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『理想戦争』 ~ビヨンド・ヴィルテリア~  作者: 中上スパ
第1章「ソテルはじまる」
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第10話「理想戦争①/人類へ」T/N

「クソ、まずいぞ」

 エレアナの顔から余裕が消える。それに応じてナミダが邪悪な笑みを浮かべ、どこかからか現れた暗紫色(あんししょく)の剣を携えてヴィクターの前に現れる。

「うわっ……あ」

 腰を抜かすヴィクター。私にはもう、どうにもできない。

 苦しそうな顔でエレアナが魔法を発動する。振り下ろされる剣がヴィクターの頭の目の前で静止する。

「動かねー、すごいネ、エレアナちゃん」

「ナミダっ!」

 緑色に瞳を輝かせるアルファンが決死の特攻をかけるが、『M5ノヴァ』がその前を阻む。M5ノヴァ? 彼が……私たちの敵? そう、M5ノヴァは一直線に敵へ向かうアルファンに対して、滑らかな体術でアルファンの腹部に打撃を加える。そうだ、ノヴァは強いのよ。だって、兵士なんだもん。

「きゃあ!」

「アルファン!」

「あーだめ、動かないで。もう殺しちゃおかな」

「なんだ……なんなんだお前たち……。やめろ。アルファンに、手を出すな!」

 場は恐怖に支配されていた。そこで、やっと感情が噴出してくる。ありえない。

「ノヴァっ! ……どういうこと!?」

「シリカ。すまないな。俺は、『こちら側』の人間だ。これは理(・)想(・)戦(・)争(・)。どちらの陣営につくかは、俺が選ぶことだから」

「なに……言ってるの!? ノヴァ……ノヴァ!」

 ノヴァはそれ以上、私に答えなかった。

 レテアから悲鳴が上がる。ソテルの身体から流れた血液が、水たまりのようになって、王の間の床のレンガに染みを作りだす。

「ソテル! もうやめて……もうやめてよ!」

 悲痛な叫び声。私もそう叫びたかった。

「うるさいなーレテアちゃん。今、いいところジャン」

「ノヴァ……なんで」

 私に答えないノヴァを見つめながら、涙が溢れ出す。

 ノヴァは、私のほうに目を向けこそしたものの、そのマフラーの下に隠された口を開くことはなかった。いったいどんな表情をしているのか、あの目からは、全く読み取れない。恐ろしい。ノヴァの表情が、こわく見えることがあるだなんて。

 でも……その目が、とても悲しくて。家族を失ったような痛みが私の胸をぐさりと貫いた。

「ノヴァ……」

 私の感情が暴れ出す。

 ノヴァ。ノヴァ。なんで。なんでこんなことに。

「ノヴァっ! なんでっ! ……うわぁあああああ!」

 黒い景色が私の中に流れ込む。グレイお父様が地魔法で岩石を呼び寄せる。ウィルお父様が空気魔法で空を飛ぶ。その下には、ソテルの姿があった。ナミダの剣先から血が流れ出し、そこにはノヴァもいて……。

 ……これは予知だ。暴走した感情が、私の魔法の暴発を引き起こした。

 頭でそれが分かってからも、その予知の景色は私の脳内を埋め尽くした。さっきとは違う景色。地下道に荒れ狂う波が押し寄せて、見たことのない女性が私達を救う夢。ノヴァとウィルお父様が私に何か言って、私のともだちが涙する夢。どこか立派な建物が燃えて、エレアナが叫ぶ夢。そして、岬の上、背後から忍びよる敵……。

「シリカ」

 ノヴァの声が聞こえる。これは、予知のもの? それとも、現実?

 不意に現実に意識が戻る。

 今の予知は……?

 いや……その前に、このままだとみんな殺されてしまう。

 いや違う。違う。ちがう。もうどうでもいいよ……。ノヴァ、あなたは……。

「ノヴァ……」

「……」

 ノヴァはやはり何も言わない。

 状況が膠着しかけたそんなとき、勇敢に足を一歩踏み出したのは、エレアナ・スパルフォンというあの大人の人だった。「ナミダ。まだ私たちに攻撃を続けるというなら、私は死を覚悟して魔法力を解放しよう。答えろ。私と戦え」

「エレアナちゃん! ほんとに!? 最高だ! ずっとその日を待ってたんだ! 私、つまんなかったんだよネ、これまでサ」

 念願叶ったりと激しく喜ぶナミダ。

 だが、その時ノヴァがナミダに何か手で合図を送った。私だけはそれに気付いた。ノヴァだけを見ていたから。

「……でもね。もうやめる。私たち帰るよ。M2から戦闘停止の命令があったからサー。分かる? 上司命令。ま、また今度ネ」

 M4ナミダがM5ノヴァの手を取ると、2人は王の間から姿を消した。瞬間移動だ。

 レテアはがくりと膝を落とし、ヴィクターとアルファンが言葉なく力の抜けた様子で互いに自然に体を寄せ合っている。

 戦いはアッサリ終わった。いや……こんなのは、戦いじゃない。ノヴァの言葉の『理想戦争』というのも、違う。

 これは一方的な奇襲で、めちゃくちゃな暴力で、ひどい結末だ。私は、血を見るだけでも身体がきゅうっとなるタイプだ。でも、奥でソテルと言う男の子が血を流して倒れているのが、私にはただの背景にしか見えなかった。

 ひどすぎる。これから、こんなことが始まるっていうの?

「フィリア」

 と最初に口を開いたのは、もちろんエレアナだった。

「魔法通信を借りるぞ。回復魔法使いを寄越させる。おまえの傷に関しては……そんな傷じゃ死なないだろうから、とりあえず、それで良いだろう。そしてレテア。ソテルの脚から血が出ているが、ソテルの気絶はその前の強い頭部を含む打撃によるものが大きいだろう。刺し傷は出血量が多くて恐ろしくなるのも分かるが、命に別状はない。その感じだと、後遺症も残らないだろう。ナミダは、そういうところがあるやつなんだ。今から取り寄せる回復魔法使いと……あとはお前の世話次第でいくらでも快方に向かおう。ああ皆すまない、本当にすまない、私がいながらこんなにも被害を出してしまった」

 この場で最後まで冷静でいられたのは、エレアナだけだった。この人は、何者なの? それで、結局なんだったの? 私達には、説明が必要だ。それと、休息も。

「知っていたのにナミダの話を先にできなかったこと、都合があったとはいえ全員を守り切れなかったこと、ノヴァのことを見抜けなかったこと、ああ、なんて私はだめなんだ。これだから集団の活動は嫌なんだ。ああ、ああ、そしてシリカ。しばらく休め。寝ろ。これから王と少し話をしなければならないだろうが、その後はまず寝ろ。寝ておけ。そうしたら家族のところに戻るといい。子供達は全員、少し休むと言い。私と、フィリアに任せるんだ」

 私に言ってくれている。悪い何かにわしづかみにされた心を、頑張って頑張って彼女の言葉に向けた。

「セラフィタスがどうのと言う前にお前のところには家族がたくさんいるし、魔法局での勤めもどうするのかという問題があるだろう。まず家族とゆっくり話して、じっくり休んでからまた私が様子を見に行くよ。大丈夫だ、その時には私の魔法力も蓄えられているはずだ。今回は、私の体調が万全じゃなかった。今日、こうやって奇襲することを予定していて、私の魔法を恐れていたのだろう。私は昨日、ナミダに襲われて、魔法力を消費させられた。……いや、説明の順序が違うか。ああ、どうにも、こういうのは苦手だ。……ヴィクター、王を呼んでおいてくれ」

 まくしたてる彼女に、私は何も言えなかったし、何かを言い返す人はいなかった。

「分かった。僕は王を呼びに行こう。きっとあの扉の向こうだ」

「お兄様。ついていきますわ」

 動けない。息ができない。ノヴァが、私を裏切った。私に、そして子供にも剣を向けた。

 エレアナは王の間を出ていった。何もかも嵐のように過ぎ去った。

 ノヴァのことを考えてしまう。考えたくない。

 レテアは、じっとソテルを抱いている。

 ノヴァ。

 私は、あなたを……。


 エクス。見ていた?

 私はメルア基地に戻ってソファに座った。どしーん。

「突然戦うのやめろって言われても困るんだけど」

「M4。あれで十分だった」

 M1が黒い椅子の上で静かに言う。

「今の襲撃からプロジェクト実行まで、すべてが順調だ。だが、慢心はならない。これからセラフィタス側も力を蓄え、今回のような一方的な戦いは出来なくなるだろう」

「今回は……ソテルとフィリアが負傷……」

 M5ノヴァがぼそぼそと報告する。顔も向けずにM1は、反応せずに本を読んでいた。M1が何も言わないというのは今現在私たちに通達すべき問題が存在しないということ。

 今日明日くらいはゆっくり過ごしたいもの。この調子でいければよいのだが。

 M1と一緒の部屋というのは気まずくなる。M5ノヴァのぼそぼそとした報告が終わると、彼とともに部屋を出る。

「ねえM5」

「……」

「今回のセラフィタス、どう思った?」

「ナミダ……」

「あのさ普通に名前で呼ぶのよくないよ? なんのためのコードネーム? ハイ、ナミダちゃんデス、じゃないの。M4って言って」

「……それは、命令か?」

「そう。エライほうのメルアが決めたことでしょ? それって命令っていう意味。わかんない? あんた有能だけどそういうとこある」

「そうか……」

 そのままM5ノヴァは私の質問にも答えずふらふらと自室へ戻っていった。なんなの? そうか、って、なんですか?

 ……メルア。それは、私が700年前から属する組織だ。今はM4ナミダとして活動を続けている。

 今回のセラフィタスのメンバーを把握した。

 まず、ソテル。説明不要に最重要人物だろう。そしてレテア。議論不要に最大の問題児。

 ヴィクターとアルファン。あいつらは知らない。何があるかわからない。見た感じ2人とも魔法は持っていないようだが、アルファンのほうに魔法力を感じた。ガイヴと接触したら魔法を得てしまうかもしれない。しかも、あの子はまだ17歳で、修羅場をくぐってきたわけでも無いだろうに、私にかなり特攻してきた。普通、怖いでしょ。だがきっと問題はそこではない。あの2人がセラフィタスになった理由が必ずあるはず。フィリアだけが知っている何か。

 次にシリカ。レテアと同じくエラ四貴族からの参加で、魔法局員でもあるので普通に厄介だ。だが、既に対策済み。ジェイルのほうもマークしていたが7年前に失踪している。ノヴァはセラフィタスとして潜入期を引き延ばしてからでもよかったのだが、今回のメルアには余裕があり、M1は好きにして構わないと言っていた。

 最後に、大好きなエレアナちゃん。M3が起こしたあの事件の時からメルアに探りを入れてきている、私の最大の理解者で好敵手。ああ、早くあなたを殺してあげたい。

 自分の部屋のベッドに横になる。もうこれから襲撃してしまおうか。エレアナちゃんをちょっと休憩させてあげたいから、1時間くらい待っておこうかな。……いや、メンドいな。また明日にしよう。

 M1、M2、M3の3人からは、しばらく私が独自に行動していいと言われている。『彼女』の確認も取れている。今だけは私の番。でも最後の2週間ちょっとなのだから、あと数日はゆったりと過ごそうと考えている。M5以下の4人に働かせたい。現在メルアはM1からM8まで8人もいるのだから、人員を有効活用するべきだ。

 自分の部屋を眺める。相も変わらず物騒な部屋だ。

 ……また、セラフィタスとの戦いが始まった。

 700年やってきているわけだが、今回は違う。

 もう最後だ。

 今回は圧倒的にメルア側が有利。逃げ切ってしまいさえすればついにこの地球が滅亡し、『楽園』が実現する。

 自然と笑みが漏れる。

 ……私とエクスのためにさ。

 早く死ねよ、人類。

TOPIC……現時点で判明しているメルアの情報まとめ


M1:??

M2:??

M3:??

M4:ナミダ・ム・ミレー

  約700年前から生きている長生き族のひとり。

  初代セラフィタスでもある。

  瞬間移動魔法使い。

M5:ノヴァ・カラミティア

  元イグニクア官僚で、現エラ軍兵士。

  常にマフラーを身に着けており、体術に長ける。

  魔法は無し。

M6:??

M7:??

M8:??

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