあの時そう言った。だが、彼はメルアという敵のために、我々4人を集めた張本人だった。そのことに気付くのは、まだ先の話だ。
「……は? なぜ、私達に?」
「はい、デウス様」と、アデルは私の名を呼んで、「さきほど申し上げた通り、わたくしは『シーカー』と言って、世界中の優秀な人を探すことが仕事でございます。探す者、だから、シーカーと呼ばれるわけですな。もちろんその、メルアという犯罪組織を撲滅させる能力を持つ者を探しておりました。そして見つけたのが、あなた方4人だったのです」
私は他の3人を見渡した。エクスとマキナは真剣そうな顔をして、そして他の者を値踏みするような目で見ていたが、ナミダは驚きのあまり目を丸くして、独特なポーズをとっていた。全身で感情を表現するタイプの人間だ。
「が。政府が突き止めたのは、どうやら組織名がメルアと言うらしい……ということだけでございます。そして、イグニクア側は、メルア調査に特化した組織を作ることを決めました。これまでは治安維持の延長としか思われておりませんでしたが、メルアの危険性が分かってきましたゆえ」
「待て、地震って人工的に起こせるのか? 人工地震って何?」
「エクス、それ私も気になったよ」とマキナ。「地魔法って魔法もあるけど、いくらなんでもあんな地震は起こせない」
お静かに願います、と制したアデルは「まあとにかく、それで、そのメルアに対抗する組織に、あなた方に加入していただきたいのです」と続けた。
「どうして私?」とナミダは言った。「そんなの、王宮内部とか軍でやってくれればいいのに」
ナミダはセミロングの黒髪にウェーブをかけていて、白いキャミソールにスニーカー。5歳年上らしいが、はっきり言ってそうは見えなかった。27歳とは言うが、童顔であることも相まって成人したばかりに見える。失礼だろうか。
マキナが言う。「第一、部外者の私たちにそんな話をしてよかったのかな」
「それを話す権利がわたくしにはございます。そして、わたくしは世界じゅうからあなた方4人を選びました。まず、エクス様、貴方はイグニクア最強の水魔法使いとして、晴れがましい人生を歩んでおられます。85震災の時も、無から水を生み出す水魔法使いの中で最も優れた者としてイグニクアじゅうで引っ張りだこでした。そして、子供心をずっと忘れずに、いろんな場所への冒険に憧れを持っています」
「言い方がちょっと嫌だけど、まあ否定はしないよ」
「それは、わたくしが求める理想像と合致いたします」
「じゃあ、私は?」とマキナが素朴な顔で聞く。
「マキナ様。それは、ご自分で、お分かりでは?」
「……」
「なに、隠し事? だとしたら、そんな人たちとそんな大層な仕事、私にはできないよ」
このナミダの発言はハッタリというかカマかけというか、マキナが多くの秘密を抱えていることは容易に想像できること。アデルの反応を見たかったのだろう。
「ナミダ様、それもごもっともでございます。ですので、協力を断られることも構いません。それに、あなた方4人それぞれが個別に活動することなども可能です。やり方は指定いたしません」
アデルの話の進め方は強引だった。後から思えば、この男はメルアだったのだから、この話は様々な意味で予定調和だったのだろうと思う。
「うーん。じゃあ、私がアデル、あなたに呼ばれた理由はなあに?」
「ナミダ様。貴女様の過去の経験と魔法を見てのことですが……ええ、これは、あまり申し上げないほうがよろしいのでは?」
「うーん。そんな言い方しないでも……」
アデルとナミダの言っていることについては、殺し屋だという自己紹介からある程度推察はできた。
「さて。わたくしの言っていることが納得していただけたでしょうか」
「いや、できないだろう」とエクスが鋭く言った。「それが本当なら、そんなのには関わりたくない。大事な友人もいるし、今の仕事もある。なんでそんな危険なことを自分からしなきゃいけないんだと、正直思ってしまう。死にたくないよ」
「報酬は出しましょう。国家予算から直接、十分な金額をでございます」
エクスはしばらく黙り込んだ。場全体に沈黙が降りる。
「分かった。やろう」と私は真っ先に言った。「相応の資金と最低限の情報を受け取れるのなら」
妹がそれで食えるようになるなら、最優先してもよいと思った。それに、アデルの話した内容は、死んだ妻が言っていた話とすべてが合致していた。アデルが私のそういう事情を知っている上で話をしたのではないかと思えるほどに。
「ええ……?」とナミダは納得できない様子だ。「デウス、なんでそんなすぐ決められるの……?」
私の返事を遮るようにエクスが言う。「うーん……えっと。ナミダ、きみは殺し屋なんだよね? 失礼だけど、なんでそんなことをしているの?」
「え? そりゃ、エクス。一番稼げるからだよ」
「何のためにそんなに稼いでいるの?」
「お金が欲しくない人っていないでしょ」
「そんなに人を殺してるなら、メルアとかいうやつらと接触したりしないの?」
「なに、エクス? 疑ってる? まあ、仕方ないか」
「いや、すまない。失礼だったね。知りたいんだ、きみのその生き方を。さっきから話してる感じだと、ナミダは、すごく仲良くできそうな普通の女性なんだけど、殺し屋っていうのが飲み込めないんだ」
「……そう」
ナミダとエクスはここにいる他の者に比べてまともな感性を持っているように見えた。この時点ではエクスは、自身も殺しの仕事をやっていたことがあることを隠していた。
そう考えているうちにマキナが「分かったよ、私もやろう」と言って手を挙げた。「まあこの話全部を信じたわけじゃないけど、嘘つかれてたら、アデルくらいなら、どうにでもなるしさ」
「怖いよ、マキナが言うと」
「うるっさいなー。メルアに対して、私たち4人のチームに名前とかつけないの?」
「ええ、決めております。セラフィタス。……どうでしょうか」
セラフィタス。ずいぶん格好つけたものだな。
不満げにマキナが言った。「えーっ。それって、アデルの苗字のセラフィスからつけたの?」
「その通りです」
「うーん、セラフィタスか……まあこだわらずに行こうかな」
そこでマキナが何故かセラフィタスという名前を受け入れたことで、反対できる流れではなくなった。私は反対だった。そのようなものは気恥ずかしい。『闇の犯罪組織メルアを追う正義の味方セラフィタス』。これでは、なんとも……。
ナミダが言う。「いや、マキナ。なんかこの人信用できないよ。なんで同意してるの?」
「うーん、いろいろ思うとこあるんだ。あとで話すよ」
「ナミダ様」アデルはナミダのほうをしっかり向いて、ふだんよりも丁寧に話し出した。「メルアのすべてを暴きその息の根を止めていただけましたら、5000万インを報酬としてお出しいたいます。もちろん、手付金も」
「なるほど……ネ、それが私への最大の餌ってわけネ。5000万……」
「これはイグニクア王の発言だと考えていただいて構いません。必ずお渡しすると保証いたします」
「4人とも聞いてたね? ちゃんと書面にもしてよネ。私もやるよ」
同意したナミダに対して、乗り気ではなさそうなエクスが気まずそう。
「ありがとうございます、ナミダ様。嬉しゅうございます」
「いや、お金くれる人だいすき。アデルのこと好きになったよ。ありがとう、お金楽しみにしてるよ」
「成功報酬と申しましたでしょう。それはナミダ様の働き次第でございます」
「ええっ!」
マキナが笑った。
「手付金は、いくらですか!」
「100万としましょう」
「しょぼ!」
そのやりとりの間ずっと困惑した顔をしているエクス。「なんかみんなおかしくないか? 話が早すぎるというか……」
「私もそう思うよ。デウスにもマキナにも、あとで話を聞きたい。私はただお金が欲しいだけ」
「まあ……みんなと出会えた縁は大事にしたいな。いやあ。なんだか変な気分だ」
そう言うエクスはずいぶんお人よしのオーラを放っていた。マキナが「それが普通だと思うよ」とフォローするが、今となっては、それもどうだろう。
「いや、さっきからこの気持ちに共感してくれるのが何とも怖いよ。その、変な人達なのは伝わってくるんだけどさ、それで共感されると、うわっ、と思っちゃうよね」
「失礼な話だね」
変な空気になったことも構わず、アデルが言った。
「では、エクス様、セラフィタスに加入いただけるということでしょうか」
「なんでそうなるの?」
「そういう話ですから」
「そういう話じゃなかっただろう」エクスはため息をついた。「もういいよ、分かった。やろう」
そうして、私たちはセラフィタスになった。使命に対して、たった数分の、冗談のような話だった。まさかこんなたった数分の話し合いが、700年を超える遥かなる使命の始まりだとは、この時の私は、つゆも知らない。
TOPIC……エピソードの視点
各話ごとに最初に示されるアルファベット1文字は、そのエピソードを語る視点を持った人間の頭文字。ナミダはN、デウスはD。




