第13話「22222221500.2.22」N
西暦22222221500年。クオンは6歳の年だ。託児所でできたエルネオという友達の話をよくしてくれる。
2月22日のことだった。
「まだ、メルアの動きはないね」
「マキナ……」
7年前、私は仕事を見つけた。セラフィタスの経験から、イグニクア中央政府の官僚になることができたのだ。しかも多くの仕事は持たず、たった週3の出勤だった。
エクスの稼ぎがすごいから、3人が生きていくには困らない。でも、エクスにも休みが必要。いろいろごねられたけど、仕事と育児および家事を2人で回すことに合意してもらった。
「セラフィタスという組織が空中で無くなって、もう8年だネ」
「M3サラティナ、M2アデル、あとM1……ほんっとに、8年間何もしないなんて……」
ここはイグニクア城、王の間。私たち4人が出会った場所だ。
「アデルには感謝しないといけないな、とも思っちゃうんだ。エクスに会えたのも彼のおかげだから」
「そうだね。私も、3人と……それと、クオンと出会えてよかった。こんなに生きていて、すごく美しい時間だ」
そういうふうにマキナと2人で話していたけど、振り向くとデウスがいた。
「うわっ! こわっ!」
「……久しぶりだな」
「デウスどこ行ってた? 半年ぶりくらいだね」
「刑務所にいた……」
「まだやってるの? どういう神経? あの、無理しないでね」
「ナミダ……」
「えっ、何、そんな見つめても……いや、顔こわ」
「……ありがとう」
扉が開く。
「ああ、最後になっちゃったか。待たせたね、みんな」
「エクス。エラからお疲れ様」
「ナミダ! クオンは元気に保育園に行ったかい? もう心配でさあ……」
「ええ大丈夫。午後迎えに行ってあげて」
「そっか。よかった」
4人が揃った。
王はいない。私が無理を言って時間を取った。
「私たちが最初に、M2アデルに集められたのが8年前の今日。……どうしても、センチメンタルになっちゃうからサ」
「いや、嬉しいよ。この日に会えて良かった。それに、ここまで来たら逆に8年後の今に活動再開というのが現実味を帯びてくる」
マキナは8年の間でずいぶん友達が増えたらしい。今までは友達を作るのが怖かったと言っていた。彼女は1000年以上の長生きなのだから、そんな変化が訪れたのは、きっとすごく良いことなんだろう。
「M1って、誰なんだろう」と言いながら、マキナは不遜にも王の椅子に座り込んだ。「8年間、私とマホとガイヴも何もしなかったわけじゃない。ガイヴ教と魔法局も感知できなかったみたい。もちろん、両国の政府も」
「そんなことができる者は、公的には存在しないはずだ。……うまく常人に紛れているのだ」
そう言うデウスは8年前とはほとんど変わらなかった。肌の感じとか、服のセンスとかも。
「ナミダ、そのピアス久しぶりに着けてるね」
「ウン、ナミダのピアス。まあ、記念だから」
私がピアスに手をかけていると、突然眼前に黒いものが現れた。マキナが真っ先に反応し、黒い何かが飛んでいく。
「あー、っぶな! お前、強くなってんじゃん!」
「えっ……まさか……」
「えっ?」
予感もないままだった。襲撃者は2人。M3サラティナと、もう1人は男。
「誰……!? えっ……」
びっくりして、言葉が出ない。突然私の目の前に現れ、一振りで私を殺そうとしたその人物の顔は、エクスによく似ていた。
「ナミダ。久しぶりだな」
「……!」
まるで心臓を刺し貫かれたような心地だった。全身の力が抜けていく。
「ギル……?」
「俺はM1としてよみがえった。ナミダ、お前と生きていくために」
ギル。私の彼氏だった男。ジュエル先輩と浮気をして、彼女を道連れに死んだ男だった。
「なんで生きてるの……?」
私の声が、彼に届くほどの大きさだったかは分からない。
怖い。息ができない。
あまりにも突然すぎた。これは現実なの? こんなあっさりとした筋書きで、こんな出来事が起こっていいの?
「大丈夫だ、ナミダ」
「エクス……」
落ち着かせようと背中に手を置いてくれるエクスの感覚。それに沿うようにギルになじられているみたいな感覚が這う。ギルとエクスは似ていた。
背の高いギル。顔に大きな傷があった。あの時のギルとは、全く違う姿に、違う声だった。それでも私には、ギルだと分かった。
「私たちを殺すつもりだね」
「マキナ。覚えているよ、アンタのこと」
「……M1ギル」デウスは、武器を持っていない。「おまえは……やはり、『楽園』を目指すのか」
跳び蹴りをするマキナをはらいのけてギルは、「分かってんなら聞くなよ」
その声。あの時から変わっていない。
「ナミダ。お前と生きていける世界を、作り直すのさ」
エクスの手を握っている。大丈夫、エクスはあたたかいこんなにもあたたかい。
「ナミダ! 大丈夫か。君は逃げろ。君には他にできることがあるだろ」
頭が回らない。
扉が開く音がした。誰か来た。
「マホ!? それに……ガイヴに、ディオネ大司教……」
分からない。誰? 人が多い。たくさんの人が一斉に口を開く。
『君は逃げろ』というエクスが言っていることが、いつになっても分からない。
アタマがぐちゃぐちゃのまま、瞬間移動を行った。




