第11話「2つの大陸/活動停止」D/N
「マキナ」と私は言った。
「なに、デウス」
「おまえは……どこを目指している」
「え?」
エクスとナミダを見送ってサラティナを預かり、マキナと共に城まで歩いて行く。さきほどの戦闘があった広場から城までは徒歩1分程度だが、気を失った成人女性を担ぎながらというのは案外苦しかった。
城は閉まっており守衛がいたが、私とマキナは入ることが許された。
この世界には2つの大陸がある。イグニクア大陸と、エラ大陸。イグニクアでは学問や技術が、そしてエラでは魔法が発展していた。しかしイグニクアの強みは、85震災によってかなり消えた感じがある。
そして、この世界には2つの国がある。イグニクア王国とエラ魔法王国。どちらも王制を敷くが、国や政治の実態はかなり異なる。
「どこを目指しているって、どういう意味? デウス」
「マキナ。おまえは……。いや、私には分かるさ。おまえのような人間は、強い信念を持っているはずだ」
「どういう話? ねえ」
「……まだ、私にはすべてを話す気にはならないか?」
「……べつに。誰にだって、話す気は無いよ。たとえ、マホにも、ガイヴにもだって」
マホやガイヴというのは、マキナの知り合いの名前だ。
私はマキナのことを、そしてマキナは私のことを信頼していないのだと思った。エクスとナミダの方はあんなにも信頼しあっているのに、私達は常に一定の距離を保っていた。
そして私達は、サラティナの身体をアデルに引き渡した。
「エクス、ナミダ。なんで2人とも目赤いの? そんな顔……ぷぷ」
と笑うマキナは、私がエクスのことを好きなのを知ってるはずだった。これは、すっとぼけマキナだ。
「ちょっと夜更かししすぎちゃった」
そしてこれは、すっとぼけナミダだ。
「……」と何も言わないで隣にいるのは、とうぜん、興味なしデウスだ。
私とエクスは宿で語りあった後、泣いて、イグニクア城までやってきた。
「皆さま」とアデルが言った。「M4に続いてM3の正体までも突き止めることができたようですね」
「できたようですね、じゃなくてサ。そろそろ、もうちょっとイグニクア側が知ってること教えてくれない?」
「そうだね」と、エクスも私と同じ気持ちみたいだ。「こっちなんて、デウスの魔法を使うこともできるんだけどな」
「エクス様らしくありませんね」
悠々とアデル。うざいな、と感じる。「わたくしにも立場がございます。もう少しで、なにもかもをお話できるようになりませうので」
「半年前からそうじゃん」と言ってマキナがぐいと距離を詰める。「私、あんまあなたのこと好きじゃないな」
それに私も「私もそうかもネ」と続く。
「……」
興味なしのデウス。
「とにかく、たいへん、お疲れ様でございました」
「ちょっと待って、それだけ? ナミダなんて涙ぐましい努力でここまで来たんだけど」
「いやマキナ、そこまでじゃ……」
「いや、そこまでだよ。エクスもだけどね」
「……マキナが一番だよ」エクスがいつものあたたかい顔を見せる。なんて良い男なんだ!
「ふふ」と、アデルが笑った。「いえ、それだけではございません。……わたくしが誰だか、お気づきですね」
……え? 私とエクスが顔を見合わせる中、デウスが言った。「ああ、アデル・ダ・セラフィス。おまえの正体は、メルアのナンバー2、M2だ。そして……」
「ええ、そうです、わたくしは、M2でございます」
アデルは笑って、両腕を大きく広げ、高らかに言った。
ぶきみだ。すごく。
「メルアは宣言します。8年後まで、メルアは活動を停止します! では、これにて」
デウスとマキナが止めようとするも、アデルの足元の床が抜け、アデルが地下に落ちるのと同時に閉じられる。あっというまに、この会議室には静寂が訪れた。
「……え? 待って、意味わかんないんだケド。詳しい話、教えて」
M2はアデルだった。マキナとデウスは、何故それを知っていたのか教えてくれなかった。
結局、イグニクア城の中でアデルを見つけることはできず、その日はマキナの誕生日を祝うことになった。そんな悠長にしていていいのか、とも思ったけど、私達は完全に行動指針を失っていた。それに、私達4人をセラフィタスにしたのは、アデル自身だった。彼がいなくなったら、私達はセラフィタスではなくなった。
「いやあ、不思議なキモチだね」とマキナはガツガツと白米を食べていた。「拍子抜けって言うか」
「でもさ、メルアの人に、メルアは活動休止します、とか言われても信じられなくネ?」
エクスが頷いて「それは本当にそうだ」と言いながら苺パフェをぱくぱく食べている。エクスはすごい甘党だ。
イグニクア城から歩いて3分くらいのところにある特大食堂と名のついたこのお店には大陸中のすべてのジャンルの食べ物の飲食店が入っていて、こういうパーティーごとの時によく利用されている、イグニクア人にとっては都会の象徴みたいな場所だ。
でも、マキナとはずっとずっと友だちだった。
マキナは、自分の過去について話してくれた。マキナは、1300年以上を生きているのだという。数々の別れを経験してきたマキナがこんなにも自分の過去のことを話してくれるのは、とても珍しいんだって。それだけ、私を信頼してくれたんだ。
「嬉しいんだよ、私」
「ん? どした、突然」
「いや、ナミダ。今までこ私の過去のことを何度も人に打ち明けたことはあったんだ。でも大体の人は怖がっちゃってさ、気を遣ってくれるのは分かったんだけど、どうしてもそれまでみたいに仲良くするのは難しかった。ナミダ、エクス、デウス。君たちが初めてなんだよ」
「そーなの? いや、マキナのいいとこジャン、それって! お」
「おばあさんじゃないけど」
「あは」
マキナの知り合いのマホ・ヴィルテリアという女性は、寿命操作魔法使いだ。人の寿命を吸い、誰かに分け与えることができる。その力を持って、彼女は圧倒的な権力に君臨していた。
「私、ずっと寂しかったんだ。これ、ほんとだよ。ほんとに、悲しかったんだ。……あ、泣いちゃいそう」
「ええっ。いいよ、今はエクスはエラにいてゼッタイ帰ってこないから、誰にも見られないよ!」
「はは、ありがとう。いや、ほんとにうれしいんだ、私。こんな、なんていうかな……純真で豊かな友達なんて、もう、体感では1000年もいなかった。ほんっとにうれしかったんだ。最初に過去のことを打ち明けるときは怖かったんだけど、まだまだ世界捨てたもんじゃないって思うよ」
「あは、ありがと、でもこっちこそ嬉しいよ、マキナ、最高のともだち!」
「このままずっと幸せに生きていきたい。メルアも、あと8年と言わず永遠に休んでいてほしいと思う」
「ほんとだよネ」
「……あのさ、ナミダ」
「ん? 何、マキナ」
「エクスと結婚すれば?」
「ええっ!」
「あのさ、私たち知り合って10か月でしょ。あなたと彼も」
「……ウン」
「もう3か月以上、両想いって分かってるわけじゃん。そんな状態でやっぱり事実として進展がないって、まず私がもどかしくてさ。いや、分かるよ? その時間が楽しいのは」
「あははっ」
「え、何、笑うとこ?」
「いや、ごめん、私とエクスがほんとにそうでさ。できることなら今すぐにでも付き合って安心したいよ? でもさ、私たちってやっぱり特殊な役目があるから……そっちをおろそかにしちゃいけないジャン」
「なんていい子~!」
「うわ、そんな撫でるナ、このウェーブけっこう作るの大変なの!」
「そっか~、じゃあ、うーん……1年待っても何もなかったら進むってどう? そこまで持てば、アデルの言葉も信憑性出てくると思う。それでも7年は結婚生活ができるよ。それで、私たちが負けるわけなんてないでしょ? それからもずっと、それでいこうよ」
「え~、うーん、1年も待てないなあ~、このジレンマはずっと悩んでるんだ。セラフィタスの使命と、私の心の板挟み」
「……まあ、エクスも同じ気持ちだろうから。てか、ナミダたちなら大丈夫だと思うけど、それで喧嘩とかしないでね! 見たくない、見たくない」
「しないしない。約束するよ。うーん、まあ、じゃあエクスが言ってこない限り、アデルのことから1年経ったら……ちゃんと話すよ」
「うん、応援してる! ふふ、楽しみだ!」
私は殺しの仕事をやめた。
TOPIC……複数の語り手
同一エピソード内で複数の語り手がいることがある。最初にデウスが語り、その後ナミダが語るという場合、D/Nと表記される。語り手が変化する時は必ず1行の空白を開ける。ただし、同一の語り手のまま、場面や時間が変わるときにも1行の空白を用いるので注意。




