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『理想戦争』 ~ビヨンド・ヴィルテリア~  作者: 中上スパ
第1章「ソテルはじまる」
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第4話「未来予知」T

 空気がうねる。

 それを知覚する頃には、エレアナが光を放ちながらナミダのほうへ飛んでいく。

 誰かが放った炎魔法とエレアナに挟まれたナミダが姿を消すと、こんどは格闘するフィリアとノヴァが視界に入る。体術に優れながら、ノヴァは武器を使うことを厭(いと)わず、見たこともない大きさの淡黄色の刀を振り下ろす。

 フィリアの美麗な茶色の髪をまとう頭に、今まさにその刀が……と、それじろじろと見つめる私の後ろからステラが水魔法を放つ。

「ヴィクター!」

 とっさに叫ぶと、ヴィクターとアルファン兄妹が撃った水魔法がステラの水魔法を飲みこみ、あまりの強さに辺りの草花をなぎ倒しながらデウスやデアのほうへと轟音(ごうおん)を響かせる。

 ナミダが雪のように冷たそうなごつごつした鞭(むち)とともに姿を現すと、自分の番と言わんばかりにエレアナが魔法(理想)を発動する。音速を超えて、相も変わらず波を生みながら攻勢に出る。

 ひゅぉん。鞭を振り、エレアナに先制するナミダ。エレアナが仲間のほうを振り返り腕を伸ばしたその瞬間には、あんなに強そうだった鞭が砕け折れ曲がりっている。

 ナミダがどこかへ消え、気付くと天上から槍状の武器が無数に降り注ぐ。

 ジェイルとマキナが手を合わせ(超魔法)空気を振ると一部の武器は空気の流れに乗って戦闘の場を避けていく。しかしこれは陽動。

 本命の大きな剣が私の頭上に降りかかる。

 私の上に覆いかぶさったエレアナの脚部に突き刺さった剣の柄頭(つかがしら)がひとりでにナミダの腹部に強打をうちつけるとナミダがひるむ。その一瞬の隙を見て放ったジェイルの空気魔法が、エレアナの力で激しい渦を生み、ナミダの体中の神経につきささる。

 ……ジェイル……!?

 ジェイル……どこ……? ジェイル……。

 どこかから叫び声。声のほうを見ると、グレイがウィルの黒い刃に刺し貫かれていた。

「お父様!」

 私が叫ぶ隣でメリオンやメリカも声を上げ、迷うことなく走り出す。

「ネオンさん!」

 こうなっては、ネオンの回復魔法を頼るしかない。ネオンはどこ。どこにいるの!

「くそぉぉっ……!」

 慙愧(ざんき)の念に叫ぶヴィクター。

「『茶髪の彼女』……デア……信じていたのに」

 ヴィクターから水があふれだす。再び荒川が生まれ、あたり一面があっという間に水没してしまう。こうなってはほとんどの魔法使いが手を出せない。ヴィクター達の最大の武器はここにある。

 混乱に乗じて、北側からレテアの金切り声が、デウスの隣からマキナの憤怒(ふんぬ)の叫びが、次々とこだまする。

 流されていく。ひどい恐怖とともに。

 抵抗するエレアナだが、魔法力が切れたよう。ソテルもジェイルも冷静でない。いや一番冷静ではないのは私自身だ。

 上空にゼロが現れる。呼応してコスモスが姿を現す。

 空中で向き合う二人。

 ゼロが、その手の先に炎魔法を構えた。『崩壊の炎』。


 私は目を覚ました。いや、違う、現実に戻ってきたのだ。ここは……ああ、いつもの職場だ。魔法局14階。

 カレンダーを見ると、今日は、西暦22222222221年、12月6日。

 今日は予知をマホ・ヴィルテリア局長に依頼されたのだった。そのために、特別に妹のエリカを呼んでいたのだ。

「シルねえ……?」

 エリカがおびえた顔で私の顔を覗き込む。きっと私のほうがおびえていた。

「ごめん、エリカ。だいじょうぶだよ」

 エリカに怖い思いをさせてしまった。妹を抱きしめた。赤茶色の髪がちくちく刺さる。

「グレイお父様のところに行きましょう」

 そうエリカに言って、そっと体を寄せた。

 力なく、エリカは頷いた。

 ……私だけは、ジェイルのことだけが気にかかっていた。


「シリカ。エリカ。だいじょうぶか……」

 グレイお父様が私とエリカの名前を呼んで、駆け寄ってくれる。ああ、お父様。

 お父様に予知の内容を話した。

 予知を見たお父様の反応は、私のものと同じだった。それでも、私たちの心配を最初にしてくれた。そして私たちは、3人でマホ局長に話をしにいく。

 エラ魔法王国、魔法管理局。

 ふつう魔法局と呼ばれるこの機関は、エラ中央政府、イグニクア中央政府に並んでこの世界に君臨する行政機関だ。最初は魔法使いを管理する機関だったから、魔法管理局。

 その局長は、イグニクア王やエラ王よりも権力と名声のある偉大な女性だった。

 マホ・ヴィルテリア。この女性は、世界でもっとも影響力のある人物だった。この世界はいま、ヴィルテリアによる世界として運営されているのだ。

 魔法エレベーターに乗り込む。茶髪というか、黄褐色の長い髪が魅力的な、ステラ先輩と同じエレベーターに。

「シリカさん。顔色が、優れませんよ。何かあったんですか?」

 ステラ先輩は優しい。私の動揺はきっと、顔に出ているのだろう。

 グレイお父様が一言「何もない」と伝えると、ステラ先輩はそれ以上追及してこなかった。彼女とは、35階で別れた。

 魔法局50階。局長室へと魔法色の通路をとぼとぼと進む。ノックをし、局長室へ入室。

「失礼いたします、局長」

「はい。シリカさんですね~」

 マホ局長が私に微笑む。このお方は私の恩人だ。グレイお父様の願いを受けて、私を16歳の若さ、初めての就職で魔法局という超エリートに受け入れてくださった。この『ヴィルテリア資本主義』の世界では、16歳で成人するときの最初の就職で、もっとも自分が理想とする仕事に就くことは難しい。学校や資格の世界では、そのために就職戦争が行われているくらいだ。

 エラ四貴族に生まれた自分。委縮もしてしまうけれど、何よりも胸を張って、誇りを持たなくてはならない。セリカお母様から、たくさんの教育を受けた。ノブレス・オブリージュについても、最近になってだけど、理解し、そして受け入れることができてきたように思う。

 私は、シリカ・フォン・リリアントという自分の名前を誇りに思う。

「お茶をいれますね。……あらあら、頑張ってくれたのはうれしいけど、大切な貴族服にシワがついちゃっているわよ。見せて見せて」

 何度も言うけど、世界でトップクラスの実力者であるマホ局長。世間の人がよくイメージするような怖くて薄情な権力者って感じではぜんぜんないのだ。優しくやわらかな雰囲気で、器量が大きい。局長のことを考えていると気が和らぐ。

「あっ、だいじょうぶですよ、じぶんで繕えますから」

 と恐縮すると、「そう?」とマホ局長は、隣の部屋に行ってお茶を淹れてきてくださった。

「ありがとうございます、局長」

 と、副局長を務める、グレイ・フォン・リリアントお父様は、礼儀正しくお辞儀をした。私とエリカも、それにならう。

 いただきます、と言ってお茶をすする。あつい! あつすぎるよー! でも私ももう大人なんだ。成人したんだ。魔法局員なんだ! こんなあつさには負けない。

「どうでしたか、シリカ」

 局長は私の方を向きなおす。

 局長のお仕事部屋は、一人用のオフィスとは思えないそこそこの広さがあった。それもそのはずで、壁は全部本棚になっていて、仕事に関連したファイルた資料、難しそうな本などがぎっしり並んでいる。客を迎え入れられるように、私達がいま座らせていただいているソファに机が用意されている。グレイお父様は、ここでお仕事をすることもあるらしい。副局長って、すごすぎるわ。

「はい。予知は、見えました」と私は言った。ぴん、と背筋を張って。セリカお母様が教えてくれたように、偉い人の前でこそ、ぴんとするのよ。

 今日のお仕事は、とても特殊なものだった。

 私が持つ予知魔法で、この世界の先を占ってほしい、というものだった。魔法があり、主の存在が虚構ではないと証明されているこの世界で、占いみたいに既存の科学の範疇を超えた営みも、真実味がある場合もある。

 マホ局長は、何より魔法を信じていた。彼女自身が著名な魔法学者であり、世界最強格の魔法使いでもあるのだ。そして、なんたって魔法を3つも持っている。炎、水、寿命操作の3つだ。この世界に長生き族と呼ばれる人たちがいるのは、彼女の寿命操作魔法によるものだ。

 そういうふうに、この世界のほとんどすべてに、マホ・ヴィルテリアというお方は関わっていらっしゃるのだ。

 そのマホ局長に魔法で頼られるだなんて、びっくりしたし、気が引き締まる思いだった。

「と言っても、私には理解しにくい内容でした」

「それで構いませんよ。私に、見せてください」

 その言葉とともに、エリカがマホ局長の手を取った。

 エリカ。私の愛おしい妹のひとり、エリカの魔法は記憶魔法だ。ふつう記憶とは時間が経つと共に移ろい、色を無くし、音や景色なんかのことを正確に覚えていられなくなるものだ。でも、記憶魔法使いにはその心配はない。魔法力を行使すると、コレ、と決めた自分の記憶を、いつまで経っても忘れずにいることができる。

 そして、記憶魔法使いは、優秀な人では、自分の記憶をそのまま、手を繋いだ相手に共有することができるのだ。

「行きます。局長」

 エリカとマホ局長の眼が、緑色に染まる。瞳というキャンバスに、緑色が映し出されたかのように。

 分かっていても、異様な光景ではあった。こんなに小さなエリカとあのマホ局長が、右の手を握りあい、瞳に光を宿し、沈黙を貫いている。局長は表情一つ変えない。局長も、あのめちゃくちゃな予知の中にいた気がする。

 やがて、エリカとマホの意識の結合、覚醒が解け、ふと我を取り戻す。

「……はい。お疲れ様でした、お二人とも」

 そう言って、マホ局長は、まずは私たちをねぎらってくれた。「超魔法とはいえ、おふたりの予知は恐ろしい精度ですね」

 局長は大きな椅子に深く座り直し、年齢に反して艶(つや)やかな顔面全体で私たちに笑顔を向けた。私が局長を尊敬しすぎなんだろうけど、なんだかもう、後光(ごこう)が差しているように見えた。

「把握しました。魔法局長として、あなたたちの仕事に感謝いたします。今日は退出し、お休みになってくださいね」

「把握したですと?」と、グレイお父様。「この予知を? こんな混沌(こんとん)としたもの、私には、いったい何やら、見当もつきませぬが」

「ええ、そうでしょうね。さて、グレイ、あなたはもうちょっと残ってね~」

 マホ局長には、私たちには見えない世界全体が見えている。それが魔法局の局長だから。

 私とエリカは退出し、副局長のグレイお父様は残らされた。


 結局グレイお父様の退勤を待って45階ロビーでエリカとふたりで休んでいた。

 開いたエレベーターの中には、グレイお父様がいた。お父様と一緒におうちに帰ろう。

 グレイお父様とエリカと三人で、魔法エレベーターに乗って1階に向かう。

「お父様、今日もお疲れ様」

 と言って、私はグレイお父様の手を握った。

「ああ、まずはおうちに帰ろう、シル」

 ウィルお父様が私の手を優しく握り返す。

 もう片方の手をエリカとつなぐウィルお父様。そのまま魔法局をあとにし、魔法道路を利用して家まで帰る。

「ただいま、みんな!」

 私はすでに学校から帰ってきてみんなでご飯を食べているであろう兄弟姉妹に帰宅の声をかける。

「ただいま」と、ウィルお父様も私に続く。

「お帰りみんな!」

 マリカが私に抱きつく。続けてイリカ、メリオンが私のもとに駆け寄ってくる。

「お父様もおかえり~」イリカが舌っ足らずな声で「ウィルお父様もおかえり~」お父様を迎える。

「ああ、ただいま、イル」

 ウィルお父様は、今日も優しい笑顔だ。


 私は、昔からグレイお父様と、亡きセリカお母様に大切に育てられてきた。大好きなお父様と一緒に働けるなんて最高の幸せ。2年後、4年後、またそのあとも、メリオン、エリカにマリカ、イリカが魔法局への就職を認められるとよいのだけれど。

 見慣れた私の部屋。もともとはセリカお母様の部屋だったから、とても広い。ふう、と息をついて気を休める。さきほどの予知を思い出す。

 だだっ広い草原地帯……イグニクア南かなあ。30人以上人がいたかもしれない。

 エレアナという印象的な人や、ウィルお父様やグレイお父様が、必死になって戦っていた。

 そして、ウィルお父様が、グレイお父様を刺し貫いて……。

 ……え?

 ウィルお父様が、グレイお父様を?

 ……ん、あれ? うーん……?

 まあ……気のせいか。今日はもう寝ましょう。

TOPIC……シリカ

名前:シリカ・フォン・リリアント

性別:女性

年齢:16歳

誕生日:22222222205年3月3日

出身:エラ中央区エリツィリア県

一言:家族のみんなことが大好き。シリカは『Thilica』だからTだよ。

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