↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
15/44

第14話「ゼロ」N

 ギルがM1だった。どうして? どういうこと?

 その事実から逃げるように瞬間移動を使った先にはイグニクア官僚の回復魔法使いがいた。寝かせてくれて、少しずつ心が落ち着いていく。回復魔法使いは肉体の治療のみを扱うが、それでも安心できた。

「ナミダ様、こちらのお薬を……」

 ありがとうの言葉が、喉から出てこない。強く頷いて、王様の侍女(じじょ)のくれた薬を飲みこむ。

「どうされましたか? ナミダ様」

「ありがとう」とやっと声を絞り出して、「……王を呼んで」

「承知しました」

 私は政府に就職し官僚になってから、アデルがもともと行っていた政務の一部を引き継いだ。エクスたちと王と一緒に、この日の為に避難計画を練っていた。

 あまりにも突然だった。8年の準備期間で恐れていた、最後の決戦の日は、こんなにもあっさりと訪れた。なんの前触れもなく。

 ああ、気分はサイアクだ……。気付かぬうちに目を閉じる。


 誰かの悲鳴で目を覚ました。

 周りを見ると、イグニクア城医務室。

 時を見ると、あれから35分。くそ……さっき飲まされた薬は、睡眠薬だな、たぶん。

 行かないと。でも瞬間移動は温存しないといけない。体調を気にしなければ……もっと言うと、自分の命を無視すればあと2回か3回程度使えるだろう。

 だが、エクスと約束した。もう命を奪うことはしない。それは、自分のことも含むよね。

 急いで駆け込んだ王の間には誰もいない。さっき、セラフィタスの3人と、M3サラティナとM1のあいつと、他にも誰かがいたはずなのに。

 みんなは無事だろうか。


 急いで階段を降り、城の外を目指す。見晴らしのいい城門(じょうもん)から、私は遠くの空に人間を見た。

 誰かが浮いている。そういう魔法?

 たぶんあの浮いているヤツは男だろうけど、遠すぎてよく見えない。あれはギルだろうか。

 目の前のメインストリートでは、今も逃げ遅れた多くの民衆が悲鳴を上げている。

 街が焼かれている。炎魔法使いが暴れたというよりも、太陽みたいな大きな炎が落ちて来て、街ごと炎に包まれたという感じ。あちこちで燃え盛る烈焔(れつえん)が、自然を、街を、そしてヒトを焼いていた。

 吐き気がこみ上げた。あそこの屋台の中にぐったりと倒れてるのは、死体だ。きっと、あの人だけじゃない。

 夕暮れに染まって赤く染まった空に、ぽつんと場違いな点が浮いている。太陽でも月でもなく、空中に浮かんでいるあの人間。

 その頭上から、本物の太陽のように大きな炎が現れた。炎魔法だ。

 私は走った。エクスは言った。『君には他にできることがあるだろ』。何もできないくらいならいっそどうなっても、夫と子供のために犠牲にだってなってやるのに。

 でも、死なない。エクスは、死ぬなと言ったから。

 走った。死ぬほど走った。走れ。走れ! ここで走らないと、みんな死ぬ! 痛くても考えるな。不安なことは、考えるな。みんなを信じるんだ。

 よちよち歩きしたあとのクオンみたいに転んだけれど、絶対に足を止めなかった。

 道中で数々の死体を見た。地獄だと思った。においもひどい。でも、絶対に足を止めない。 


 城から続くストリートの露店街(ろてんがい)中心地。

 やはり全員を避難させることは無理で、一般人も数人ここに居残っている。

「ナミダ!」と、避難作業を先導していたマキナと合流。

「マキナ! どうなってるの!?」

「ギルが死んだ。M0に殺されたんだ!」

「M0!? そんなのがいるの!?」

「名前もそのままゼロっていう男。M0ゼロ! 浮いてるアイツ。炎魔法で市街(しがい)を攻撃し始めてる!」

 マキナのほうがパニックだった。私がかつて空を飛んだときよりもずっと高い所にいるゼロという男が、東に向かって炎を打った。今の炎で、いったいどれだけの人間が命を落とすのか。

 事態は私が寝ている間に混乱を極めたらしい。ギルは死に、ゼロという名前の何者かが、世界を焼き始めた。想定されていた『8年後の襲撃』であるのに、私たちセラフィタスはなんの抵抗もできていない。

「やばい! どうするマキナ! デウスとエクスは!?」

「デウスは王とマホと一緒に避難指示中! エクスはクオンのところに行っちゃった!」

「……、分かった。私たちが止めないと」

 こちらに炎が飛んできた。大きすぎる。城を飲み込めそうな太陽が、私たちの目の前に。

「一発しか使えない。分かるよネ、マキナ」私もマキナも、魔法力が無限にあるわけじゃない。「……これ、城から持ってきた剣」

「オーケーだよ、ナミダ。私を信じて」

 マキナと手を繋ぎ目を瞑る。瞬間移動は、そして、手を繋いだ相手と共に移動できるという能力は、きっとこのためにあったのだ。

 ゼロが浮いているあの空。あそこまで、私とマキナを連れて行って。


 空気ががらっと変わり、地球に向かって落ちていく。

 ゼロ。

 目は合わない。彼はどこを見ているのか分からない。何も言わない。感情がない。怖くない。何もない。そんな男だった。

 落下が緩やかになるが、もう手は届かない。すべてをマキナに託したと思って、私だけは安全に下りないと。彼女が魔法で落下の手助けをしてくれるはずだ。

 マキナは空を飛ぶ。能力のある人間がやろうとすれば空を飛べるというのは、空気魔法の最大の武器だ。

 大きな剣を振りかぶって、勢いよくM0ゼロの胸元に迫る。

 しかしゼロはそこにはいない。瞬間移動だ。あいつも使えるんだ。

 一目で分かる通り、炎魔法の強さは信じられないほどだ。人間ではありえないような膨大な魔法力を持つ。そのうえ、瞬間移動持ち。

 ……はっきりいって、勝ち目が見えない。

 それを悟ったマキナが私のほうに強く腕を振ると、私はみるみるうちに落ちていった。

 ……え?

 理解ができない。マキナに殺される? なんで? このまま落ちたら死ぬ。

 瞬間移動は意味がない。この落ちる力はそのままだから、地上に瞬間移動してもそのまま身体を地面に打ち付けて終わり。そもそも魔法力がもうもたない。

 8年前、私の魔法を強化するために空の上まで私を連れて行って地上で受け止めてくれたあの時とはまるで違う。その真逆の状況で、私は、誰にも気づかれず落ちてゆく。

 長い落下だ。

 走馬灯というのは本当にあるだろうか。焦りとかそういう話ではない。何も分からない。死ぬんだろうな、というのは分かった。

 もう30秒は落ちている。もう1分は落ちている。あと1分は落ち続ける。長い。長い。

 不思議と恐ろしくはない。このまま落ちて死ぬのも、私みたいな汚れた人間にとって、ちょうどいい最期かもしれない。

 クオンはどこ? エクスはどこ?

 下を見ることなんてできない。落ちている間、空の景色は大して変わらない。現実とは思えない。赤い夕焼けに手を伸ばしても、主が私を救いとることはない。

 こんなんで死ぬのか? 何も私分からない。分からないまま死ぬ、死ぬ準備なんてないまま!

 ああ分からない、怖い! 怖い。さっきの冷静さはどこへやら、突然怖くなってくる。

 死ぬって、怖いんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。