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『理想戦争』 ~ビヨンド・ヴィルテリア~  作者: 中上スパ
第2章「それぞれのセラフィタス」
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第19話「あなたはだれ?①」A

 お兄様とシリカと共に馬車に揺られること数時間。すっかり深夜になって、私達は、エラ中央都市に到着した。

 こんなに深夜だというのに、流石は世界一の大都会。まばらではあるけれど人がいて、炎魔法式の街灯が辺りを照らしていた。イグニクア中央と違って緑にあふれているというよりも、人間の手で整備された『街』という感じで、ビルみたいに高い建物や、飲食店などが多かった。

「お兄様、だいじょうぶですか、よく吐かずにここまで来れましたね、偉いですわ、ほんとうに」

「当然だ。僕をだれだと思っている。うわ、久々の地面の感触だ、うわわわ」

「お兄様、大丈夫ですわ、息を吸って、吐いて、してください」

「ああ、スー、ハー……」

 私とお兄様のことを、シリカは何とも言えない表情で見守っていた。ちょっと笑っているように見えた。お母さんみたいですわ。もう、既に。

「じゃあ、私のおうち、リリアント邸に、案内するね。ついてきてね」

 私とお兄様は、リリアント邸で泊めてもらえることになった。なんと、四貴族さまのおうちに泊まるだなんて。びっくりですわ。身が引き締まる思いでした。

「身が引き締まる思いだ」と、同じことをお兄様は言った。「まさか、そんなところに泊まる日が来るとは」

「気にしないで、ぜんぜん。ともだちの家だと思って良いからね。家族は、たぶんもう寝てると思うから」

 中央都市はよく整備された街で、遠くにはエラ城と高くそびえたつ魔法局が見えた。

「あの魔法局が、シリカさんの職場なのですよね」

「そうよ。私と、グレイ……うん、グレイお父様が働いている場所。局長のマホが、この世のすべてを決めている場所。50階まであるから、ここからでも見えるね」

「僕たちはな、冒険家ではあるが、イグニクア大陸が専門なのだ。このあたり……エラ中央都市のことは、ほとんど分からない。もともと草原地帯だったのだろうが、人の開発というのはすごいものだな。住宅地も、あの団地なんかすごいぞ、イグニクアではまず見ないな」

「そうだね。やっぱりマホ局長の本拠地であるぶん、このあたりは、技術が集まっている感じがあると思う。開発は、そうだね、進んでるね」

 馬車を降りて数分歩くと、大都会の喧騒から少し距離を感じる、大きな丘があった。そのてっぺんに、4つの立派な家が建っている。1つ1つが、家というよりも『お屋敷』と呼ぶにふさわしい、みごとな建物だった。

「あの、左から2ばんめの家だよ。ちょっと坂を登るけど、がんばろう」

「任せてくれ。険しい山をアルファンと2人で登ったりするのだよ」

「なるほどね。頼りになるね」

 お兄様の言った通り、それは私達にとってはキツイ坂ではなかった。

「というか、なんだか、これでは俗世から隔離された感じがしてしまいますね。それに、毎日これをのぼりおりするのはたいへんそうです」

「そうなのよ。なんだか、丘の上に住んでて、いかにも上の立場ですって感じが、ちょっと嫌なのだけれど……」

 3階建てのお屋敷。黒い外観に、紫を基調に装飾されていて、お化け屋敷みたいだと感じました。左隣の(レテアさんの属する)プロアミル家は赤、右隣のセンタネイル家というところは黄の、似たようなデザインになっている。

「さあ、どうぞ。子供たちが寝ていると思うから、静かにしてね」

 そこは、私達のような貧民の生活からは想像のできない家だった。上品なにおいがする。そこに住めてしまうくらい広い玄関から廊下に向けて、ふわふわした滑らかな絨毯が敷かれていて、天井から吊るされた照明には聖堂の暖かさに似たような明かりが灯されている。

 私とお兄様はドキドキしながらも、はしたなく騒いだりはしなかった。やがて空き部屋(空いている部屋なんていうのがあるのもすごいですが)に通され、そこにはちょうどベッドが2つありました。

「明日、朝、起きたら、家族にも挨拶してほしい。家族の中でも年が上の方の、メリオンとエリカには、『セラフィタス』のことを詳しく説明してみようと思うの。その場に、ヴィクターとアルファンも一緒にいてくれると嬉しい」

「分かった。今日は、シリカ、よく休むといい。長時間の移動で、疲れただろうから」

 シリカは優しく頷いて、おやすみ、と言って部屋を出て行った。

 やっぱり上品な香りがして、壁には絵が飾ってあって、高そうな調度品や小物が置いてあって、絵にかいたような貴族の家という感じがした。状況が違えば、お兄様は嬉しそうに部屋を見て回って飛び跳ねていたでしょう。そしてもちろん、お兄様と一緒に私もだ。

 時刻は深夜2時すぎ。このお屋敷では今、シリカの妹たちと弟が眠っているらしい。そして、肝心の『グレイお父様』は魔法局で、『ウィルお父様』はエラ城でそれぞれ残業をしているらしい。近いうちに会えたらいいのですけれど……。

「お兄様。……なんだか、すごいことが、始まってしまいましたわね。こんなにあっさり、四貴族様の家に泊まって……」

「ほんとうだな」と言ってお兄様は横になった。「アルファン。だいじょうぶか」

「はい。私は、元気元気ですわ。お兄様は、元気ですか」

「ああ。僕も、元気元気だよ。元気じゃないのは、シリカだろう。彼女はいま、混乱している。しんぱいだ」

「そうですわよね……」

 いろんなことがあった。もっとお兄様とお話することがあったはずなのに、私は、あっという間に眠りに落ちた。私とお兄様は、寝るのが早い。

 

 夢を見ました。そこは、何もない世界でした。

「アルファン」

 だれかが、私の名前を呼びました。私は、返事をして、だれ、と言ったつもりでしたが、声が出てきません。声が、音が、喉を通らない。喉? ここには喉はない。この世界には、何もない。あるのは思考と感覚だけでした。何かを考えることはできる。この場所が、少し生暖かい場所で、なんとなく緑色をしている、という感覚。

「アルファン」

 だれですか。あなたは、だれ。これは重要な問い。

「―――の名前は―――」

 え? 聞こえませんわ。もっと、こっちにきて。

「アルファ――。……名前は――。――ナミダ――、メルア―――」

 ナミダ? いま、ナミダと言いましたか? あの、怖い女の人ですか。

 その『声』は、私に一生懸命語りかけていた。声そのものよりも、私に思いを伝えたいというその願いのほうが、直接私の心に伝わってくる。

「アルファン。――僕は……直接、きみの脳内に入り込んでいる。まさか、―――は、思わなか――だが。――きみの身体を借りて、―――――、ナミダのことを―――」

 大事なところが聞こえませんわ! あなた、名前を教えてくださる?

「僕の――は―――・ム――――……。―――……」

 ム? 中間名は、『ム』ですのね? 山を越えて、川を渡って、少しずつ私達の距離は近くなってゆく。少しずつ、声が強くなってきて……。

 手を、想いを手繰り寄せる。ぎゅっと掴んで、離さないように。私と彼の手が結ばれたその瞬間、『声』は、はっきりと私のところに届いた。

「僕の名前は、エクスだ。きみの身体の中にいる、もうひとつの魂」

 そこで、夢は終わった。


 朝。目が覚めると、頭がすっきりしている。身体が軽い。

 何か、夢を見た気がする。

「お兄様。起きてください。朝ですわ。シリカさんのところに、行きましょう」

「ふああ……なに! なんてことだ! アルファンに、先に起きられてしまった。なんてことだ! ササラ家早起き選手権、今年の無敗記録が破れたというのか! なんということだ!」

 そのあともお兄様は、なんということだ、と何度も繰り返した。お兄様ったら、かわいい。

「残念ですわね! やっと、お兄様に勝てましたわ!」

 どんな夢を見たか、忘れてしまった。誰か、夢の中で誰かに会った。何か強烈な夢を見たこと、その感覚だけは覚えている。でも、忘れてもいいと思った。たぶん、また思い出すだろうから。夢を見れば、会えると思うから。夢で会った誰かに。

「おはよう、アルファン」

「おはようございます、お兄様」

「シリカがしんぱいだ。行こう」

 そうして私達はお部屋を出ました。

 これが、『私』のことを夢に見た、最初の日でした。

【TOPIC……アルファン】

名前:アルファン・デ・ササラ

年齢:17歳

誕生日:22222222204年12月2日

職業:冒険家(お兄様の助手)

出身:イグニクア北マユ県

魔法:なし

大事なもの:お兄様ですわ! 何があってもお兄様についていきますわ。

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