第2話「落ちる!」N
ナミダは涙した。だって、私は今、大空の上から地球に引っ張られて落ちていく途中だった。
2つの大陸が見渡せる。これが私の最期の記憶になるかもしれない。ちゃんとこの景色を目に焼き付けた。
あまりの光景と落下の速さに、おなかの底から声があふれ出る。
楽しい。こんなのは、自分にしか経験できない最高にスリリングな自由落下だ。
風を生み、激しい音が流れこみ、とんでもない速度で私は地面に吸い寄せられていく。
どれくらい? ここから地上まで、3000メートル以上だろうか。
長い落下。いや、実際はまだ数十秒かな。
まだ地上は遠い。
ふと、慣れ親しんだ2つの大陸の外にも世界が広がっていないか、意識を向けてみる。私が見える範囲には、無人らしき島々こそあれど、やはり私たちの世界の外に人がいるとは思えなかった。
私の体は落ちる。もう長い間落ちている。加速度的に、恐怖が増えていく。
最初は楽しかったけど、どうにも怖い。このまま地面に衝突したら……。
大空から長い時間をかけて降ってきた雨が、地面にぶつかってぽちゃんと弾けるみたいに。私もきっと、無事ではいられないだろう。
突然。私の体はふわりと空気の層に包まれ、ゆっくりと速度を落としていった。ああ、安心!
ここは……上空1000メートルかそのあたりかなあ。
この真下はイグニクア南区、リスト県の野ばらだ。大地は十分視認できるが、まだマキナの姿までは見えやしない。
ゆっくりと落ちていく。ゆるやかな上空旅行。とても気分が良かった。
天使みたいに、空から私は舞い降りる。
やがて地表が近づいてきた。きもちよい自然の空気。
200メートル地点くらいまで降りてきただろうか。マキナの姿が見える。今も、空気魔法を使って、私の落下速度を調整してくれているはずだ。彼女の魔法、空気の層による私の誘導は丁寧なもので、優しい空気に包まれながら、穏やかに地面に降りていく。
ああ、この時間終わっちゃうんだ……。もう野ばらが目の前。背の高い草花が私を迎えてくれている。
地面を間近にして、私の落下は完全に止まった。
「よいしょ……久しぶりの大地だ!」
「お疲れ、ナミダ」
「いやぁ、マキナのおかげだよ! ありがとう、無理してくれて」
私、空を飛んできた! そう思ったらもう気分がいい。激しくマキナの手を取ってはねると、「いやいやもうこれでナミダが最強になっちゃったからね、変な話だよね」とマキナは笑って付き合ってくれた。
私の魔法は瞬間移動。
魔法力は大したものじゃないから、この強い魔法は今のところだいたい20時間に1度くらいが体力的に使用限界。それ以上使ったらぶっ倒れちゃう。戦闘中とかの場合で無理をすれば連続で使えなくも無いけど、その次の日とかは身体が駄目になっちゃったりする。グラティハが死んだあの日の次の日も、私は熱を出した。
瞬間移動。自分が実際に目で見たことのある範囲まで、一瞬で移動できる。ということは……これで、大陸のすべてを見渡した。2つの大陸の屋外すべてに瞬間移動ができるようになった。これはもう人生ズルみたいなものだ。これからの一生で、移動はぐっとぐっと楽になる。
現代で最も強い空気魔法使いであるマキナの魔法で上空に飛ばしてもらって、安全に下ろしてもらって、これで私はもうどこにだって一瞬でワープできるようになったのだ。
ちなみに、私の肉体と一緒に移動できるものは2つだ。
『身に着けているもの』。私はこれを、私の肉体がそこに存在しない場合そのまま重力に引っ張られて落ちるものすべてと定義している。
それと、『手を繋いだ人間』。もちろん手は2つだから、最大一緒に2人と、その2人の『身に着けているもの』がワープするわけ。
「あー楽しかった」
「肝すわってるね、楽しかったなんて。私だったら怖いよ、流石に」
「いや怖かったけど、もうあそこまで行けば吹っ切れるよ。マキナもやってみたら?」
「いやいや、遠慮しとくよ」
「いやー楽しかった! ありがと、マキナ。また飛びたくなったら、お願いするかも!」
「やらないよ! すごく疲れるの! まあ、よかったね。とりあえず今日は私休むね。どっと疲れた」
「うん、ほんとにありがと」
魔法力を一気に多量使うと、身体に支障が出るものだ。マキナには感謝している。今でも。
「じゃあ。ばいばい」
マキナに手を振った瞬間、地震が起きた。すぐに止まった。
地震。私は、地震が怖い。
私の両親は、地震で死んだ。あの地震は、8つの場所で同時に起きた。




