第3話「理想の世界とは……」N
ストレイル理想世界。
私の名前はナミダ・ストレイル。
ナミダは涙した。
年号の下二けたを取って85震災と呼ばれたそれは、7年前に起きた大きな地震だった。
それは2つの大陸とその海洋の、8つの地点を震源として同時刻に起きた。イグニクア大陸の中央、南、北の3地点、エラ大陸の中央、西、東の3地点と、海底2地点。
耐震性が一切考えられていなかったあの時の建物は次々に倒壊し、津波も押し寄せ、世界中でひどい被害が出た。治安の悪化や水道の寸断、感染症などの二次的な被害も問題になった。
7年が経った今もまだ、2大陸は復興の最中だ。
そして、私のように知識層でないような人間であっても、全員が同じ疑問をもった。
『8つの地点で同時に超大規模な地震なんて、起こりえるのか?』
しかし、人工的に地震を起こすことは、技術的にも、また、どんな魔法を使っても無理だと考えられた。しかし、8点で大地震が起こることも、それと同じくらい考えられないことだった。そして地震は実際に起きたのだ。
85震災では、私の両親を含め、世界人口の4割以上が死滅した。ひどい災害だった。
目の前で瓦礫に飲まれていった両親を見ながら、私は、ナミダを流して慟哭した。
私にとっての理想の世界とは、たくさんの人が死ぬ必要なんてなくて、愛する人と過ごすことができる、そんな平凡で、穏やかな世界だった。
私とデウス、エクス、マキナの4人がイグニクア城に集められたのは、その7年後の、西暦22222221492年、2月22日のことだった。
27歳だった私はイグニクア王から話があるとそれはもうびっくりして、緊張しながらイグニクア城へ向かった。
そこには、私の他に4人の魔法使いがいた。
真っ先に、中性的な声と容姿の男が口を開いた。年はいっているのだろうが、若く見えた。
「どうも、わたくしめはアデル・ダ・セラフィスと申します。イグニクア王に仕える者でございます。王の名前を借りて、あなた方を招待いたしました」
アデル。この男は知り合いだ。一度、殺しかけたことがある。
「なぜ、私達を集めた?」デウスが言った。あの時のデウスは、背が高く、顔が怖く、真っ黒なコートを着ていた。
「まずは自己紹介をしましょう。わたくしはアデル。フォトス県の出身でございます。ここでお仕えをしていて、王宮の中で『シーカー』という職に就いております。あなたたちのような優秀な方々を世界中から探す仕事でございます」
マキナが前に出ておじぎをした。「私の名前はマキナ・シュプレンネ。エラ出身です。正直、私の自己紹介は必要ないんじゃないかなっていうのもうぬぼれじゃないと思うんだけど……そうだね、ちょっと昔は付き合いでガイヴ教の役員をやってたけど、今は正教会の司祭。アデルとは正教会の支援金の話をするときに知り合った。よろしく」
そのときのマキナは黒髪ボブで白シャツに黒パンツ、高級そうなベルトや、金色のネックレスがキラキラしていた。身長は私とほぼ同じで平均くらい。でもなんだか私と違って、お人形ふうの顔立ちだな、と思った。
「僕はエクス・ム・ミレー。27歳だ」とエクスが言った。なんてカッコイイ人! と思った途端、気付いたら「同い年ですね!」と口をついていた。
「そうなの? じゃあ、ぜひ、たくさんお話しようね。あとは……そうだな、水魔法使いでは最も強いってことになってて、それで稼いでいます」
「私はナミダ・ストレイル。エラ出身、27歳だよ。……びっくりしないでほしいんだけど、殺し屋をやってるんだ」
「えっ!」とエクスは声を挙げたけど、マキナは「いや、殺し屋が一番稼げるこの時代が悪いよ」って言ってくれた。そう言ってくれる人に初めて出会った。
「まあ僕も人は殺したことがある。たぶんここにいる人は全員経験があるはずだ」
あの時まだ私は若くて、エクスがこの感じでそういう経験を持っているのは、すごくカッコイイと思ってしまった。
そして残った黒服の男の人が、「……私はデウス。22歳だ」と言う。いや、5個も年下なの?
「はい。自己紹介が済んだようですね」アデルが嬉しそうに話し始めた。気味悪いな。「さて皆さま。本題の話に参りましょう。ここ最近、地震や異常気象、争いごとと言った良からぬウワサが多いとは思いませんか」
「急に何の話? 確かにそうだけど」
「先週の大地震や2か月前のイグニクア政府内部の政変……さらに、7年前の85震災には、裏で糸を引いていた黒幕がおりました」
「……」デウスの顔つきが変わるのを、たまたま私は気付いた。あのときのたまたまは、本当にたまたま。
85震災。忘れもしない、私の両親を奪った災害だった。私は言った。「……あの時のこと、もちろん覚えてるよ。ひどい地震だったよね」
「混乱に乗じて、多様な犯罪が各地で起こった」と呟くデウスは、その震災に何か嫌な思い出があるみたいに見えた。いや、皆あるのだけれど。「多くの人が亡くなった、ひどい災厄だった」
「85震災は、もちろん人工地震ではございませんが、しかし、その元凶となったのは人間です。どうやら組織ぐるみの犯行のようで、今はまだ、イグニクアとエラの両国から調査している、という段階です。そして……最近、その組織の名前が判明いたしました」
アデルは一呼吸おいて、芝居みたいにコワイ顔をしてこう続けた。
「メルア。人類滅亡をもくろむ犯罪組織。そして、あなた方4人。デウス様、エクス様、マキナ様、ナミダ様。あなた方4人には、メルアを滅ぼす英雄になっていただきます」
びっくりした。メルアという悪い人がいて、私たち4人が、そいつらをぶっ倒す。
……それが、すべての始まりだった。そして、私たちは、このアデルという人間がメルアの一員であることには気付かなかったのだ。
TOPIC……アデル
名前:アデル・ダ・セラフィス
性別:男性
年齢:53歳
誕生日:22222221439年1月2日
職業:シーカー、イグニクア王国官僚
出身:イグニクア中央区フォトス県
魔法:空気
一言:わたくしの話し方は、父親譲りでございます。




