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『理想戦争』 ~ビヨンド・ヴィルテリア~  作者: 中上スパ
第2章「似てるふたり」
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第10話「ギル」N

 ちゅんちゅん。鳥の声。

 ああ、よく寝た!

 隣のベッドでエクスが寝てる。そうだ、宿を取ったんだ。窓の外を駆けて行く子供の声が心地いい。ちゅんちゅん、小鳥ちゃんもいます。体力も回復していて心地いい。

 昨日のことを思い出す。エクス、私のこと、好きとか言ってたケド。

 ……あんなことがあると、センチメンタルにならざるを得ない。

 私とエクスは同い年で、27歳。

 12年前、少女15歳。ナミダは涙したよ、もう。

 あの時のことを思い出す。


 ちょうどエラの魔法学校を卒業する年。15歳。あの時の私はまだ小さな小さな女の子だった。いや、思い込みかも。

 私は、ギルという男と付き合っていた。年上で、20歳だった。大人に憧れていた。

 男前だった。背の高いエラの平民。身分が近く、話が合った。

 出会いは図書館。私は宿題をやらなきゃいけないだけだったが、彼は仕事のために本を探しているのだそうで、理知的に見えた。似た本を探していて、それもあって初日は一言話しただけだった。次の日に急激に仲良くなった。

 ギル・ア・デンスタン。

 予知魔法使いだった。ギルを前に恥ずかしがっていた私が飲み水をこぼすのを予知したギルが、流れるように私をフォローしてくれたことがあった。その時に手が触れたこと、あの気持ちは、あんなことがあった後でも忘れることができなかった。

 やがて、いやすぐに、私は恋心を自覚した。あんなにも純白だった。

 女の子心を抑えつけられず、すぐに気持ちを伝えると、あっさり恋仲になることができた。世界中が幸せ一色に変わる。

 半年ほど幸せな日々が続いた。大好きだった。一生この人と過ごしていくと信じて疑わず、友達や家族に自ら言いふらした。無垢(むく)な少女時代だった。

 私は16歳になり魔法学校を卒業、素点(成績)もそこそこで特殊な希望も出さなかったため、定員の多かった食品を扱う会社に入った。

 良い会社で、会社には中流貴族もいた。その一人である20歳の女の先輩、ジュエル・ア・キャピュレという人に良くしてもらい、これほどの仕事先はない、一生ここで働こうと思った。大好きな先輩ができた。

 やがてあんなに憧れだったジュエル先輩が調子が悪いと噂され、仕事中に私の前でさえもつらそうな顔をしていた日があった。

 どうしたんですかと尋ねても、すごく気を遣われてはぐらかされた。踏み込むこともできず、無理に心配しないで元気になるのをお祈りしようと、無垢な私はそう思っていた。

 その前日に先輩の最後の肉親のお母さんが亡くなっていた、ということを先輩が死んだ後から知った。そのことを聞いた時の私のやりきれない激しい無力感と虚無(きょむ)感は、強く私を動かした。

 ある休日、家デートに向かうと、ギルが死んでいた。

 どうみても自死だった。激しい感情に呑(の)まれ、すぐに瞬間移動で逃避したのち4時間泣いた。

 何も分からないまま、何も気持ちが区切れないまま平日になり、ジュエル先輩が死んだという報(しら)せを聞いた。

 ふたりの人間の死から数えて4年前、私と出会うはるか前。その時から、ギルとジュエル先輩は付き合っていたらしい。

 ギルは憎くも、私のために手記を残していた。

『ジュエルと浮気をした。ジュエルも君もこのことは今は知らない。だが俺は、君たちが争う予知を見た。ひどい争いになって、俺たち3人の何もかもがめちゃくちゃになる夢を。俺のせいだ。こんなことをして逃げる俺を許してくれ』

 ジュエル先輩は母の死と恋人の裏切りによって死に追い込まれたみたいだった。一人で死んだのか、殺されたのかも分からない。めちゃくちゃな話で、細かいことは分からなかったが、知ろうとも思わなかった。 

 ちびの私は、衝撃を受けた。


「似てるなあ~顔……」

 ごろん、と私はエクスの寝顔を見つめた。「もう、アンタの名前は呼ばないケド」

 似すぎ。

 血縁は絶対にない。主が私を馬鹿にしてるんだろう。そうとしか思えない。

 あの時から主の存在は信じていない。でも、信じてみてもいいかもしれない。そう思う。

 結局、私はジュエル先輩を弔(とむら)いたいと思った。彼女は亡くなったお姉さんが欲しがっていた高価な指輪を買うために仕事を頑張っていた。じゃあ私は金を稼ごう。そう思って、準備を整えて17歳で殺し屋を始めた。

 殺しをする必要はあったかは分からない。だがあの時の私はギルと先輩を失って正気じゃなかったし、エラの王様が変わる前のあの当時の賃金体系は終わっていて、豊かに生きるためには、瞬間移動という魔法を持つ私には、天職と言えなくもなかった。エクスも、殺しが一番稼げるこの世が悪いと言っていた。

 11年間で、人を殺して金を稼いだ。エラ魔法王国の偉い人から指示されて官僚を殺すこともあったし、軍に依頼されて、凶悪な犯罪者を殺したこともあった。善良な市民を殺せという依頼は、断った。

 イグニクア王国のほうでは、特に殺し屋稼業が成立してしまう。魔法管理局につかまればそれで終わりだが、昨今のエラ魔法王国に対する政治的イデオロギーを発端とした依頼が多かった。対処しきれないほど。同業者との接触の経験もある。その度に瞬間移動で逃げた。

 そしてその間に、85震災を経験する。私の両親は死んだ。あの震災の後、依頼は増えた。

 ちょうどアデルに招待されセラフィタスが結成される3日前に、指輪を買えるだけのお金が貯まった。まだ購入していない。

 もし、この仕事の報酬の5000万という金額が手に入ったら、私はどうするつもりなんだろう。でも、私には確実にお金が必要だった。

「ふあ」とあくびをする。

 エクス、めっちゃ寝てるなー。

 実は依頼の中にはアデルの暗殺もあり、彼とはそこで知り合った。依頼額より高額なお金をイグニクア王国側から提示され和解した。アデルは私の人格や魔法を高く評価していたが、だからと言ってセラフィタスに選ぶか? その理由はまだ分からない。なんで教えてくれないの? セラフィタスみんな、最初の顔合わせではアデルとは無関係ですという顔をしていたが、後になってみれば、アデルも含めて全員が全員、滑稽(こっけい)な芝居をしていたのだと分かった。

 アデル。イグニクアのシーカーとかいう職業で、デウス、エクス、マキナの3人も同じく彼に集められたのだ。みんな訳アリっぽいのは見て取れる。でも、メルアとかいう組織を滅亡させるという話も、そのほかのことも、何もかもが全く納得できない。

 でも、もっと納得できないことがある。

 デウスとマキナがこの活動に順応する能力が高すぎる。こわいって。

 エクスはすっごく共感できる。アデルに集められてから半年。私とずっと困惑しながらまずメルアの基本情報を集めていた。

 メルアは4人の構成員から成る犯罪組織だ。構成員にはエライ順にM1、M2、M3、M4とコードネームがついている。メルアのM。M4グラティハは死んで、M3サラティナのことも昨日追い詰めた。

 人殺しは楽しくない。私はそう思う。何か、強い目的があるんだろうか。メルアたちはすごく強力な魔法を使い、人間の滅亡を活動目標に掲げている。意味が分からない。

 M4はエラの王だった。故郷で一番エライ人が悪い人だったので、いよいよこの世界はしんどい場所だなと思う。

 ……エクス。

「君がいてよかった」と言った瞬間、エクスが起きた。無意識に口に出ていた。そんなやついる? 顔が熱くなる。

「ああ、おはよう。元気になった?」

 エクスこそ。

「身体、元気になったよ! エクスのおかげ。ありがと」

「よかった。何よりだ。……さて、支度を整えたらアデルのところに行こう。デウスとマキナも待ってるみたいだし」

「おーけー。……あのさ」

「なんだい?」

「昨日の夜言ってたこと、覚えてる?」

「全部覚えてるよ。それが?」

「ウーン……」

 不思議な男だネ~。昨日、好きって言いあったんだよ、私たち。

「私がなんで殺し屋やってたか、そろそろ、隠してる場合じゃないなって思うんだケド」

「……ああ」

「キライにならない?」

「場合による」

「……イイね、好き」

 私は、長いあいだ黙り込んでしまった。誰かにこの話をしたことはない。両親は死んでしまった。

「……じゃあ、僕の話を先にしようか?」

「え? どういう話?」

「短い話さ。あのね、ナミダ。君は妹に似てるんだ」

「え? ウン、続けて?」

「その喋り方とか、しぐさがね。彼女は7年前に亡くなった。85震災でのことだった。あのとき、僕は水魔法もあいまって、海を作ってしまうくらい泣いていた。10時間くらい泣いた。丸1日泣いた」

「そっか。わ~~。85震災ね。似てるね~」

「似てる?」

「こっちの話。続けて?」

「もう続かないけど、最後のオチだけ。僕は、ありがたくもイグニクア最強の水魔法使いって言われてるけど、それはその時、妹の死を悲しんでたくさん泣いたことが原因なんだ。丸1日泣いていたら、涙……つまり、水に触れすぎて水魔法が強くなった……っていう話さ」

 あっ、と、えっ、の間くらいの大きな声が出た。

「魔法って、そんな風に強くなることもあるんだね。……でもネ、そんなにつらい気持ちになるの、すごく分かるよ」

「それは、そっちの話?」

「ウン。あのさ、妹さんってどんな人だった?」

「さっきから言っている通り、君に似ていた。名前はカイ。3歳下のいい子で。貧しい家だったから、やるしかないと2人で勉強を頑張った。あるとき、一緒に海に行ったら、夕日がもう美しくて。遠くに見えるエラ島に憧れを感じた」

「あ、エクスが冒険好きなのって、そういうこと?」

「ちょっと恥ずかしいね。……あのときカイと見た海の景色の中にいて、僕たちは冒険家になろうと約束したんだ。地理の勉強は得意だった。あの夕日の向こう側までたどり着こうと、そう笑っていた」

「その時から、冒険するために生きてるんだ。……ねえ、エクス、主って信じてる?」

「震災の時から信じなくなった」

「はあ。似てるね~~~」

 私はもう唸るしかなかった。

 突き動かされて。私はエクスを抱きしめた。

「……ごめん。ちょっと休もうか?」

「ごめんじゃない。あと、エクスいま起きたばっかジャン」

「そうだね。ありがとう」

 寝起きのエクスはぽかぽかしていた。私はぽかぽかしていたかな。

 無言の時間が長く、あとから緊張が襲ってきた。ヒトって不思議。

「……じゃあ、私の話していい?」

 朝の支度をして、私たちはそれからしばらく語り合った。ギルのことも、全て打ち明けた。

TOPIC…水魔法

水魔法使いは、魔法によって水を生み出す。

一般的には純粋な水を左右どちらかの手の先から生み出すが、生まれつきの特性や訓練によって、足先など身体の様々な部位から水を発生させることができる者もいる。

魔法使いの体内から水が出るのではなく、空気中の魔法分子に働きかけ状態変化を起こし水分を発生させるとされている。

水魔法使いの生み出した水は工場用水や、上下水道の整備に利用される場合があり、十分な水を生み出す魔法力があれば、それを提供することを職にしている者もいる。生産などに水を大量に使用する産業は、水魔法使いを採用において優遇することがある。

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